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第二話 世界の現状


「ッ! ここは·····」


 目を開いて真っ先に入ってきたのは大理石であった。ほんのりとした冷たさを帯びていて、汚れなど一つもない。


 どうやら青白い光に包まれた後、一番早く起きたのは雪だったようで、辺りには慧馬たちも倒れていた。


 少しづつ重い上体を起こしていくと、ざっと十人ぐらいの白い西洋の甲冑を身につけた兵士が雪含めた五人を剣を大理石につけながら囲んでいる。見るとここはある一室のようで、広さは教室一つ分程であった。


 すると、雪が目を覚ました事を確認した兵士の一人が声をかけてきた。


「ようやく、一人が目を覚ましたか·····」


 その低い声音が静寂を纏うこの一室に響き渡る。その声に雪は少しビクッと肩を震わし、おずおずと顔を上げた。


  「おお、すまん。怖がらせるつもりはなかったんだ。許せ」


 兜を外しながら、兵士が謝罪する。その時見せた笑みは決して慧馬のような爽やかさはないが、陽だまりのような温かさを与える。不意に"父"と感じたのは雪の気のせいだろうか。


 そんなやり取りに反応し、珠鈴が目を覚ます。


 「ん、んんぅん」


 珠鈴が可愛らしい声をあげながら、上体を起こし、辺りを見渡す。当然、自分を囲んでいる兵士たちに驚くわけで


  「えっ!? ちょ! えぇぇ」


 甲高い声をあげ、肩を抱きながら静かに後ずさる。どうやら誘拐されたのだと勘違いしたらしい。しかし、どう見ても日本では見られないこの光景に、その考えは打ち砕かれ、今はと言うと放心状態である。


 その騒ぎに次いで茜も目を覚ましていく。


 「えっ!? ちょ! えぇぇ」


親友だからか、珠鈴と同じ驚き方をした茜が、やはりこの非常識な光景に目を疑う。


 しかし学年、いや学校中の憧れの的である茜様は、すぐに落ち着きを取り戻し、冷静に辺りを観察し始める。すると、放心状態でポケ〜としている珠鈴を発見。どうしたものかと近づく


 「ねぇ、珠鈴どうしたの?」


 辺りの光景について考察するよりも、親友を起こす方が先決だと思ったのか、意識を呼び戻そうと必死に肩を揺さぶる。


 「ああ、あかね〜、もう私ダメみたい」


 そんな茜の必死さのおかげか、珠鈴が意識を取り戻したのだが、第一声がもはや遺言みたいな感じになりつつあるので、茜が急いで正気を取り戻させようと、珠鈴の頬を平手打ちで叩く。


 「珠鈴ダメよ! こんな現実に打ちのめされちゃ! ほら私も居るからね? 目を覚まして!」


 数発叩いたところで頬を赤くしながら正気を取り戻した珠鈴が恨めしい目で茜を見つめる。


  「いひゃいよ〜、あかね〜」


 赤く腫れ、ヒリヒリする頬を擦りながら珠鈴が文句を言う。しかし、茜は正気を取り戻した珠鈴に喜び薄く涙を浮かべて、抱きつく。


 「何だこれ?」

 「さぁ?」


 どうやら既に目を覚ましていた慧馬と海斗が揃って首を傾げる。周りの兵士たちに気づく前にこのやり取りに目を奪われたのだろう。そんな海斗たちと同じく困惑している兵士たちに、直後、ようやく気づき驚きの声をあげた。


 全員が目を覚ましたことを確認した先程の兵士が、苦笑いをしながら頷き、右手を上げる。


 それを合図に十人ぐらいいた兵士たちが揃って部屋を出ていく。突然退室した兵士たちに驚きながら、雪が恐る恐る右手を上げ質問する。


 「すみません。ここって地球なのでしょうか? ·····」

「質問か·····それについては我が王が説明する。これから案内するから着いてくるように」


 真剣な顔つきで返答した兵士が、大理石に突いていた剣を腰に差し、急にニカッと笑う。


 「よし、言うべき事は伝えた。次は自己紹介だ。俺の名はオーディー=ウォーだ。·····ほら次!」


 唐突な自己紹介に驚き、全員が困惑していると、いつまで経っても来ない自己紹介に痺れを切らし、オーディーが慧馬を指さす。


 「はいッ! 慧馬です!」

 「ケイマか·····よしっ次!」

 「茜です·····」


 茜も苦笑しながらも自己紹介する。いつの間にかオーディーの陽気さに全員がつられていっているようだ。


 「海斗です。よろしくお願いします」

 「珠鈴だよ!」


 珠鈴が自己紹介を終えた所で、しかしオーディーが初めて困惑顔を見せた。


 「ありゃ、何で()()居るんだ? ·····まぁ、いいか·····次ッ!」


 最後に指された雪が、オーディーの様子を訝しげに見つめながらも自己紹介をする。


「·····雪です。·····」


 全員の自己紹介が終わったところで、オーディーが満足そうに「よしっ」と頷く。


「それじゃあ王の元へと向かうぞッ!」


 オーディーの様子に終始呆気にとられた五人であったが、陽気なオーディーに心を開き後を着いていく。


 だが一人、雪だけは何処か先程のオーディーの言葉に引っかかっているのか困惑気味であった。


 大理石で出来た廊下を六人が歩く。オーディーを先頭に慧馬、海斗、茜、珠鈴、雪の二列体制だ。


 必然的に雪が一人で後ろなのだが、そんな雪はと言うとオーディーへの疑惑、この現状の正体へのワクワク感が心で渦巻いている。


 雪は、推しキャラ(女性)を嫁というぐらいのオタクっぷりである。当然の事ながら、このような現状も心当たりはある。


 "異世界転移"という一度は憧れたファンタジーものだ。だがしかし、小説には今のような状況もあるのだ。そう、巻き込まれて召喚されたケースである。先程のオーディーの発言


 『ありゃ、なんで五人居るんだ?』


 この言葉が頭から離れない。


 雪は四人を助けようとあの光へと飛び込んだ。もしかしたら·····という事がある。


 先程からすれ違うメイドさんたちも訝しげに雪たちを見つめてくる。余程五人という人数が不思議でならないのだろう。


 「着いたぞ」


 しかし、考えがまとまる前に、王とやらが居る部屋に着いたようだ。焦る気持ちを抑えて、雪は開かれた扉にへと足を踏み入れる。


  「わぁ〜綺麗」

  「本当ね。これは凄いわ」


 入って真っ先に目に入ってきたのは、赤のカーペットだ。金の装飾が施されたそれはシミひとつ無く広がっている。床はもちろんの事大理石で、先程の無機質な部屋とはうって違ってこれまた金の装飾が施されているシャンデリアが部屋を照らす。


 奥には、玉座に腰を下ろした中年の男性が居る。多分だが、彼がオーディーの言う"王"なのだろう。だが、ここで意外なのが彼の横に女の子が立っている事だ。


 二人とも金髪である辺り、親子なのだろうがまさか姫までもが出席されてるとは知らず、オーディーが慌てて頭を下げる。


 「これはシュタル姫殿下。失礼します」


 すると、シュタルと呼ばれた女の子が笑みを浮かべて、オーディーの頭を上げさせる。


 「そんな畏まらなくても·····今回は勇者様がいらっしゃるという事なのでお父様に無理言って来ただけです」


 シュタルは綺麗な碧眼を雪たちにへと向け、自己紹介をする。


 「挨拶がまだでしたね。私の名前はシュタル=キーク。キーク王国第一王女です」


 金髪碧眼の美少女であるシュタルが丁寧にお辞儀をする。


 その姿に慧馬たちが揃って見惚れてしまったのだが、隣でギンっと殺意を向ける女性陣に背筋を凍らしたのは言うまでもない。


 次いで、玉座に座った金髪をオールバックにした男性が挨拶をする。


  「我が名はガシュ=キーク。キーク王国現国王だ」


 この場に居る二人の自己紹介が終えた所で、オーディーが前へ進みでる。


 「王よ。彼らが異界から来たれし勇者でございます」

 「おお、しかしオーディーよ。何故に五人も居る?」


 雪の疑い通り、五人というのは異例であるらしい。それはガシュの困惑した顔を見れば一目瞭然である。見れば、シュタルも顔に手を当て「あら」と小首を傾げている。


 「それについては、私も何とも·····しかし王よ、貴重な戦力です。困ることは·····」

 「うむ。そうだな。·····では、勇者たちよ、気になっていただろう。早速だが、本題に入らせてもらう」


 オーディーたちの会話についていけてない雪たちのためにとガシュが説明する。


 「察しているかもしれんが、ここはそなたらの元いた世界では無い。我らが住まうこの世界の名はミソレジー。かつては神々と共に協力し大きな一つの国家として平和に暮らしておった」

  「かつて?」

 「そうだ。遥か昔·····神話の時代。神を越えようと己の人生を捧げた馬鹿な男がおった。元々大きな才能の塊であった男は、長い年月を経て神殺しの力を得たのだ·····」


 その言葉に全員が息を飲んだ。地球でも不死として語られる神を殺せるという力を持つその男に、戦慄したからである。


 「手始めとし、男はこの世界に住まう全ての神々を殺そうとした。しかし神の強大な力故に殺す所まではいかず、両者深いダメージを負った。だが、男は最後の最後で疲労している神に向け禁術を放った。その術は封印術という」


 そして、ガシュの顔が暗くなる。


  「以来数百年。神は封印されそれぞれ神殿の奥深く、各地で眠っている。我々は、神をどうにか復活出来ないかと試行錯誤したのだが·····」


 悔しそうに握りこぶしを作る。わなわなと震え玉座を思いっきり叩く。


 「どうにもならんかったッ! 我々の力では神殿の奥深くに眠る神に届きはしなかったのだ! そして、何とかできまいと国を上げ古文を調べ、唯一の案がお主ら勇者を召喚する事であった。古文によると、かつて我らの祖先は異界から神と共にこの地に降りたのだという」


 ゆっくりと玉座から腰を上げ、静かに慧馬たちの元へと向かい、そして話を聞いて呆然としている慧馬たちに向け、頭を下げた。


 「王よッ!」


 一国の王が頭を下げていることに、全員が驚愕を隠せない。しかし、そんな視線など知らんとばかりに、ガシュが続け様に語る。


 「本当にすまないと思っている。しかしこればかりはどうにもならないのだ。どうか力を貸してはくれまいだろうか·····」


 頭を下げられた慧馬はどうするものかと、視線を巡らせた。しかし、それを見たガシュは頭を上げ、再度謝罪する。


「いや、すまぬ。急な話に整理がつかぬだろう。配慮が足りなかった事謝罪する。各自に部屋を与えるので一晩そこで考えては貰えないだろうか? こちらの世界はそこまで余裕が無くてな、気が回らんかった。オーディー」

 「はっ!」


 胸に手を当て敬礼するオーディー。そして、戸惑っている慧馬の背中を叩く。


  「よしっケイマ。部屋を案内するからな! 他の奴らも着いてきな」


 雪たちは、この"世界の現状"についての片鱗に触れてしまい、部屋に入るよりも困惑が隠せない様子であった。

ユーザー以外も感想などかけるようにしましたので、ダメだしや賞賛など感想をしてくださると嬉しいです

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