第二十七話 思わぬ再会 後編
ゆっくりと意識が覚醒していく·····。
「ここは?」
雪が痛む頭を擦りながら、辺りを見渡す。
どうやら縄は解かれているようで、微かな跡が残っているだけで、目立った外傷はない。
辺りは、間違いなく王城であった。召喚されたその日に訪れた部屋――謁見の間。
いつ見ても豪華な内装に思わず見蕩れるが、しかし周りを見て我に返る。
光一つ写さない瞳をした国王――ガシュとシュタルが例の如く玉座に腰を下ろし、雪の周りにはクラスメイトである四勇が囲んでいる。
「雪·····」
心配の念を含ませた声で、珠鈴が呟く。
その声に続き、慧馬が警戒心を大いにむき出しにし、雪を問いただす。
「お前がオーディーさんを殺したのか?」
態度とは裏腹に微かな淡い期待を込めた目を向けてくる慧馬を一瞥し、雪が告げた。
「ああ、俺が殺した」
「――ッ! お前がァ!」
「止めて!」
腰に差した剣を抜き、今にも襲い掛かりそうな慧馬を珠鈴が止める。
「なんでだ! 何故止める!」
「ちょっと黙ってて」
珠鈴の怒気を強めた声に気圧され、慧馬が仕方なく剣をしまう。
「ねぇ、本当に殺したの?」
「何度も言わせるな」
「·····そう·····」
珠鈴には悪いが、それが事実である。
確かに海斗の狙いを見極める為に相手に乗っているが、しかし殺した原因としてはそれが事実なのだ。
「本当に佐々木の言う通りだったんだね」
「そういうことになるな」
その声と共に珠鈴は肩を震わせてしゃがみ込んだ。
「珠鈴!」
「茜ちゃん·····」
急いで茜が起こそうとするが、もう力が出ないのだろう。未だにしゃがみ込んだまんまだ。
信じていた雪が自分たちに骨を折ってくれたオーディーを殺したのだ。そんな耐え難い事実から逃げようと、耳すら塞ぎ込み視界すらも閉じ、うずくまっている。
「あーあ、酷いなぁ奥村は」
玉座の近くでそんなことを吐かす海斗が依然として変わらないヒトガタと酷似した笑みを浮かべながら雪を挑発するかの言い方をする。
「お前が仕向けたんだろ?」
「まぁ、そうだけどね。まさか、本当に君が殺したとは思わなかったからさ」
まるで今その事実を聞いたかのような言い草に苛立ちが湧くが、ずっと気になっていることを質問する。
「お前、ガシュとシュタルに何をした?」
光が一つすらも入っていない無機質な瞳。それは自己的に写していないという訳でない、人工的に写されていないのだ。
「ふふっ、気づいちゃったの?」
やはり、あの時感じた違和感は合っていたようだ。
「本当に僕が知っている奥村じゃないんだね」
海斗の体から黒い霧が発生する。
「これはね闇属性の魔法だよ」
発生した黒い霧がたちまち海斗に纏われていく
「闇系統洗脳魔法」
瞬間、黒い霧が晴れたと思えば、海斗の服装は見慣れたジャージではなく、黒のマントに黄金の甲冑というラスボスが着る服装となっていた。
「名付けるならうーん、そうだなぁ<マインドコントロール>とか?」
そして笑みを浮かべた海斗はもはや知っている海斗とはかけ離れていた。
「お前は何をしたいんだ? 俺が聞いた時はなんにも答えなかったくせによ」
洞窟で聞いた時は海斗と名乗ったくせに、何故今になって正体を明かしたのか?
「それはね、この世を支配するためだよ。その前段階として、四勇を手中におさめたかったからさ」
その言葉にハッと辺りを見渡すと、慧馬と茜、更には珠鈴の目は既にガシュたちのそれと同じく、光が入っていない。
「て、てめぇ」
「<マインドコントロール>はさ、抵抗が強い人にはかかりにくいんだ。だからこそ、君を利用させてもらったよ、君が殺人を認めてくれたおかげで心に綻びが出来た。そこを漬け込ませて貰ったわけさ」
雪は思わず、歯噛みする。
「最初からそれが目的なのか?」
「まぁね。僕の計画には四勇が絶対条件だから、手に入れるにはこれしか方法がなかったんだ」
海斗が手を掲げた。
「そして、役目が終わった人は退場してもらうね」
パチンっと高らかに音が響く。
すると、ギギィと扉が開いていく。入ってきたのはエルだった。
「ベラベラと語ってくれたのはコイツがいたからかよ」
「まぁね。冥土の土産として持って行ってよ」
そして、再度黒い霧が発生する。瞬く間に、ガシュやシュタル、慧馬や茜、珠鈴を囲み霧が濃くなっていく。
「待てッ! ――ッ!」
後を追おうと脚を踏み出すが、しかしそれをエルが阻止する。
「契約ですので、ここから先は行かせません」
「そういう事だ。じゃあ後は頼んだよ」
そして、黒い霧と共に海斗たちの姿が消えていった。




