第二十二話 十二年前
珠鈴の一人称です
数日前――
「珠鈴落ち着いて·····」
私の耳に茜ちゃんの声が入ってくる。
だけど、それに反応することが出来なかった。
「四宮·····」
黒木の声も、佐々木の心配そうな眼差しも全てがどうでもいいように思えた。
帰りが遅い、連絡すら来ないオーディーさんと雪の事を心配し、西の神殿まで行ったはいいけど、そこにあったのは惨状だった。
首と胴体が離れたオーディーさんの死体。他にも多数の冒険者の死体がそこにはあった。
でも、雪の死体だけは無かったのだ。だが、それでも生きているという確証はない。
王城に帰り、部屋にへと戻された後も、私の心は淀んだままだった。
「茜ちゃん·····」
「分かってるわ。でも、あなたのせいじゃない。生きていると信じましょ」
長い沈黙の後、ようやく私は声を発することが出来た。
優しく背中を抱いてくれている。その心が嬉しくて、雪の事が悲しくて、私は涙を流していた。
「今日は一緒にいてあげるわ。ほら、元気だして」
「うん·····」
でも、でも。私があんな事を言わなければ、こんなことには·····
あぁ、数え出したらキリがない。
そして、私は疲れたのか眠ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇
十二年前――
これは? 夢·····
瞼を閉じ、しばらくした後に広がった世界は私が幼稚園の時のだった。
そうだ。私の料理は不味かった。昔から作る度に、みんなは私から避けていった。
別に、それが悲しいとは思わなかった。それなら美味しいって言われるまで、みんなが食べてくれるまでの料理を作ってやろうと、そう思ったからだ。
「はい、今回は自信作だよ?」
頑張って作った、渾身のおにぎりを幼稚園の頃、みんなに渡してあげたんだ。
お母さんにも教えて貰って、それでもみんなは
「あっま·····」
「こ、これ、食べれないよ·····」
悲しかった。頑張って作った、だけど、それは不味かったのだ。
原因としては、砂糖と塩を間違えてしまった事だった。
みんな、おにぎりを残して私から離れていった。それを見た瞬間、私の心は壊れた気がした。
今となっては、そんな事で·····と思うが、当時、幼稚園児だった私にはこたえるものだった。
あぁ、作るのを辞めようと思った。だって食べて貰えないのなら、不味いのなら、もう、もう·····
そんな時だった。
「美味しいじゃん」
男の子の声が聞こえてきたんだ。
美味しい? 今、あの男の子はなんて言ったんだ?
「こんなおにぎり食ったことねぇな。美味しいよ」
あぁ、また言った。美味しい、美味しいって
「あ、ありがとう。まだあるけど食べる?」
「おう」
みんなが私の元から去っていったのに、彼は私に近づいてくれて、そしてなにより美味しいって言ってくれた。
それが、たまらなく嬉しかった。私の努力が報われた気がしたからだ。
本当に単純だと思った。こんなことで私は男の子を好きになるんだって、でも当時の私はこの気持ちの正体を知らなかった。
頬が蒸気を発し、赤く染まった。彼の見せる笑顔が輝いて見えた。
「名前ってなんて言うんだ?」
「みすず」
そして、彼は私に笑顔で手を差し出して
「俺はゆき、よろしくみすずちゃん。また作ってくれよ」
「·····うん·····」
料理を辞めようと思った私に光が差し込んだ。
私の人生が変わった瞬間だった。
この子のために料理を頑張ろうと思った。この子に振り向いて貰えるよう、素敵な人になるって決めたんだ。
残念な事に私は別の小学校に進学したけど、それでも私の心は彼に支配されていたんだ。
変わる度に私に告白してくれる人が増えた。でも、私には心に決めた人がいるから
中学校で、黒木と佐々木に出会って、それで一時期、黒木と付き合ってるという噂が流れたけど、そんなことはどうでも良かった。
あぁ、会いたい、会いたいよ雪·····
そんな時、高校で運命の再会を果たした。でも、雪は私のことは覚えてはいない。
じゃあ、もう別にいい。
今の自分を見てくれと、私は今日も彼の名前を呼ぶんだ·····
「雪!」
それなのに·····なんで、こんなことになったのかなぁ。
私が勧め無ければ彼がダンジョンに行くことはなかったのに
彼は一体どこで何をしているのだろう。生きているのか、はたまた死んでいるのか。
どちらにしろ、会いたいよ、会いたいよぉ雪。
恋模様を描写するのは難しいですね。次回も珠鈴目線です




