第二十話 いざ、外の世界へ
「さて、ようやくこのダンジョンから出ることが出来るな」
黒のロングコートを着ながら、雪が笑顔で告げる。
長いようで短い、濃密な時間を過ごしたこの場所からようやく出ることが出来る。
必然的に、その笑顔にはセラが感じた冷たさなどは微塵も感じない
これには、セラも笑顔で返す
「うん、そうだね。でも·····」
あの時のような事は二度となりたくなくない、家族を失い、やっと心が許せる人に出会えたが、それも少し前まで瀕死にまで追いやられていた。
「もう、あんな無茶許さないからね」
「分かってるよ」
苦笑いを浮かべ、後ろに控えるハクにへと目線を飛ばす。
「ハク、本当に俺らについてくるのか?」
「はい、私も他の四神に会いたいし、何よりも主様についていきたいから」
九十階層で、出会った時とは容姿が遥かに違う、四神・白虎であるハク。
その姿の変化は曰く、雪が気を失った時に、セラと話し合って決めたらしく、何やら属性が被るとか何とか
その話をすると、いつもセラはブツブツと念仏のように小言を話す。
『幼女属性と、貧乳属性は誰にも渡さない。私の唯一の武器だから·····』
と、これを聞いた雪は俺が倒れている時に何を話してんだ!? と驚きしかなかった。
こんなことがあり、ハクの容姿はこの美女に決まったとの事だ。どうやら神に不可能はなく、容姿すら変幻自在とのことらしい。
あの時、自分を化け物と自称した彼女は跡形もなく、吹っ切れて神と名乗るようになったのは嬉しいことなのだが、まあ、良いだろう。
後ろでふんすーと胸を張っているハクを見ると、どうにもツッコミを入れられない。
しかし、その神様のおかげで魔術は完成したと言っても過言ではない。
魔ノ術一ノ型から終ノ型二武までの、欠点から改善点まで全てハクの指導の元、ようやく完成することが出来た。
全てを見せることは今は無理だが、見て分かることと言えば、雪の装備が変わっている事だ。
白虎の皮から作られた革手袋と、右肩の切断面に描かれた魔法陣が主な変化と言える。
革手袋の甲の所には魔法陣が描かれており、魔砲を使用する際のダメージを軽減してくれる。
右肩の魔法陣は、魔腕が造られるまでの時間を短縮するという効果がある。
以上の点を踏まえ、雪は一人思う。
(ここのダンジョンに入る前とは色々と変わったな)
近くに自分に寄り添う彼女たちには隠し事はしていない。
異世界召喚から何までを全てを話した、当然、驚かれはしたが非難な言葉は不思議と来なかった。
(やっぱり、リリスの妹だな)
セラは笑顔で自分を受け入れてくれたのだ。それが、何より嬉しかった。
だからこそ――
(幸せにしなきゃな)
そして、目線を向ければ、セラはん? と小首を傾げてくる。
この愛しい彼女を見て、何度誓ったか分からない誓いを立てる。
「セラ」
「なに?」
「俺は、自分に出来る最大限の幸せをお前に渡すつもりだ。確かに地球にはいつか帰ろうとは思うが、その時はお前もくるか?」
この世界とは違い、化学にまみれた世界を思い出す。
「もちろんよ! 私も立派な人になるために頑張るわ」
いつか、死んだ時リリスに、お姉ちゃんに胸を張ってそして、
「沢山お話をしてあげるの、ユキの世界やこの世界も含めて、私が経験した全ての事を」
それが、自分に出来る最大限のお姉ちゃんへの恩返し
「それは良いな。その時は俺も入れてくれよ?」
「当たり前じゃない、あなたが居ないと始まらないわ」
そして、笑顔を交わす。
その雰囲気に負けじと、ハクもアピールする。
「あの、主様? 私の事忘れてない?」
このハクの物言いには、しかし雪は心外そうな表情を見せた。
「そんな訳ないだろう? それじゃあハクよろしく頼むよ」
「まっかせて! では行くよ! 片道切符のダンジョン脱出の転移術!」
まるで、自分を主張するように、張り切った声で転移術を展開させる。
「行先は王都クレファンス!」
そして、青白い魔力粒子に包まれて、雪たちはダンジョンを出たのであった。
雪と同じく、長いようで短いそんな西のダンジョン編でした。




