第十九話 神主
途中、雪の一人称入ります
長い通路を抜けた先には、幻想的な空間が広がっていた。
ダンジョンにも関わらず、地面には草木が生い茂り、水がチロチロと音をたて流れている。
その中心部にはあの時見た白虎が、磔の状態で眠っていた。
「どうやって封印を解こうか·····」
未だ貧血で倒れそうな雪は、セラに支えてもらって前提を口にする。
ガシュから封印を解く方法を教えて貰っていない、シュタルも同様だ。
頭を悩ます、二人にしかし、声がかかる。
『ふふっ、遂にここまで来れたんだね』
それは白虎の声、それがこの空間に響き渡る。
『封印を解く方法は簡単だよ?』
「なら、早く教えてくれ、俺も正直ダルい」
もう既に意識が朦朧としてきた、視界もボヤァと霧がかっているように見える。
『分かってるよ、なら今ここに決めるんだ』
「何を?」
『神主になる事をだよ』
神主とはまた違った言葉に、雪は疑問符を浮かべるが、そろそろ本気でやばくなってきた。
「何でもなってやるから·····はや、く·····」
その声に反応し、白虎の体が白く光る。
『ここに契約は成立したよ? 奥村雪·····貴方様を我が主として任命し、鎖を放つ』
詠唱にも似た白虎の言葉が聞こえてきたところで、完全に雪はその意識を放した。
◇◇◇◇◇◇◇
『リリス?』
俺の目の前にはリリスが立っていた。
花畑の中心にポツンと一人で立っている。そんなリリスを見るやいなや、俺の脚は動いていた。
だが、いくら走っても、リリスには追いつかない。
リリスはこちらに顔を向けると、可憐な笑顔を見せてきた。
しかし、その場には俺は追いつけなかった。
『リリス! リリスッ!』
いくら叫んでも、リリスは離れていくことを止めない。
次第に奥には見慣れた面子が姿を現す。
ガデスの皆、更にはオーディーまでもが、俺にへと視線を向けるが、離れていく
段々と花畑が消えていき、ここはあの時の暗黒が支配した。
『俺を·····一人に、一人にしないでくれよ』
俺は思い出す、彼らが離れていく訳を
――俺が弱かったから、俺が何も出来なかったから
『死んだんだ·····』
俺は遂に走ることをやめていた。
蹲り、全ての視界を閉じる。
『俺が弱かった。俺が殺したんだアイツらを』
口にすればするほど、俺の涙は溢れてくる。
『何で俺は生きたんだろ? ·····』
罪悪感からそんな言葉が浮かんでくる。
何で俺は生きてんだ? 俺が原因だったのに?
何故、何故? 何故·····
不意に、温かさが俺を包む。慣れた温かさだった。何度も、感じたこの温かさ·····
顔をあげ、目を向けると、一筋の光が出現していた。
その光の先には獣人の女の子が立っている。狼の耳をピコピコ動かしてる、リリスが最も愛した彼女が
『ユキ』
名前を呼ばれるたびに、俺の冷えきった心に、温かさが、心地良さが浮かんでくる。
『約束ちゃんと守ってね?』
奥からリリスの声が聞こえてくる。
『そうだ。約束·····俺はセラを』
『そう、セラを幸せにして?』
『あぁ、そうだな』
『じゃあ、目を開けてユキさん。あなたを待ってくれている子たちがいるから』
そして、段々と俺の意識が覚醒していく――
◆◆◆◆◆◆◆
「あれ? ここは·····」
長い眠りから覚めた雪。眼前には草木が広がっている。
上体を起こして、辺りを見回すと、どうやらここは先程の幻想的な空間のようであった。
見ると、セラが横で寝ている。
心配をかけたと思い、肩を揺さぶって起こそうと、その肩に触れようとするが、しかしその手を誰かが止める。
「起こすのは少しお待ちください主様」
聞いたことも無い声に、疑問符を浮かべるが、声の聞こえた方に目線を飛ばせば、そこには美女が居た。
雪にも似た真っ白な髪を腰にまで伸ばし、その瞳は黄金に煌めいている。そして、まるでモデルのようなスタイルに思わず見蕩れる。
コイツはもしかして·····
「白虎か?」
「はい、さすが主様ですね。姿が変わっても心は繋がっているのでしょうか?」
あまりに容姿が違い過ぎる白虎に、目が点になる。
「それで? 何で待たなきゃいけないんだ?」
しかし、直ぐに元に戻り、白虎の用事を聞く。
「はい、少し神主の説明を」
あの時にも聞いた神主という言葉は、未だに納得がいっていないと、雪は真剣に耳を傾けた。
「神主とは、その名の通り、神の主という事です。効力としましてはステータスを見てくれれば一目瞭然でございます」
言われた通りにステータスプレートを出現させると、そこには、見たことも無い能力が増えていた。
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オクムラ ユキ 17歳 男
種族 人間
職業
レベル 100
体力 900000
筋力 1000000
脚力 700000
防御力 600000
魔力 100
抵抗力 1000000
能力
適応 魔法適正ゼロ 白虎の加護 神格化・白虎
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「加護と神格化?」
「はい、これが主な神主のメリットです」
白虎の加護――ステータスの底上げをしてくれるというチートな能力
神格化・白虎――一時的に白虎の力を憑依させ、神と同一になる能力
「·····と以上が加護と神格化の内容でございます」
「チートかよ」
思わず絶句する雪。しかし、しょうがない。神の力とは本来ならこれでも低い方なのである。
「それと、神主になったからには我々四神の秘密を知らなければなりません」
思い出すのはあの時の白虎の言葉
「神にして神に在らず·····」
「はい。我々四神は神であるが、神ではございません」
息を飲む雪。そして白虎が語る、四神の真実
「我々四神は神話の時代、神によって作られた表現的には神擬きと言った方が正しいのです」
言葉を失う。神が神を作った?
「ローノ――あの男の力は凄まじかったのです。日に日に減っていく神に、我々の創造神は神獣というものを作りました」
ローノが魔物を作り、神が神獣を作った。全ては大戦を勝つためが故に
「その神獣の名が順に青龍・朱雀・白虎・玄武でございます」
だが、話はここでは終わらない
「そして当時、人間と共に生きていた神は、ある決断をしたのです。それが神獣と人の融合でした」
これにより戦力は爆発的に増え、この世に四神が生まれた瞬間だった。
「その時、融合されたのが私、誠の名をハク。以来、我々四神は、東西南北の守り神として戦地に駆り出されました」
それが方位を守護する神の由来
これには然しもの雪も驚くことしか出来なかった。
「言わば、私は人間であり、人間では無い。だからかと言って、神でも無い。半端な者なのです。これを俗に化け物と言うのでしょうね」
そう語るハクの顔は酷く暗い。だが、ここである事実に雪が気づく
「その神獣·····白虎と言ったよな。それって赤黒い目の白いけど黒の縞模様がある虎だったりする?」
突然の質問に、それが思いがけないものだったのか、頭上に『?』を浮かべながら、コクリと頷く。
「悪い、それ殺しちまった」
え? ちょっと·····は?
「殺した? 神なのですよ? 白虎は私でもありますが、融合して得た肩書きに過ぎません。確かに封印時にその融合を解かれ、私はその際に意識を落として·····あれ?」
融合した時に、白虎の神格はハクにへと移動して、確かに弱体化はしているが、それでも白虎なのだ。
それを殺した·····
「あぁ、うん。腹に風穴を開けて俺が殺したね」
「アハハハッ!」
突然笑うハクに、どうしたと雪が見つめるが、しかしこれを笑わずにはいられようか?
「とりあえず、白虎は殺したし、しかもお前よりもアッチの方がよっぽど化け物だったよ」
慰めてくれているのか? 化け物と自称し、落ち込んだ自分を
「やっぱり、あなたが封印を解いてくれて良かったよ」
思わず、敬語では無い、素の話し方にしまった!? と口を抑えるが、次は雪に笑われてしまった。
「ハハハ! いいよ。別に主だからって畏まる必要はない」
それに、今の自分はそんな立派でもないしな
「とりあえず、セラを起こすか」
「そうですね」
そう言って、セラにへと揺さぶりをかけるのであった。
見事に主人公はチートを手に入れましたが、これからの戦闘で、神格化はあまり使用しません。やはり、魔術師なので魔術を基本に戦っていきます。




