第十七話 白虎
【西の神殿 八十五階層】
「うざってぇな、<魔弾>」
そう言い放ち、人差し指から魔力の塊を発射させる。
すると、たちまち脳天を貫かれたオーガが完成される。
「だいぶ、ここも余裕になったな」
「そうね。でも、油断したらダメだからね!」
「分かってるよ」
ダンジョンに相応しくない、なんとも気が抜けた会話が木霊する。
黒のロングコートを纏った同じく黒髪の少年――雪と、白色のワンピースを身に纏う少女――セラである。
「にしても、この装備さすがの強度だな」
「勿論よ! 私が作ったのよ?」
そう、ロングコートもワンピースもどちらも、セラの作品だ。
素材はもちろんのことアラクネの糸を使用している。
しかも、通常個体ではなくヒトガタのを採用しているため、その強度はそこら辺の装備よりも頑丈である。
作り方は至ってシンプルである。セラの能力武具生成によって作られているのだ。
「そう言えば、固有能力だっけ?」
「そうよ? 狼人族の固有能力に感謝なさい」
思わず苦笑してしまう雪。しかし、実際この装備に助けられている感は否めないので、優しく頭を撫でる。
この時、耳も一緒にもふもふするのが、ポイントだ。
「んふ♪」
少しトゲのあるセラも、このとおり、一瞬にして顔に喜色が表される。
「本当にありがとうな。俺が支えるつもりが、お前に支えられてばっかだ」
「別に·····ユキの撫で方上手いから気にしなくていいわよ」
そう言って、頭の方に意識を向けるセラ。優しい手つきにもうセラはメロメロである。
しかし、世の中そう上手くいかないのが、ここダンジョンだ。
二人の織り成すイチャイチャムードに、イラついたのかのかどうかは知らないが、まるで
『リア充爆発しろ!』
と言わんがばかりに、ゴブリンやオーガ、更にはヒトガタまで出現する。
これに、雪は若干イラつきながら、瞬時に圧をかける。
雪の頭上から発生する魔力の圧がまるで、重力のようにゴブリンたちに襲いかかる。
これも魔術の一つで
「魔ノ術 三ノ型<魔圧>」
という。霧散される魔力の密度を高くし、まるでヒトガタの放った圧なみの力を頭上から叩き下ろすのだ。
しかし、ご覧の通り、あのヒトガタでさえもこの魔圧に抑えられていることから、その実力の差は歴然である。
そんな魔圧をかけながら、一言
「魔ノ術 四ノ型<連魔>」
そして、出現する大量の魔弾。それが、高速を超えるであろう速さで脳天をぶち抜く。
「セラが甘えてるという、珍しい展開なんだから邪魔すんな」
もう既に死んでいる魔物たちに向け、雪がキレる。
そして、目線を戻せば、顔を羞恥で震わせるセラの姿が
「まるで、私が愛想のない子みたいな言い方はやめなさいよ!」
そんなセラの怒号がダンジョンないで響き渡るのであった。
【西の神殿 九十階層】
「あれが、今回のボスなのか?」
「そ、そうみたいね」
五階層ごとに出現するボス。それは周知の事実なのだが、今回のボスは少し話が違った。
「んふー、ようやく来たかぁ」
目の前には真っ白のまるで雪を思わせるぐらいの髪に、黄金の瞳。そしてあどけないその姿は普通の女の子である。
「やっと解放されるわぁ」
しかし、その腕が虎のようにごつくなければの話だが
「あれ? 女の子がボスなの?」
指さして首を傾げる雪に、少女は笑いながら否定する。
「ううん、違うよ。私は、白虎。ここの神様さ」
はぁ? と雪とセラは揃って、口を開く。
「神様ってこんな見た目なのか?」
「いやぁ、少し違うかな? 私たち四神は少し特殊でね」
そう言って、瞬時に間を詰めてきた白虎。これには思わず、雪は戦闘態勢をとる。
「うん、うん。さすがだね。私の神殿をここまでクリアしてきたって感じがするね」
次に、セラの方にへと目線を飛ばし、そしてその肌に触れようとした白虎、しかしそれに反応し、雪が蹴空で白虎の元にへと向かう。
「セラに触れるな白虎」
静かに魔圧を発動させ、そしてその腕を掴む雪。だが、その手はすり抜けてしまった。
「はぁ?」
「ふふっ、びっくりした? そう私は思念体。私の本体はここから更に十階層下、封印の間で眠っているよ」
そして、スぅーと間を空けていく
「ちょっと、面白い感じの子がここまで来たからさ、少し頑張っちゃった。何気に百年以上ここに居るからさ、暇なんだよね」
そう言って無邪気に笑う姿は、とても神様とは思えないほどの可憐さがあった。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 何処に行く気よ!」
しかし、白虎の姿は徐々に薄くなっていく
「私すこし頑張っちゃったって言ったでしょ? 結構限界なのよ、これを維持するのも」
見ると、額には思念体にも関わらず、汗が滲んでいる。
「でも、私を解放してくれる人が、あなたたちだったら嬉しいかな。じゃあね、最後にヒントでも言っておこうかな。私の正体」
離れていた白虎は、また雪に歩み寄ってくる。
「私たち四神は神にして神に在らず」
そして、雪の目の前で止まったかと思えば、最後に笑顔を向けて
「じゃあね。君たちが来ることを待ってるよ」
消えていった。
「なんだったんだ? あれ?」
「さぁ、でも聞いた? 白虎さまのところまであと十階層下だって! 頑張ろ? ユキ」
「そうだな」
しかし、雪の頭の中では先程の言葉が渦巻いていた。
(神にして神に在らずか·····)
だが、確かに四神はその名の通り、神のはずだ。どういう事だ? と頭を悩ますが、直ぐにいつもの思考に戻る。
(とりあえずは、攻略に身を入れるとするか)
そして、セラの手を握る。
「じゃあ、いくか。白虎も百年以上ここにいたら、暇だろうからな」
「そうね。でも、いいのかしら?」
「何が?」
「だって神様って勇者を導く役目があるって昔から言うけど·····」
そう言えばと、この世界に呼び出された大前提を思い出した。
(まぁ、会えばわかるか)
色々と疑問が残る中、あと少しであろう西の神殿攻略に向けて、足を動かす二人であった。
四神の話については、自分が勝手に考えた設定ですので、前もって断っておきます。どうぞ、正体について考察してみて下さい。




