表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/40

第十六話 ヒトガタ戦


「こっから、ダンジョンを出れると思ったが、そう上手くはいかないもんだな」


 そう言って見上げると、いつの間にか穴が塞がれている。


「まぁ、じゃなきゃなんで、ここにこんな冒険者の死体があるんだって話なんだがな」


 そう、この階層には少なくとも、百人ばかりの冒険者の死体がある。それは、ひとえにヒトガタが原因であろう。


「糸か何かを駆使して埋めてるのか、はたまた魔法を行使しているかは分からんが、これで脱出の目処は無くなったわけだ」


 ここが唯一、雪が知っている出口だったが、これでもう攻略するしか道は残されていないという事だ。


「という事だ。セラ、白虎の封印を解きにいくか」

「はぁ!? 何を言ってるのよ」


 当然、セラにとって、そんなことは御免だ。


「だって、仕方がないだろう? どうやって脱出するんだよ? 何か案でもあるのか?」

「いや、ないけど·····」

「それならいいじゃねぇか」

「そうだけど! うぅ」


 それでも食い下がるセラ。


「しっかりと守るから」


 守る――それが脳内に何回も過ぎる。


(私と一緒に戦ってくれないんだ·····)


 確かに、渋っているのは自分だが、そもそも自分を戦力に入れていないことが腹立つ。


 こうなれば、もう自分は抑えられない。


「いや! 私も一緒に戦う!」

「じゃあ、攻略な」

「あっ·····」


 今更になって後悔するセラ。しかし、言ってしまったことは仕方がない。


「もう·····分かったわよ! でもその前にすることがあるでしょ?」

「そうだな。あのクソ野郎を殺さなきゃ気が済まない」


 脳裏に浮かぶ、ヒトガタの姿。オーディーを踏みつけ、リリスを殺した元凶。


「実はさっきから、こっちに殺気を放ってるんだが、気がついてたりする?」

「え? ·····ちょっ、は?」


 セラが勢いよく、辺りを見回すが、それらしき人影はない。


「どこにいるの?」

「そこだよ·····ほらっ! 出てこいよ」


 そう言って、岩陰からスっーと姿を見せるヒトガタ。


「イツカラ気ヅイテイタ?」


(こいつ、喋れるのか·····なら話は早いな)


「最初っからだよ馬鹿、脳みそちゃんとありますか?」


 わざと、挑発的な事を言い放つ雪。こちらの言語が通じるのであれば、相手を陥れるのなんて簡単である。


「――ッ!」


 既に、額には青筋が浮かんでいる。それもそのはず、見下している人間に馬鹿にされたのだから


「オ前殺ス」


 瞬間、大量の糸が放出される。


「きゃあ!」

「しっかり捕まってろ!」


 急いで、セラを抱き、蹴空で間をとる。


「小賢シイ」


 その声には怒気が込められており、キレているのは一目瞭然である。


 これには雪もほくそ笑む。


(見事に引っかかったな。案外単純じゃねぇか)


 雪はヒトガタにリリスやオーディーを殺されてから、戦闘スキルが爆発的に上昇している。


それはひとえにヒトガタを殺すという目的に他ならない。


 もちろん、セラを守るために魔術を考案したが、リリスたちの仇はとるつもりでいたのだ。


(最初から全てを得ていたら、こんな奴に·····)


「ちょっと! この糸何とかしなさいよ! また斬られちゃう!」


 悲愴が滲んだ声顔で、セラが訴えかける。それに、雪は沈んでいた心を取り戻す。


(そうだ。幾ら悔やんでも、過去は取り戻せない)


 そして、完全に目の前の標的(ターゲット)に思考を切り替える。


「魔ノ術 二ノ型<魔弾>」


 そう言うやいなや、人差し指に魔力が溜まる。


そして、一点を狙い放つ。


それは、糸が集合している所。つまり、ヒトガタの手である。


「ナンジャコリャ!」


 まるで、元からそうであったように消失した手首に、ヒトガタの顔は焦燥にまみれている。


「ウザイ!」


 そして、口から糸を出そうと、空を飛んでいる雪にへと狙いを定めるが、どこを探しても、それらしき人影が見えない。


「ドコ行ッタ!?」

「ここだよ」


 そして、後ろを見るは背中に手をつけた雪の姿が


「<魔砲>」


 その一言――それで、全身がバラバラになるような、痛みが襲ってくる。


「何ヲシタ!」

「どうもこうも、俺はお前を殺そうと技を放った以上、しか言いようがない」


 あまりの痛みに、いつぞやのオーディー見たく、四つん這いになり、血反吐を吐く。


「まあ、せいぜい楽に殺してやるよ! 幸いにもオーディーと同じ感じだからな。オーディーが受けた苦しみを味わってから逝け」


 そして、再度人差し指に魔力を溜める。


「マテ! マテヨッ! 命ダケハ!」

「知らねぇよ死ね!」


 静かに放たれたそれは、真っ直ぐとヒトガタの脳天を貫いた。


 もたらされた静寂。それを破るのはセラ。


「あんたどこまで非常識なのよ」

「いや、これはこいつが悪い」


  前、相対したヒトガタだったら、あるいは負けてたかもしれない。


ここまで上手くことが運ばれたのは、挑発に乗ったこと以外に他ならない。


「そうだとしても、あんたのその強さ、各国が狙ってくるわよ?」

「国ごときに俺はなびかないよ。俺がなびくのはお前だからな」

「ば、バカ!」


 頬を紅潮させるセラ。


(全く·····でも、お姉ちゃんの仇をとってくれた事には礼を言わなきゃ、ね)


 そして、キュッと一文字に結ばれた口元を、ゴモゴモと動かす。


恥ずかしいという気持ちを押さえ込み、今言える最大限のありがとうを


「あ、あり、あり·····」

「あり?」

「ち、違う! あり、あり·····ありが、とう()()


 しかし、礼をしたのに顔を背けられるセラ。火照る頬を隠しながら、雪を見ると·····激しく頬を赤く染めていた。


「何? 照れてんの?」

「ああ、何気に初めて名前を呼ばれたからな」


 どうやら、今まで、"あんた"しか言われてこなかったので、新鮮な感じだったらしい。


「でも、これでリリスがうかばれるといいな」

「そ、そうね」


 遥か後方にいるリリスの死体に優しく微笑みかけ、雪は前を向く。


「それじゃあ、攻略目指して頑張るか」

「そうね。でも、ユキ。その装備じゃあ死ぬわよ?」

「いや、俺には魔術が――」

「魔術にも頼らないで、多少は剣とか拳とかで戦えるようにしないと、さすがにこれ以上の攻略は無理よ?」

「分かりました」


 シュンっと落ち込む雪に、セラは思わず笑みを浮かべて、頭を撫でる。


「お、おい!」

「ふふっ、別にいいでしょ? それより、アイツ死んでるなら、アイツの糸を貰ってくわよ」

「はぁ? どうして?」

「装備を作るに決まってるじゃない。あなたの安物の装備じゃあ、接近する時には細切れよ」


 でも、お前に作れるのか? という疑いの目線を向ける雪に、ため息を吐く。


「私はこれでも、狼人族よ? 装備の一つや二つ作れるわ!」


  エッヘンと胸を張るセラ。しかし、子供が故にそのボリュームは無いに等しい。


この光景をみて、雪は一人思う。


(そういえば、四宮たち·····まあ、いいか。アイツら強いからな、余計な心配なんて要らないか·····)


 そして、目の前にいるセラにへと目線を向ける。


未だに胸を張っているセラに思わず笑ってしまう。


「どうしたのよ?」

「え? いや、胸がないなって」

「ムキー! うるさいわね。これから成長期なの!」

「まあ、落ち着けよ。俺はぺったんこでも十分愛せるぞ!」


 バシッ! と強烈な痛みが雪の頬を腫れさせる。


「うるさいわよ!」


 幾分か心の重荷がとれたのか、そして二人して笑う。


「行こうか」

「うん。バイバイお姉ちゃん。私頑張るね」


 そして、ヒトガタの巣を後にする二人だった。

急にセラ変わりすぎですかね? 多分大丈夫だと思いますが·····

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ