第十四話 ユキ
「ん、ンンンぅん」
長い眠りの果てにようやく意識を覚醒させていくセラ。
雪はようやくか、と痺れ始めた脚を労る事ができると内心ほっと息を吐く。
「おはよ、セラ」
目を覚まし、意識が朦朧としているのか目元を擦っている。だが、それも一瞬の事だった。急に頬を紅潮し始めたかと思えば、口をパクパク動かしている。
「なん、なんで·····あうぅ」
どうやら、セラはこの現状が我慢出来なかったらしい。
(膝枕作戦は失敗か)
そう、膝枕をしてあげてたのだが、セラには耐えられなかったということだ。
しばらくここに訪れた静寂。それを破ったのはセラだ。
「夢、じゃなかったんだ·····お姉ちゃんは、もう·····」
涙を薄く溜めて、今にも泣き出しそうになるセラを、どうすればいいものかと頭を悩ます雪。正直、雪も平静を装っているだけで、内心はまだリリスやガデスのみんな、オーディーが生きているのでは? と思っているのだが、自分がパニックなれば余計にセラに心配を重ねるだろうと思い、我慢しているに過ぎない。
だからか、セラにかける言葉が見つからないのは、だが言えることはある。
「とりあえず、ここから出なきゃな」
そう、何をするにしたってダンジョン内には極力居たくないものだ。自分の全てを奪った元凶だから·····だが、ここで意外にもセラに待ったをかけられる。
「私やだ。ここにいたい」
見ると、肩を震わし、恐怖しているのが分かる。もう、あんな化け物には出会いたくないからだろう。
そんなセラを困ったように雪が慰める。
「なぁ、出ようぜ。幸せにしなきゃいけないんだから」
いや、訂正しよう。これは慰めではない。ただの自己中心的な言葉だ。これにはセラも声を荒らげる。
「だから、なんなのよ! その幸せってなに? というか私たちは、出会ってまだ少ししか経ってないそんな人を信用するのも、私はいやだ!」
全くもって正論である。しかし、雪も食い下がる。
「幸せはお前が感じることだ。俺には何がなんなのか分からないが、あの手この手でお前を幸せにする。あと出会ったばかりの人を信用しないのは分かるが、少なくともお前に不利益になることはない」
そして、雪はいつの間にかこの騒ぎを聞き付けたシャドウウルフの群れに向かい魔術を放つ。
「魔ノ術 二ノ型<魔弾>」
人差し指に集まった魔力の塊が、寸分の狂いなくシャドウウルフの頭を貫く。
「ほら、不利益にはならないだろ?」
これにはセラも、うぅっと唸り声をあげる。だが、いつ見ても非常識なその技にセラが反論する。
「じゃあその技は、なんなのよ! 魔力を使ってるけど魔法じゃないわ! 信用するためにもその種明かしをしなさい!」
セラは内心でこう思ったのだ。自分の切り札にもなる技をわざわざ教えたりしないと、だからこそ反論したのだが
「これはな、魔術っていうもう一つの魔力の使い道だ。さっきの魔ノ術ってのが魔術を表し、一ノ型、二ノ型が技名を示す」
あまりにもナチュラルに解説し始めた雪にセラは思わず、怒鳴る。
「ちょっと! なんで解説しちゃうのよ! あんたの切り札でしょ!?」
しかし、呆気からんと言った感じで頭を傾げる雪。その様子が更にセラに火をつける。
「だから、なんで解説しちゃうの? って聞いてんの!」
「セラが種明かししろって言うからだろ?」
「それは理由になってないわ! なんで? と聞いているのよ!?」
「これからセラと一緒に行動を共にするんだ。隠し事はなしで行きたいだろ?」
呆然とセラは雪を見つめる。しかし、雪はもう隠し事はしたくないのだ。そして、解説を続け始める。
「そもそも、この魔術ってのはな。俺が魔法を使えないから考案したものなんだ」
また衝撃の事実にセラは頭を悩ます。
「ちょっとまって、魔法が使えないってどういう事?」
「ああ、ステータスを見れば分かるよ。"ステータス"」
そして形成されるステータスプレート。
(そう言えば、あれから見てないな。俺も少し気なってきた)
そして、ステータスプレートにはと視線を向けると
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オクムラ ユキ 17歳 男
種族 人間
職業
レベル 30
体力 500
筋力 1000
脚力 600
防御力 700
魔力 30
抵抗力 1000
能力
適応 魔力適正ゼロ
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これをみてセラの第一声は
「な、なにこれ!?」
であった。しかし、これは然しもの雪でも驚いていることだ。
だが、これにはしっかりとした理由がある。雪たちには知らないことだが、レベルというのは経験値を得ることによって上がるというものだ。
まず、筋トレで伸びるステータス量は微々たるものである。次にオーディーと共にダンジョンに潜った際の経験値はオーディーの方にいっていたのだ。それが魔術を使い一人で討伐できるようになったことは、当然経験値の得られる量は劇的に変わる。それ故にこのレベルが完成したのだ。
「あんた! これ、どんな化け物よ!」
しかし、セラにとってはレベルよりも、肝心のステータスの方に目がいってしまったのだ。でも雪にとっては慧馬たちというチートのステータスを見てしまっているので、そこまでえばれることでは無い。
「そんなことよりも、ここをみろ」
「魔法、適正ゼロ?」
「そうだ。これが原因で俺は魔法が使えない」
セラに指さしたのは能力欄の魔法適正ゼロ。
「だから、魔術を作ったの。これでわかったか?」
もう、黙ってコクリと頷く事しかできないセラ。
「よし! これで少なからず信用はできるだろ?」
そして、笑顔を見せる雪。それは先程のゾクリとするほどの冷たさを帯びてはいなく、どちらかと言うと温かさを感じる笑顔にセラはまたしてもコクリと頷くのであった。
不自然な会話にならないようにしましたが、大丈夫でしたでしょうか。




