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第十三話 セラ

今回セラの一人称です


【西の神殿(ダンジョン) 深層】


 「え?」


 目の前に立っていたのは少年だった。


 このダンジョンのような真っ黒な髪をたなびかせ、安物の装備に包まれた少年の瞳には光一つ映っていない。


 そんな少年の右腕は無く、かと言って今、魔法が使われたのかすら自分には分からない。しかし、眼前には先程自分を襲ってきた魔物の死体が転がっている。


 そして再度


 「えっ?」


 目をパチクリと瞬きさせ、驚きを隠せない自分に少年はゾクリとする程の冷たさを帯びた声で尋ねる。


 「お前がセラか?」


 その問いに私は、黙ってコクリと頷く事しか出来なかった。


◆◆◆◆◆◆◆


【数十分前 西の神殿(ダンジョン) 深層】


 「ぐずっ、お姉ちゃん。助けてぇ」


  私は泣きじゃくっていた。


 目の前には殺された先程まで和気あいあいと会話を重ねた仲間の死体が転がっている。


 殺した奴は肌白い男だった。だけど、その容姿に反し、彼は人間では無い動きをした。手から放出される糸、それが瞬く間に私たちを襲ってきた。


 決して剣では切断されない強靭な糸、私たちの装備を易々とスパスパ斬るその糸は、仲間の体を斬るのは余裕であった。


 数日前、私はお姉ちゃんと喧嘩してパーティーメンバーと一緒に泊まっていた宿から飛び出した。喧嘩の原因なんてほんとちっぽけな事だった。私の買ったケークをお姉ちゃんが間違って食べてしまっただけだったのに私は、私は·····


  何度も謝ってきた。だけど、私は許すことが出来なかった、しまいには宿を飛び出していた。しかも


 『お姉ちゃんなんて、だぁいきらっい!』


 というおまけ付きで、全部私が悪いのだ。あの時私が許していればこんな事には·····それから私は、ダンジョンに潜るというパーティーの人に誘われてダンジョンに入った。


 イライラするこの感情を何かにぶつけたい気分だったから二つ返事で了承したのだ。


 五階層までは容易に攻略出来た。私の職業は『剣士』。アセムと引けを取らないほどに強かったからそれで過信した。


 五階層のボスはアラクネに似た何かだった。


 容姿は肌白くて、でも目はお姉ちゃんと·····ううん、お姉ちゃんよりも何か黒みがかった感じだった。


 そのボスが化け物と気づいた時は、もう遅かった。突然、床が抜けてダンジョンの深い場所に落とされて、目を覚ました時はネバネバした糸にくっついていた。


 そこで六人いた仲間の内二人があの化け物に殺された。残された私と四人は命からがら逃げてきたけど、でも結局追いつかれてしまった。


 その時リーダーの青年が私に逃げろって逃がしてくれた。


 『君は、僕たちが誘わなければ、こんな目には合わなかったんだゴメンよ。せめて逃げて!』


 その必死の表情に思わず、私は背を向けてその場から逃げてしまった。そして、しばらく経った後、その場に戻ったら·····


 なんで私は逃げてしまったのだろう。あの時一緒に戦ってたら、もしかしたら生きられたのに、こんな暗いところで一人はやだよぉ


 「お姉ちゃん。嫌いって言ったの謝るから助けてよォ」


 また涙がでてきた。


  ザッザッと足音が聞こえてくる。


 「お姉ちゃん?」


 しかし、現れたのはシャドウウルフだった。


 影のように真っ黒な毛並みをした狼の魔物。その牙は噛みつかれるだけで、腕を引きちぎるほどの力だって聞いたことがある。


 「いやぁ」


 思わず逃げ出した。


――ああ、まただ。また私は逃げるのか·····


 「ワン! ガルルッ!」


  シャドウウルフの唸り声が聞こえてくる。ドサッと私はつまづいてしまった。


――あぁ、私の人生はここで終わっちゃうのか·····お姉ちゃん。会いたいよぉ、助けて


 迫り来るシャドウウルフに私はギュッと目を瞑った。だけど待てど暮らせど痛みは来なかった。代わりにシャドウウルフの痛がる声が聞こえてきた。


 「キャウっ」


 えっ!?


 「魔ノ術 一ノ型<魔砲>」

 

 そして、次に男の人の声が聞こてくる。何かの技なのかな? 詠唱?


 「キャウウ」


 不思議、熱さもなにも感じない。でもシャドウウルフの死ぬ声は聞こえてきた。そしておずおずと目を開けると、そこにはダンジョンの暗さにも似た真っ黒な髪をたなびかせた少年が立っていた。


【現時刻 西の神殿(ダンジョン) 深層】


 「あなたは誰?」


 私の問いに、彼は虚ろな目を向けて答える。


 「俺の名はユキだ。よろしくセラ」


 先程から私の名前を連呼している。でも、私とユキは初対面のはず、なんで?


 「ああ、すまん。俺はリリスの知り合いなんだ」


 リリス·····その言葉に私は思わず反応してしまった。


 「リリス·····お姉ちゃんを知ってるの!? ねぇ教えて! お姉ちゃんに会いたいよぉ!」


 でも、私の質問にユキは困ったように目を泳がせる。一瞬の間の後、覚悟した顔つきで私に向けて衝撃の事実を言い放つ。


 「リリスは死んだよ·····」


 えっ!?


 「嘘よ! そんなの嘘! お姉ちゃんが死ぬはずない! 嘘つき!」

 「嘘じゃない」


 そう言うユキの目は真剣だった。


――本当にお姉ちゃんが死んだの?


  「リリスとの約束を守るために俺はお前を探してたんだ」


  約束? 何それ?


  「セラを、お前を幸せにする約束」


 その言葉に私のどこかがプチっと切れる音がした。


 「幸せ!? 何を言ってるの? お姉ちゃんが居ない私に幸せなんてない。あの時逃げた私に幸せなんてない。さっきからなんなのよ! あなたは何者なの? 私を困らせて楽しいの? ねぇ答えなさいよ! お姉ちゃんが死んだって言ったけどなんでそれを知ってるの!? なんか答えなさい!」


  気づけば、私はユキの胸を叩いていた。ドンドンと力強く、涙を流しながら私はずっと叩いた。しばらく叩き続けたところで、私を温かさが包む。


 「すまない。俺の目の前でリリスは殺されたんだ。でも、死ぬ時に約束した幸せにするのは嘘じゃない。セラを必ず幸せにする」


 瞬間、絶え間ない涙が溢れた。嗚咽を漏らしながら、私は叩いた時間以上ユキに抱きつかれながら泣いた。


 そんな時ずっと優しく私の耳を撫でてくれた。それが気持ちよくて、長らく来なかった眠気が私を襲ってきた。そして、私はその睡魔に意識を刈り取られ、眠りについた。

補足しますとケークはケーキです。そのままだとあれなので異世界版という事でアレンジしました、と言ってもありがちですけどね。

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