第九話 歓迎パーティー
あれから、パーティーを開くことになった。場所は、彼らの泊まっている宿の一階にて開かれる。オーディーと雪が一時的にもパーティーに入ることに、ガデスのもの達は大いに盛り上げる。
「それじゃあ、オーディーさんとユキくんの一時的パーティーを祝いまして〜乾杯ッ!」
「「「「「乾杯」」」」」
雪とオーディーは苦笑気味であったが、ガデスの人達の笑顔を見ると、どうしても断れずにはいられない。アセムの一言により祝賀会が始まった。
「えぇ、オーディーさんって貴族の出じゃないんですか!?」
「ああ、そうだぞ。どうだ? 驚いたか?」
「そりゃあそうですよ! それじゃあ俺にもオーディーさんみたいに強くなれますか?」
「もちろんだ。鍛錬を怠るなよ」
「はい!」
ワイワイと盛り上がりながら、歓迎パーティーは中盤に差し掛かっていた。既に酔いが回り始めたオーディーが自分の事をベラベラと話し始める。
その横で、雪は気まづそうにキュリジュースを飲んでいた。キュリジュースとはアルコールが入ってない、言わばノンアルコールカクテルみたいな物だ。
キュリという果物の果汁をふんだんに使ったこのジュースは、地球で言うところのキウイフルーツみたいな味がする。
「ユキさん。隣良いですか?」
不意にかけられた声に、一瞬ビクッとなるが、リリスの声だと分かり、了承する。
「えぇ、どうぞ」
「ありがとうございます」
現在、オーディーの周りにはアセムとクロ、ロエナが囲むように座っていて、実に楽しそうである。多分だが、居心地が悪くなったのだろう。その気持ちは少なからず分かるので、雪は苦笑気味である。
「楽しそうですね。あれ」
そう言ってリリスはオーディーたちを指さす。やはりか、と雪が思わず笑ってしまう。
「どうしたんですか? 何か面白いことでもありました?」
「いえ、今俺も同じことを思ってまして、それでね」
「そうでしたか」
彼女の手にはキュリジュースが入ったコップが握られている。どうやら彼女も酒の類は苦手らしい。思わぬ共通点だ。と言っても雪は単に地球から来たという事が理由の一つなのだが
「絶対妹さんを見つけ出しましょうね」
「そう、ですね。よろしくお願いします」
やはり心配なのだろう。見ると、そこまでキュリジュースが減っていない。食道にものが通らないのだろう。
「心配ですよね。やっぱ·····」
「はい·····なので早く会いたいですね。会ってその姿を見るために頑張らなきゃ、ですね」
そうして無理に笑顔を作る彼女の顔は、実に痛々しかった。
(リリスが俺のステータスを知ったら、軽蔑するのかな·····)
不意にそんな疑問が浮かぶ。自分は今回の散策に限って、いや全てにおいて足でまといだ。
そんな自分が本当に彼女たちについて行っていいのか? という疑問が今更になって脳裏に過ぎる。そんな雪を見て、リリスが声をかける。
「そんな張り詰めなくていいですよ」
「え?」
見ると、彼女の顔は先程の取り繕った笑みではなく、本来の彼女のような笑みを浮かべていた。
「確か新人さん? でしたよね」
「はい」
もちろん、リリスたちには新人団員として来たとしか伝えてない。
「でしたら恐怖に怯えるのではなく、ダンジョンに潜る時はロマンを追い求める、という意識に変えた方が幾分かマシだと思いますよ」
「ロマンですか?」
「はい。財宝や魔物、眠っている神さまを含めて、冒険心をもって前向きに行けば、大抵何とかなるものですよ」
(前向きか·····)
この人になら本当のステータスを見せてもオーディーのように軽蔑な言葉などは飛んでこないと、ふとそう思ってしまった。
(明日の夜ら辺にでも伝えた方がいいかな)
まだ言うのは少し躊躇われる。何ともヘタレな雪であった。
「はい、ありがとうございます。ロマンですね? 分かりました。気持ちが幾分かマシになったと思います」
「それは良かったです」
やがて、酒の力によって歓迎パーティーは終わりを迎えたのであった。




