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依頼その三 仲人募集中

「和解エンドといえば、こんなこともあったなぁ」



 ウン=シェスの大通りをゆくユゥラは、ウェイナーくんを見上げる人々の不安げな視線に晒されながら王城へ向かった。魔物の脅威こそ去ったものの、皆、魔王城から戻ったのが“幻月の勇者”セルト・シュクリッシュではなく鎧の化け物ただ一体であることに戸惑っている。衛兵と交渉して城内にウェイナーくんを駐機させてもらい、ユゥラは王に謁見した。

「よくぞ戻った!おお、そなた一人とは。魔王との戦いは熾烈を極めたのであろうな?民は救われたが、支払った代償も高かった……」

「いえ陛下、“幻月の勇者”は魔王の説得に成功したんです」

「……まことか」

「はい。そのことで陛下にご報告があります」

 ユゥラはセルトからの書状を大臣に差し出し、順を追って説明した。

 まず、依頼は直接魔王城へ来いというものだった。それだけなら珍しくない(魔王城の攻略に苦戦中の勇者がよく依頼してくる)が、なんの抵抗も受けぬまますんなり玉座の間にたどり着いてみると、勇者セルトと巨大な魔竜とが仲良く並んで待っていた。

 セルトは無用な争いを好まない正義の人で、どんな相手にも説得から始めるのだが、魔王と話し合ってみると人語が通じたばかりか、なんと魔王が雌であることが判明した。決して剣を抜かないセルトの態度に魔王はいたく惚れ込んだようで、自分と結婚するならウン=シェスへの侵略をやめると提案してきた。セルトのほうでも断る理由がなく、かくして約束通り魔王軍の侵攻が止んだ。しかし、こんなことを自ら王城へ出向き報告すれば発狂したと勘違いされかねないので、事の顛末を手紙にしたためてユゥラに託した、という。

「信じがたい話でございますな……」

「しかし他ならぬ“幻月の勇者”のことだ」

 王と大臣は顔を見合わせ、廷臣達がざわついた。手紙の末尾には「××の月×日に都にて結婚式を挙げたいので、くれぐれも魔王の姿を見て動揺しないように」と書いてあり、こんな機会はめったにないからと、ユゥラも式を見届けることにした。


 当日、勇者は空からやってきた。王国軍による厳重な警備の中、翼を広げた横幅が城壁のあちらの端からこちらの端ほどもある一頭の魔竜が降り立ち、城へ通じる大通りがそのままヴァージンロードになった。怯える人々は歓声も悲鳴も上げることができず、物珍しさに目を見開くばかりだったが、そんな張り詰めた空気の中心でもかまわず、魔王はまるで仔犬のように勇者に寄り添うのだった。城門では、教会からこの危険きわまりない仕事を押し付けられたのであろう司祭が震える声で式を進行し、王と、大勢の見物人と、それからユゥラの祝福……というか注目を浴びて、人と竜との前代未聞の誓いのキスが交わされた。

「この光景に皆様が驚かれるのも無理はありません」セルトが言った。「勇者の気が触れたのでは、とか、魔王に騙されているのでは、と疑う方々も少なくはないはず。仮にそうだとしましても、人と魔物とが愛によって結ばれ得るものかどうかを、皆様には見守って頂きたいのです。もしも妻が約束を違えるなら、そのときはセルト・シュクリッシュの名にかけて、命をもって償いましょう」

 続いて魔王が言葉を継ぎ、竜の喉からというより、地獄の底から沸き上がってくるかのような轟音が、しかし、はっきりと人語になって都じゅうに響いた。

「人間よ、私は勇者セルトの振る舞いに感服した。我が魔軍のもたらす死と破壊の暴威の前に、こうまで忍耐強く、しかも他者への敬意を持って立ち向かう者がいるのかと。我々は長きに渡り、この地での生存権を巡って争ったが、人間がセルトの志を忘れぬ限り、こちらも人間の善なる心を信じ続けるだろう。私はセルトを失いたくない。生まれてくる我が子にも、にどと過ちを繰り返させはせぬ」

 魔王は幸せそうに下腹をさすった。遠目には分からないが、もう卵があるのだろう。愛し合うふたりの間に疑義を挟む権利など誰にもなく、王と民衆は魔王の言葉に拍手で答えた。我らがセルトは本当に()()()()()()()尊敬に値する真の勇者である。

 最後にブーケが投げられたが、ウェイナーくんの手が届く前に、魔王の剛腕によって花束は空中でばらばらになってしまった。……もっともそのおかげで、あんぐりと口を開けて見上げる娘達みんなに色とりどりの花吹雪が降り注いだ。



「あら、すてき」

「っていうより、壮観だったよ」

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