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魔王討伐、引き受けます  作者: ユウグレムシ
特別編 ユゥラ 対 機械騎士軍団
19/21

その八

 “流れる寝台”の上で、薄い円盤を自動工具が穿っている。目にも留まらぬ機械の動きは一見でたらめのようでいて、しばらく観察すると円盤ごとに一定のパターンが見えてくる。工具の力は金属板に穴が開くほど強くはなく、仕上がった円盤を裏返せば、ところどころ飛び出た突起がオルゴールのピンのごとき役割を果たす。機械騎士の本体に組み込まれたとき、回転する円盤と読み取り装置の奏でる調べが機械言語となるのだ。自律型被造物を組んだ経験のないフェイにとって、このような部品に見覚えがないのは一目瞭然だった。

「父は機械騎士をいろいろな用途に使い回すことを想定していたようですね」屋敷から持ち込んだ日誌をりつつアイラが言った。十枚ぶんのスロットをもつ読み取り装置は黒い箱(心臓部を他の装置と区別するため黒く塗り分けられている)で、数ヶ所の接点以外の大半の歯車から独立しているものの、機械騎士が完成すると機体内部に封じ込められて取り外せなくなる。アルトゥエは機械騎士を消耗品と割り切り、一個体の汎用性よりも生産効率と頑丈さを選んだのだろう。

「この箱が機械騎士の急所ね……。念のため覚えとこう」

「はい。設計メモによると、機械言語を刻んだ八枚の円盤のうち、一番から五番の内容が基本動作。六番と七番が連携行動。ですので、これら七枚は変更できません」

「不具合の原因になってる八枚目と、残り二枚ぶんのスロット、あわせて三枚までで何とかしなきゃいけないってことか。機械言語なんて、あたし勉強したことも……」

「その点は大丈夫。あっちにラッパがあるでしょう?」

 見れば、作業卓の上、木製の台座にさきほどの金属板の原版が寝かせてあり、その円盤の片端の装置から金属の花が咲いている。

「あのラッパに向かって人間の声で命令すると、機械言語に翻訳されたものが原版に打刻される仕組み……?らしいです」

「ほぉ」

 フェイは被造物沼に片脚を突っ込んだ者として純粋に敬服した。しかしこの音声入力システムは、ウェイナーくんの防犯装置に使われている音声認識システムと同じアイデアを《アモンの書》から応用したものだ。

「すると最後はやっぱり、新しい命令をどうするかって問題だけか……。うーん……」

「フェイさん、まさか何も考えてなかったんですか?」

「話しかけないで……!気が散る……!」

 白馬が二人の間に首を突っ込んできた。おまえはどう思う?とアイラが訊いてみても、馬は馬なので答えられようはずもない。いっぽう馬の主人はというと、あくび混じりに地下階をぶらついては、修理の済んだ機械騎士がリフトに載せられて地上へ送り出されてゆくさまをぼんやり見上げている(機械騎士は工房内では機能停止し、地上へ出てから覚醒するのだった。だから職人達は金槌を持っていても狙われずにいるのだ)。


 戦いの場面ではあんなに頼もしかった大人達なのに……。アイラは溜息をつきつつも日誌にヒントを求めた。あまり物分かりのよろしくない機械騎士に魔王討伐を命じるにあたり、父アルトゥエも大いに悩んだはずだからだ。開発メモを追ってぱらぱらとページをめくるうち、うっかり関係ないページを開いてしまった。そのページは昨晩読んだ箇所だったので、紙にクセがついて、他よりも多少開きやすくなっていた。


“……どうやら被造物というものは、この世に生み出されるたび創造者に対して反抗するようにできているとしか思えない。宮廷魔術師たる私が教会のたわごとを鵜呑みに……”


「創造者に対して反抗を……反抗期……」

「ん?なんか言った?」

「フェイさん。もし名案がないなら、私のアイデアを試させて頂いてもいいですか」

「説明してくれるならね」

「被造物は、子供なんです。子供はいつか親に逆らって巣立つもの……。被造物にも、あれをしろ、これをしろ、と、くどくど命令するんじゃなくて、やりたいことを好きなようにさせてあげたらいいんじゃないでしょうか」

「具体的にはどう指示してやるの?」

 アイラは音声入力装置に新しい原版をセットし、機械の花に顔を寄せた。

「“生きろ”!!」


 ひどくざっくりした指示でも、魔法機械は忠実に翻訳してくれるものだ。フェイと白馬が見守る前で、みるみるうちに八番(改)、九番、十番の三枚に及ぶ新しい原版が完成し(“生きる”という命題は人語ではシンプルでも、機械言語に翻訳するとずいぶん長くなるようだ)、それをアイラが“流れる寝台”の脇の自動工具のスロットに挿入されている古い原版と交換すると、自動工具は新たな動作パターンを得て、たちまち二セット複製した。こうして魔王討伐の命令を持たない円盤のセットがすべての寝台に行き渡り、改良型の機械騎士の生産が始まった。


 両腰に拳を当てて量産の進む様子を眺め上げていたディナスが、ふと完成直後の一体に目を留めた。

「フェイ君!一旦装置を止めてくれたまえ!いま送り出されている機械騎士は、甲冑の腋の部分が前後できちんと噛み合っていないよ!」

「あ?なんだって!?」

「仕方ない……。精度の狂った部品を組み立ての前に寝台から除けばいいのかな?」

 ……とは言ってみるものの、間近で見てもどれが不良品かなど判別できない。そこへ節くれ立った浅黒い腕が割って入り、金槌の感覚だけでいともたやすく部品を手直ししてみせた。

「見ちゃあいられねぇ」「素人はどいてな」

「君達……!」

「機械は自分の間違いを修正できねぇから、けっきょく俺達がついててやらなきゃいけねぇんだ。自動工房が聞いて呆れるよな」

 さっき叩きのめした職人達がのろのろと起き上がって部品のチェックを再開した。もう襲いかかってくる気配はない。

「俺達の仕事場でお前らが何をするのか、確かめさせてもらった。“生きろ”って?なかなかいい命令じゃねぇか。生きてる道具を生み出す……してみると工房ここは、お袋の腹の中ってわけだ」

「鍛冶場はみんなそうさ!俺らァいくつになっても乳離れできねぇガキよ!」

 徒弟達がめいめい金槌を振るい始めても、最後まで抵抗してフェイに倒された男……ギルドマスターのエンヤ・エヤだけは、一階の通路の端で大岩のように座り込んだまま機械に背を向けていた。あの人はどうしたんだい?とディナスが職人に訊くと、親方はいちどヘソを曲げたらしばらくああなんだ、と返された。


 フェイとディナスが工房の屋根から街を見おろすと、あの抽象的な命令の何がどう作用したものか、とにかく目論見どおり機械騎士と機械騎士との戦いが全市街に及んでいた。過去の失敗例にあったようなみじめな同士討ちではなく、機体に紋章のない改良型が明らかに旧型を数で圧倒している。“生きる”すなわち自分のために戦う機械騎士は、決して自殺しない。そして自分をおびやかす者には、相手が何であれ反撃する。まもなく旧型は都から駆逐されるだろう。

「よぉーし……そろそろ工房を止めて、街に出てるぶんを始末しに行こう。でないとあいつら、被造物だけの国の独立戦争をおっぱじめちまう」

「アイラ嬢を責めるわけではないが、我々は怪物を倒すために、さらに怖ろしい怪物を作り出してしまったのかもしれないね」

 二人は地下階へ駆け戻り、手分けして巨大フライホイールの非常に重たいブレーキを三つとも引いた。全体重をレバーに乗せて押し下げると、ホイールとブレーキとの激しい摩擦によって、顔を背けずにはいられない熱気が生じ、火花が散った。

「おい何しやがる!!そいつを動かすのに何ヶ月かかると思ってんだ!ラインを停めたきゃギヤボックスを切り離せ!」

「街のゴタゴタは解決したから、もう機械騎士は作らなくていいよ!ハイみんなおつかれー!」

「なんだ!?たったいま始めたばかりだってのに。作るのか作らねぇのかハッキリしてくれや……」

 職人達のざわめきから逃れるように、三人を乗せた二騎は自動工房をあとにした。

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