その七
アイラを同乗させたディナスの白馬とともにリンゼ邸から打って出たフェイは、街路をうろついている機械騎士めがけて跳びかかると、腰の鞘からウォレンの巨腕で剣を奪い取り、空中で一回転しながら左腕を斬り落とした。バランスを崩した機械騎士は武器を持っているフェイに反撃しかけたが、腰の関節に自分の剣を突き立てられると、しばしその場で痙攣し、それから中心街へ向かってふらふら歩き出した。こうしておいてあとをつければ、隻腕の機械騎士が工房へ案内してくれるはずだ。ところが目貫き通りの市場にさしかかったとき、群衆が二騎の邪魔をした。
「また機械人形を連れてきやがったぞ!」「あんたら街を壊しに来たのか!うちの店をどうしてくれる!」「よそ者は出ていけ!!」
人々にしてみれば、二度ならず三度までも市場を破壊されて堪忍袋の緒が切れた、といったところだろう。が、いちいち弁解している時間がないし、どうせ腹が立っているだけなので、この場で説明したところで聞く耳を持つ連中ではない。勇者ディナスは投げつけられる野菜や鶏卵からアイラをかばいつつ、はいはい、狭量で身勝手な民衆ね、と言わんばかりに馬の手綱を引いて、ひと跳びで包囲の輪を飛び越えた。
「急ごうフェイ君!なぁに、勇者をやっていれば毎度のことさ。我々は仕事をして、その成果をもって彼らに意義を教えてあげよう」
フェイもウォレンの両輪を少し空転させて脅してやり、群衆を押し分けるようにむりやり進路を開かせた。建物の屋根が連なる彼方では、さきほど損傷させた機械騎士が片膝をついた姿勢のまま、ゆっくりと地面へ吸い込まれている。工房の修理場は地下なのだ!
機械騎士を載せたリフトに紛れて忍び込めたらよかったのだが、尾行に失敗した三人は、もはや地下への入り口がどこだか分からない裏手から正面玄関へ回った。秘密施設だけあって工房を囲む壁は高く、じゅうぶんに助走をつけたフェイが体当たりで門とその奥の扉を一気にぶち抜いた。あとに続くディナスは、玄関に馬を繋いでおくわけにもいかないので、アイラを乗せた馬を牽いて、腰を抜かしている二名の門番のあいだを通り抜け屋内へ入った。
煉瓦造の巨大な建物は、地上の高さこそ二階ぶんしかなかったが、内部では天井のない地下階によってインゴットと予備パーツを多数格納するスペースを確保しており、床いちめんが機械油に黒光りする無骨な装置の群れで埋め尽くされていた。なかでも目を引くのが、轟音を発して回る並外れて大きいフライホイールである。この円形の金属板は回転力をよく保存するように重く分厚く作られていて、起動させるのにたいへんな魔力と複雑な増幅装置が必要だが、いったん回り始めてしまえばちょっとやそっとの力では止められない。ウォレンの内部で絶えず回転し続けている小型のフライホイールと同じく、ここに接続した歯車の組み合わせを工夫することで、回転運動からさまざまな自動工具を動かす力を取り出すわけだ。
頑丈なシャフトに支えられた縦置きのホイールが横に三つ並び、それらの間に機械騎士を製造する細長い寝台が、やはり三つある。機械の腕に囲まれたそれぞれの寝台の片端は、いわば職人のいない鍛冶場で、インゴットから装甲板や細かい部品を鍛造している。寝台の中程では、冷却された部品を研磨している。そして寝台のもう片端では、加工の済んだ部品を手際よく組み立てている。寝台の周囲には人間が付き添っていて、始めの端から終わりの端へ少しずつ流れてゆく部品をときどきチェックしている。
「お客さん、見学会は受け付けてねぇんだがな」
一階の四方の壁に沿って張り出している通路の向こうから男達が歩いてきた。
「関係者以外立ち入り禁止だよ!聞いてんのかコラ!」
「無礼者!王命である!」
アイラの声に屈強な男達が揃ってひざまづいたが、それらの体躯に隠されていた年かさの一人だけは動じず、小首をかしげて金槌で筋肉質の肩を叩いた。機械騎士の目の前で金槌を持っている……?
「へぇ。国王陛下が何て?」
「フェイ君、後ろも筋肉の壁で塞がれているよ」
「分かってる。……痛い目見たくなきゃ、被造物のここを造ってる作業場に案内しな」フェイは親指で自分の甲冑の胸元を指した。「今の機械騎士は融通の利かないポンコツだから、命令を書き換えて改良しなきゃならないんだとさ」
「どんな改良だ?素人には任せられねぇ。命令書を見せろ」
「……」
「……生憎わしらのスポンサーは国王陛下じゃねぇんだ。野郎ども、お客さんにお帰り願え」
たちまち肉の波がフェイとディナスに襲いかかった。最初に金槌が群れ飛んできたが、フェイはウォレンの前輪を甲冑形態のまま空転させてすべて弾き返した。そして左腕を振り抜く勢いで二輪車形態に変形させると、建物の内壁に両輪を押し付けてウォレンだけを突撃させた。狭い通路になだれ込んできていた職人達が次々と撥ね飛ばされて地下へ落ちてゆく。
「やっぱり全員ぶちのめさないとダメみたいだね!」
「やれやれ、どうしていつも事件がクライマックスに近づくと殴り合いが始まるのかな!」
ときどき後足を蹴り上げては援護する白馬の首にしがみついてアイラが耐えるあいだに、張り出し通路を一周してきたウォレンがディナス側の鍛冶職人を背後から突き倒し、敵のうちで立っているのは年かさの男だけになった。
「女に用はねぇ!そっちの兄ちゃん、サシで決着つけようぜ!」
「誰に用がないってぇえ!?」
ウォレンと再合体した左肩を盾にフェイが躍りかかる。その足元で、まぶたや頬を青黒く腫らした徒弟達はろくに立ち上がることすらできない。
「親方のゲンコツを受け止めやがった……!」「つ、強えぇ……!」
「失せろ!仕事の邪魔だ!」
「てめーらの仕事がぁ……」
フェイは体当たりで親方の巨躯を浮かせ、身体をひねって半回転の勢いをつけてから、
「……迷惑の元なんだよッ!!」
毛むくじゃらの胸板に金属の裏拳を打ち込んで叩き飛ばし、十歩ぶんほど先の通路の肉の海に沈めた。




