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依頼その十 話し相手がほしい

「勇者も魔王も本当にいろいろいるもんだねぇ」

「これでもごく一部だよ。まあ、パーティの喧嘩別れで魔王討伐がおじゃんになっちゃうとか、金欠で報酬がもらえなくなってあたしだけ途中離脱とか、話の種にならない仕事がほとんどだけど。みんなそれぞれ冒険して、恋愛して、泣いて笑って、勇者様、勇者様、って周りの人からちやほやされて。最初のころは妬けたなぁ」

「魔王城に、よく骸骨が落ちてるだろう?」亭主はまるで見てきたかのように言った。「ああいうのだって、ダンジョンのおどろおどろしい雰囲気を演出するためのオブジェじゃあない。ひとりひとり自分の人生を生きてた勇者だったんだからね。傭兵稼業もいいけどさ、若いうちに先のこと考えて、いいひと見つけなよ?」

「あたしの人生かぁ」

 たそがれるユゥラの背後で出入り口の扉の蝶番が軋み、「いらっしゃいませー」と給仕の娘の声がした。

「すいません。おばさん、ユゥラ・ブレインズさんはいらっしゃいますか?」

「おばッ……」亭主が少年の顔を見て黙った。幼いながらにイケメンである。

「もしかしてオキくん?」

「オキ・ヒロノです!ユゥラさん?すいません、お待たせしました!」

「ぜーんぜん待ってないよ。いま来たとこ。……じゃあ女将さん、あたしはこれで」

「勇者に」「勇者に」

 魔王に。ユゥラは最後のひと口を亭主と乾杯した。


 自分語りは仕事の憂さ晴らしになって気持ちがいいものだ。ほろ酔い気分で<戦士の休息>亭の中庭に出てみれば、片膝をついたウェイナーくんの爪先で大人の靴跡のあいだに刺激臭のする水たまりができている。

「あの酔っ払い!こんど見かけたら挽肉にしてやるー!!」

「?」

「ごめん、こっちの話。行こっか?」

 ただいま、の声に応えてウェイナーくんの胸部装甲が展開し、ユゥラは「すいません」「すいません」と繰り返す“スイマセン少年”こと勇者オキを操縦室へ引っ張り上げた。オキは本人が説明するところの“チートスキル”の使い手で、単独でも魔物との戦いに支障はないが、引っ込み思案な性格ゆえ仲間に恵まれず、話し相手がほしかったという。嘘か本当まことか、魔王討伐のために“よその世界”から召喚されたそうで、あちらでは人生うまくいっていないようだった。

 旅を続けるうちに、人見知りしがちなオキもユゥラとだけはよく会話するようになり、ウェイナーくんを見て“キョダイろぼっと”だと感動したこと、そして彼の世界では無数に存在するというキョダイろぼっとのことを話してくれた。ウェイナーくんの性能も身長も軽く上回る鋼の化け物がギュンギュン飛び回る世界と思って聞いていたら、大半が作りごとというオチだったが、要するに、あちらの世界でのキョダイろぼっとは、神話が廃れた世の中で神話の役割を果たしているのかな、とユゥラは考えた。実在しないことは承知していても、キョダイろぼっとの絵を描き、キョダイろぼっとを讃える勇ましい歌を唄って心の支えにする。世界が違っても人は空想をするものなのだ。

「こっちの世界では、ウェイナーくん的なロボットはふつうなんですか?」

「ろぼっとじゃなくて“被造物テクネトス”」

「すいません」

「ウェイナーくんはあたしが作った一品もの。もともとの動機はきみの嗜好と似たようなもんで、強くてでっかいものに憧れててね。傭兵はじめたのも、ウェイナーくんの出来栄えなら仕事になりそうだと思ったから。争いごとが好きなわけじゃないけど、壊れるたびに修理とか改良とか繰り返すの、楽しいんだなーこれが」

「へぇー。発明家さんか何かだったんだ」

()()発明家」

「天才発明家さん」

「ふふん、ありがと」


 魔物との戦闘になれば、ウェイナーくんの大剣よりもチートスキルのほうが圧倒的に早く片付くため、勇者に任せた。今回の依頼は護衛でも助っ人でもなく話し相手だ。しかし話題を振ろうにも、魔王城へ近づくにつれオキはふたたび塞ぎ込み、会話が途切れがちになってゆく。無理もない、彼は任務を終えたら“よその世界”へ送還される運命にあるからだ。チートスキルを失い、引っ込み思案な少年としての灰色の人生の続きが待っている。ユゥラはオキに何をしてやれるだろうか?「帰りたくない」と、ひとこと言ってさえくれれば……。

 せめて剣と魔法の世界にいるあいだだけでも、と抱き締めてあげようとしたら、膝の上でオキが何かをじっと見つめていた。手帳のようなものの中にオキと同じ年頃のかわいい女の子が立っている。絵にしては妙に写実的だが……これは恋人の肖像画ってやつだ!!

 みごと魔王を倒した勇者オキ・ヒロノは、ユゥラに何度も頭を下げて報酬を手渡し、ガールフレンドが待つ世界へ帰った。

 トホホ、慣れないことはするもんじゃないな。


おわり

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