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依頼その九 いくらなんでも強すぎる

「雑魚掃除からラスボス撃破までぜーんぶあたしのワンオペ。どんだけお金もらえたって割に合わないよ」

「ユゥラちゃんすごいんだね。それってまるきり勇者じゃないか」

「あたしもウェイナーくんも無敵じゃないけどね。ごくまれにだけど、勇者でも手に負えないようなヤバいやつがいる。いままでで一番ヤバかったのは……」



 ユゥラの膝の上に背嚢を抱えた女の子がちょこんと座っている。今回の仕事は、魔法使いのソアを勇者達の元へすみやかに送り届けることだ。

「魔王城の最上階で“あれ”と対面したとき、ピンときたんです。普通の魔王とは違うぞって。都へ引き返して図書館で歴史書を漁ったら、見たとおりのものが記録されていました。魔神モンノゾンク……それが“あれ”の正体」

「“魔神”?」

「魔王の中の魔王。魔の根源。神話では、世界に原初の光がもたらされたとき闇の部分として生まれたうちの一柱と伝えられています。私達は魔王討伐のつもりで出掛けていって、魔王より上のランクのやつを引き当てちゃったんですよ」

 勇者達と別れた彼女は単身、師匠の庵を訪ねて相談し、師匠が秘蔵していた究極召喚魔法のスクロールを借りてきたのだという。ウェイナーくんをまっすぐ歩かせるだけなら、ペダルを軽く踏んでさえおけば操縦に専念しなくてもいいので、ユゥラは地図を見ながら異国の都へ向かった。


 旅の宿で魔女っ子ソアを勇者ヴィメイン・セッソンに引き合わせたユゥラは、勇者に頼まれてそのまま魔王城へも同行することになった。ソアの報告で魔神がどれほどヤバい相手かを知るとパーティは揉めに揉めたが、喧嘩になる前にヴィメインが取り仕切り、いちおう切り札のスクロールだけは使ってみるとの結論でまとまった。

 魔王城までの道のりは、普段ならダンジョン深部でしか遭遇しないような強力な魔物であふれ、ユゥラの技量とウェイナーくんの性能をもってしても手こずらされた。準魔王クラスの強敵との連戦を経て魔王城の最上階へ到達する代償に、ユゥラはウェイナーくんの左腕を支払わねばならなかった。

 ……ユゥラの見るところ、問題の部屋に魔王はいなかった。そのかわり部屋の奥が崩れており、壁と床の一部が抜けた穴の中で暗褐色の濁ったなにかがきらめきながらゆらいでいる。

「あれです!」

 瞬く星空を内包するヘドロの塊が立ち上がり、ウェイナーくんに無数の触手を伸ばしてきた。


 左肩の破断面をかばって半身(はんみ)の姿勢を取り、剣先で可能な限り大きく複雑な軌跡を描く。きちんとした魔法陣を描けば、手間がかかるぶん強力で長時間持続する魔障壁が生成できる。魔王より格上というから果たしてどれほどのものかと身構えていたが、少なくとも今の攻撃ならウェイナーくんでも対処できるレベルらしい。

「ソア!早く!!」

「やってる!」

 魔女っ子がスクロールの封印を破った。ポーチから取り出した魔法のチョークで部屋の床にてきぱきと召喚陣を完成させてゆく。

「なにこれ?呪文の前にメモが……」文面を追うソアの顔からみるみる血の気が引いていった。

「メモがなんだって!?急げソア!!俺達はどう動けばいい!?」

 究極召喚魔法サモンジェネレイターは、呪文と召喚陣の組み合わせで発動という、よくあるタイプの召喚術だが、大物を喚び出すがゆえのリスクもあり、それこそがソアを躊躇させていた。……生贄の命が必要だったのである。

 ごめんね、ごめんね、とソアは泣きじゃくるが、前もってスクロールを読んでおけばよかったのに、とか、召喚魔法についてもっと詳しく師匠に訊いておけばよかったのに、とか責める者が、この期に及んであろうはずもない。そもそも古代のスクロールは、ひとたび封印を破れば魔力を放出し尽くしてしまうので、あらかじめ中身を読むことができず、ソアの師匠さえ詳しい内容は知らなかったのだ。

 魔神を倒すため、誰が犠牲になるのか?勇者達の当惑と無関係に触手攻撃は続き、きらめくヘドロの怪物が洞穴のような口を開けた直後、闇の波動で魔障壁が砕け散った。

「くっそ、どうするヴィー?逃げるか?」

「魔神を放置したまま逃げられるかよ!助っ人がいてさえこんなに大変だったんだぞ?次があるかどうか……やるしかないだろ」

「まさか……」

「おい、よせ!」

「やめてー!!」

 仲間達の制止を振り切って召喚陣に跳び乗った勇者が自らの首筋に刃を……。と、そのとき瓦礫の隙間から一匹の魔虫ブラックローチが這い出てきたのをユゥラは見逃さなかった。


 ぷち。


 召喚陣から上方へ光の柱が林立し、ソアが大慌てで呪文を詠唱した。人であろうと虫であろうと命の重さに違いはない。創造神オリストロスは、ただその場に顕れただけで、魔神モンノゾンクを光芒の中に霧散させた。こちらを向いたオリストロスの目は「ゴキブリで召喚するな」と言いたげだったが、スクロールの魔力が五秒ともたずに送還されていった。



「勇者くんは無事だったんだね?」

「うん。魔神も死んだんじゃなくて魔界に帰っただけなんだってさ。だから、また依頼するかもってソアちゃんが。スクロールはもうないし、今度あんなのが出たらどうするんだか」 

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