1-9.ハゲ猿
「やっと来たか」
宿屋を出るとすぐの所にリーナはいた。
老けてがっしりしたおっさんも一緒だ。
ギルドの真ん前だからそうなる。
「待った?」
「ぜんぜん」
この人は突っかかる癖でもあるのかも。
それにしては素直だったり、よく分からない。
「クマにいくぞ、『恩恵』稼ぎだろ」
もう行くのか・・・多分実入りの良いクエストなどはチェック済みか。
受付とかのお姉さん達を見てから行きたかったが仕方ない。
「こいつはゴリだ、引退しかけだがそこそこ使える」
「ひでえな・・・代わりが見つかるまでよろしく」
「ヨウです、こちらこそよろしく」
リーナといると「です」とか言うのがバカらしくなる。
ゴリという覚えやすい人には、初対面だし使ってしまったが。
「いつまでいるんだ? フレディーのとこから来たんだろ」
「いつまでって言われても」
「そこそこ狩れたら騎士団に戻るんだろ」
「ただの冒険者だけど」
戻るための情報探しはいつか始めるつもりだが、なぜ騎士なのか。
「昨日の落ち着きぶりといい、腕といい、それでギルド初日なら騎士しか無いと思ったんだ。
フレディーのとこには何で?」
「助けてもらった恩人だよ。
訓練させてもらって世話になった」
「ほう、フレディーが直々に訓練か。君は面白そうだ」
ゴリが笑って話す。
「それより頼みますよ。何もかも初めてなんで」
計算高くて悪いが、昨日助けた分くらいは教えてくれるはずだ。
「あー、道具とかは帰りでいいだろ。
ナイフは持ってるな」
喋っていて忘れていたが、昨日分かった各ステータスを大体でも数字で知っておきたい。
減りで見当がつきそうだが・・・。
戦闘経験やレベルアップでの成長度合いが目分量や感覚では分からない。
命を守るためにも必要だろう。
「ここの木の開けた所を進んで横に逸れればクマの多いエリアに行ける。
奥まで進み過ぎるなよ、昨日のバカのように死にかける」
自虐がひどい。
本人にはそんなつもりはなく普段通りなのかもしれないが。
「クマが出たらアタシが炎の槍で一発入れて引きつけるから、昨日みたいに頼む。
ゴリは念の為見てて。
やっと引退できるのに死んで恨まれたくないから」
昨日のオークの感じとは違うが近くに何かいる、『感知』か。
「何か分からないが、あっちにいる」
ゆっくりと向かう。
「頼むぞ、炎槍!」
えんそうって、あ、槍か。
火がクマの頭に当たり、こっちを向く。
ダッシュで向かう、炎槍要らないんでは?
なにせでかいクマ、迫力はあるが、緑色のでかい魔物を昨日斬り殺したばかりだ。
近づくともう既に、自己加速相当の速さの加速が効いている。
昨日よりかなり速いはず。
振り向いたクマの、更に背後に回る余裕がある。
跳躍し・・・毛皮を傷付けないほうがいいか、自己加速に切り替えて脳天に剣を突き刺し抜くまで保持してから、加速を切る。
『冷静』のせいか、毛皮の傷まで気を遣ってしまった。
瞬間、スタミナと魔力の減り方からそれぞれ量が分かった。
スタミナ22から18に、魔力は15から14に減った。
あれ、また総量が増えた。
スタミナ26、魔力17だ。
残量は増えていない、恩恵でレベルが上がったのが分かる。
2人がすぐに来た。
「見事だな、ワシ必要か?」
「すげえだろ、ゴリは作業と運搬に使えるからいいんだよ。
目がいいな、こんなにすぐ見つけて仕留められるって久々だ!」
「ワシは小間使いか・・・毛皮と高いとこだけ持って帰るから、周りに注意しながら覚えてくれ」
「見るだけにしろよ、最初は。傷付けたら安くなるからな。
おお、脳天一撃って・・・」
「お前の魔法のほうが傷つけてるんじゃないか」
一言も喋れず、まあ喋る事もないが、手順を覚えた。
逆さに吊るし血を抜き、冷やしたりは魔法がないから関係ないか。
腹を割いて内蔵を取り出し、肝を取る。
ニオイがちょっと嫌だが、ケモノだからか後は割と平気だ。
自分でやったらまた違うんだろう。
肉を切り出し、軽くしてから残る皮を剥ぐ。
周囲に気配はない。
スタミナが2、魔力が1回復している。
スキルは増えない、おそらく危険も必要も感じなかったからか。
「おい、毛皮の最後の一切りはお前だ。お前の獲物だからな」
ナイフを借り、本当に数センチ分皮と肉を切り離した。
『解体』が増えたようだ、チョロ過ぎだ。
一応スキルとステータスを見ておく。
ステータスの見た目が相当変わって、あれ?アラビア数字、普通の数字だ。
さっき減ったのは魔力とスタミナだけだが、全部数字が見えている。
レベル7
体力26/26、魔力16/17、スタミナ24/26
強さ26、素早さ26、知力35、運100
相変わらず『レベル』の文字やスキルの文字は変わらず、意味は分かる。
数字は割合から算出し、換算されたのか。
そう望んだからか。
運が他と比べて高いせいもあるのか、いずれは他に抜かれそうだが。
そう言えば、運の意味自体は分かるが何と関わっているのか不明だ。
なんかのウンコ踏んだ。
最初のクマはラッキーだったようで、何も無いまま開けた場所に戻り昼食。
宿屋の弁当包みを取り出す、冷えているがあそこのなら大丈夫だろう。
リーナがでかい包みを出し、全部食うのかと思ったら半分袋に戻した。
「イノシシでも狩るか? 解体教えて欲しいんだろ」
「昨日教えてもらったから」
でかい肉塊を噛みちぎるリーナ。悔しそうだ。
「そうだ、オーク狩るか」
「お前、昨日の今日だろう。ワシは行かんぞ」
「アタシらは道案内できればいい、隠れて魔法援護できるし。
まともな仲間ならオークは問題無いのに、クソ」
昨日の経験では、オークは一匹なら問題無いはずだ。
だが、あんな事があってすぐに行くとは根性ありすぎだろう。
「弁当もイノシシも役立たずって・・・」
モゴモゴとリーナがつぶやく、弁当って?
「問題ないんだろ? フレディーお墨付きの魔法師もいるしな」
「あ、うん、問題ないとは思うけど」
ゴリを見る。
「こいつは帰せばいい。
付き合ってくれてありがとな、クマの持ち帰りは頼んだ」
「んなわけにいくか、ワシも行くわ!
見るだけだがな」
実際は何かあれば加勢するつもりだろう、リーナと仲良さそうだし。
昨日の戦闘は聞いているのだろう、なら不安は少ないはず。
「ここはラダが教えてくれた道なんだ。
こっから入るなって言ってたからここからだ」
「ラダって昨日の?」
「いや、かなり前に死んだ。
ルートを見つけるのが得意で、情報売ってたが奥に行き過ぎたんだ」
こそこそゴリと会話する。
少しずつ歩くがオークは出ない。
初っ端が運が良すぎたようだ。
速い、オークか?
『感知』が出た、前のと違う。
(気配・音)という注釈が消えて上位になったらしい。
それよりオークじゃない、強い。
とんでもなく。
「逃げろ! めちゃ速いのが来る!」
「バカな、いきなりそんな」
「走るぞ!」
ハゲて痩せた灰色のサルが、さっきまで先頭にいたヨウを追い越した。
『自己加速』を強めにして追い付く。
サルを羽交い締めに。
「逃げろっ!」
喋ると加速解除された。
「そんなっ」
リーナの足が止まる。
ゴリが強引に担いで走り出した。
たまたま不意を突け捕まえられた。
普通の加速で、暴れるサルを抑えようとするが軽く背負い投げられた。
スタミナは3分の2残っている、一発勝負だ。
『自己加速』を再び上げ、追いつき剣を抜き斬りつける。
この速さで避けられるとは。
離れれば普通の加速に戻す。
切り替えは『洞察』でうまくいっている。
ターゲットを向けるのには成功した。
加速状態ではリーナ達がなかなか離れないので一旦切る。
走っていくのを見守りながサルと対峙。
動き出した瞬間『自己加速』で避けつつ斬りつけ、空振る。
睨み合う、敵と認めてくれたようだ。
再度向かって来るが、虚脱感、加速が効かない。
スタミナ切れ・・・。
いつも、切れた瞬間意識を失うのでそういうものだと思っていたが、意識はある。
目に見えぬ速度で来たサルがヨウにぶつかる。
左にぶつかり、激しい熱さが左肩と脇腹に。
肩から先が消えていた。
警戒して真正面に来なかったのか、取り敢えず左だけで済んだ・・・。
能力切れがバレたようだ、こいつ頭がいい。
瞬間移動のように組み付かれた、肺が潰されそうな力。
『感知』でゴリとリーナがエリア外付近に着いた事が分かった。
良かった。
サルに長い指で頭を掴まれた、引っこ抜くつもりか。
現在スキル:
『会話』(初期設定):『治癒』『加速』『交渉』『洞察』『自己加速』『模倣』『剣技』『冷静』『跳躍』『解体』(NEW)『感知』(統合NEW)
ステータス:レベル7
体力26、魔力17、スタミナ26
強さ26、素早さ26、知力35、運100
■ブックマークとしおりで読み忘れなし!■