1-8.リーナ
帰ってきたのが昼頃か。
宿は普通チェックイン時間があるはずだが、無理に入ったのか、部屋が空いていただけか、そういうシステムなのか。
30分くらいか数時間か、じっとしていると普通に戻れた気がする。
戻ってすぐ、加速2つと剣技以外灰色にしたままだ。
最初の『会話』は別枠になって、切れなくなっている。
恐る恐る『冷静』を入れてみる・・・。
状況を整理して考えられた。
今日の行動全て、イノシシ納品後にいかに無茶な移動をしたか。
これが、普通の冷静だろう。
次々都合よく、というより戦いに仕向けるようにスキルが出た。
それは、『無茶な移動~救助帰還』までの間だった。
今はまともだと思う。
『冷静』スキルが普通に働いている。
フレディーが言うように、無理矢理身を守らざるを得ない状況でスキルが生えたのは分かる。
何がそうさせたのか分からないし、考えても仕方ない。
これからどうすべきか、汚れた服装を袋に入れたまま下着姿で寝ている。
『感知(気配・音)』以外は全てオンに。
交渉、洞察、冷静は普通に役に立ちそうだ、今のところ。
宿の裏口から出て、上下と鎧を身につける。
軽い食事でもしておこう。
泥とホコリをよく払う、加速で動いていたおかげで返り血は僅かだ。
「ちょっと汚れてますが」
「まあいいわ、そこに座って。普通は包みを買って持っていくのよ」
初心者とか説明していないが、交渉の効果か、顔や服装で分かったのか。
「軽いものをください、あっ、今時間は?」
「昼頃でしょうね、お腹が空いたらお昼よ」
ウエイトレスは奥へ。
何かするたびに何でも聞いておくべきだろう、知らないことが多すぎる。
スキルのおかげか、必要そうな答えが帰ってくる。
まさにサンドイッチだった、恐らく水込みで3シルバー。
背負い袋、革袋、ナイフと、円での予想より少し安めだった。
食事もブロンズにすれば、朝600と軽食300。
宿は3000、やはり安めだ。
ブロンズ換算の手間だけで、そのうち慣れそうだ。
フレディーのくれた額は実際50万円以上か・・・気が重い。
狩りは今日はこりごりだ。
そうだ、あの相談窓口へ行こう、キレイなエルフお姉さんにも会える。
先に、更に念入りに埃を払って古着屋を探す。
念の為、適当な上下2着購入。
下着も古着で揃えた。
「色々聞きたいんですが」
「ヨウさん! ちょうどよかった、お話を。こちらへ」
カウンターの奥の談話テーブルのような所へ、窓口には交代が。
「相談員兼色々やってるリリです、色々伺いたいことが。
ギルド権限ですみませんが、マスターから書類が出ています」
書類は全部読んでくれた。
本当に登録は初めてか聞かれた上で、ギルドについて説明してくれる。
ギルド、正確には冒険者ギルド。
各地で情報共有し、貴族の命令にも無条件に従わない位の権限を持つ。
その代わり内部では全ての金品管理など非常に厳しい。
規律違反や信用を損ねれば、程度によっては懲役や死刑になる。
可能な限り個人の能力やプライベートには立ち入らないが、必要となれば今日のように事情聴取も行うそうだ。
「別に悪い意味ではなく、良い意味での事情聴取ですから。
マスターが、あの・・・面白がってまして、ヨウさんの登録初日の成果を」
フレディーの領地で気づいたが心当たりもなく、助けられて世話に。
そこで訓練を受けた事を普通に話す。
スキル以外。
「今日はいきなり森の奥に入ったようですが、理由でも?」
「いつのまにか・・・病気とかじゃないと思いますよ。
あんな事初めてでした」
改めて、フレディーに気に入られた理由『底の大きさ』の話と、『光る石』の話をする。
話しすぎたか、いや困ることなど無い。
それよりも何か情報が引き出せる可能性に期待できる。
「マスター、自分で聞けば良かったのにバカですね・・・。
今のは秘密で」
「信用してもらえるんですか? 登録初日なのに」
「そりゃ・・・あっ」
リリが隣にある台を見て、更に手で隠す。
相手の話の真偽を示す石か何かだろう、バレバレだ。
「わ、私何を・・・会話系スキルでしょうか?」
手を広げ、知らんふりをする。
「い、いずれにしてもここまでお聞かせ頂いたからには、そのうちマスターから情報提供があるでしょう。
分かる範囲でしょうけど」
色々聞きたいのはこちらだったが、改めて聞く。
「冒険者の暮らしが何もかも分からなくて、これの洗濯も」
「『慧眼』のくせに抜けてますね、その程度教えてくれないって」
この人、いやエルフ、一見丁寧だが口が悪い。陰口が多そうだ。
「あの人がまた来るって言ってたんですが・・・あっいた。
リーナさあぁん、こっちこっち!」
服装というか装備を見ると、多分さっき助けた人だ。
顔はまともに見なかったが・・・あの女性だ、目のキツい。
リナの次はリーナか、あの言動では仲良くなれるか微妙だが。
「さっきはありがとう!」
声を張っているが、キツい目は精気を失って見える。
「彼はフレディーのところにいたそうですよ」
「アタシもフレディーに自信を貰ったんだ、あんたも相当なんだろ?」
「いや、ちょっとだけ才能があるって・・・」
リリが石を見てニヤけている。
「ここは場所が悪いんで、あっちで話しましょう。
リリさん、ではまた」
悔しそうなリリを残しカウンターから出ていこうとする。
「ヨウさん待って、ギルドカードをちょっと預かれますか」
「あんた、さっきと少し様子が違う?」
「あの時はちょっと考え事をしてたもんで」
長い考え事だ・・・。
「それより、冒険者の基本を全部教えてもらえますか?
まずは洗濯とか」
「え、基本? 洗濯? まあいいけど。
ソロと聞いたからパーティーに誘うつもりだし、入るよな」
リリがバタバタと近づいてきてカードを返してくれた。
「初日ですが、マスター権限でEランク昇格です。
実力はCランク以上ですが、規則でごめんなさい」
「初日? それで洗濯からか・・・まあどうでもいい」
リーナはDランク、あの2人と値の良いクマを深追いしてオークに遭遇。
リーダーは冷静な男が務めたが、実力的には彼女がトップ。
追い詰められひとりで食い止めたが、もう限界だったそうだ。
「アタシは今日はもう行く気はないが。
もう狩らないだろ、それなら洗濯から教えてやる。
宿はどこだ」
偉そうでちょっとムカつくが、昨日のように見下してないのは分かる。
いちいち命令口調だが、ちゃんと洗濯の手順と盗難防止のため部屋に干す事など教えてくれた。
フレディーが女に変わったと思えばいいか。
リナやエリスと違い、我慢不要だ。
いや、無いか。
「全部教えてやるから、今日の朝と同じくらいにギルドへ来い。
じゃあな」
「あ、ああ、またな」
精一杯言ったというより、口調が移った気がする。
もしかしてパーティーに入ったことにされたかも・・・。
宿は、夕食もエリスと同等以上だった。
フレディーの家は裕福ではないから節約しているのかも、ごめんなさい。
帰ってからずっと、餞別に貰った本を頑張って読んでいる。
魔法ランタンのようなもので日が落ちても大丈夫だ。
明日も早いので、『自己加速』練習をしつつ寝る事にする。
なぜか、丸めた紙はそのまま持って来ている。
ん? 恐らく『恩恵』を得たせいか、ウインドウのひっかかりに変化が。
「ステータス」
開いた!
レベル、らしき文字に6、らしき数字。
不安だが感覚でしか分からない。
下には横向き棒グラフ。
名前はないが全部分かる。
体力、これは0で死ぬわけではないようだ、あくまで体力だ。
順に魔力、スタミナ、強さ、素早さ、知力、運。
大体どういうものか分かる。
消費するのは体力、魔力、スタミナ。
まだ全て画面の左に少しだが、右端で限界なのかなどは不明だ。
今すべて満量なのは感覚でわかる。
スタミナは『自己加速』などで消費するが、自然に回復するようだ。
使う都度、回復具合も見なければ。
「アイテム」
期待したが、来ない。
多分いつか開く、というかもう数個何かが開くようだが・・・。
いつものように紙を投げ、洞察と自己加速を入れる。
いつもより速い!
カウントを数え損なったが、スタミナの減りが感覚で分かる。
元から少ない魔力もほんの僅か減る。
多分同じ秒数・・・・・・
現在スキル:
『会話』(初期設定):『治癒』『加速』『交渉』『洞察』『自己加速』『模倣』『剣技』『感知(気配・音)』『冷静』『跳躍』
ステータス:(左端にグラフ表示、数値化されず)
レベル6
体力、魔力、スタミナ、強さ、素早さ、知力、運
全て僅か
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