1-6.一本
朝イチはいつものボコられではなく型の練習だった。
サマになるまで基本の型を繰り返すだけだが。
「同じ練習では伸びがほぼ見られないから」だそうだ。
朝食後も型を繰り返すが、もう一種類好きなのを練習しろという。
最後にやった型がかっこいいのでそれにする。
エディーは何も言わず、型の繰り返しを見てくれる。
「あれだけで『剣技』が生えてきたな・・・しかし困った」
いつのまにか覗き込まれていた。
他は灰色にしてるのでバレてはいないようだ。
「俺には治癒は使えないからな。
午後からは、防御と寸止めのみでやるか。
本来は上級者が初心者に練習をつける時にやるんだが、逆だな」
昼食を食べながら話す。
午前はエリスとリナのふたりで洗濯をこなし、魔法練習とお出かけしたようだ。
事も無げにしている、心配なさそうだ。
食後、大事なことを思い出し客室へ戻る。
スキルの画面に浮かぶ、『加速』の文字を書き写す。
この世界のアルファベットには無かった、フレディーかエリスなら知っているのでは。
フレディーが驚いている。
「エリスには大まかには話しているが・・・ヨウにも見えるのか?」
覗いているようだ。
「新しいのは無いが・・・どうやって見えた?」
「えーと、自分のだけが見えるようです。
でも、読めないし訳が分からなくて」
誤魔化したが、スキルウインドウの事を言うわけにもいかない。
フレディーは手作りのメモを取り出す。
括ってあるひもをほどき、見せてくれた。
「今のはこれだ、『加速』だな」
色々書いてあるが、最後のページにこの世界の文字で治癒と書いてある。
リナに教えてもらった単語だ。
「よく見かけるものは頼んでメモする、相手には意味不明だろうが。
動きを見ればどういうものかは大概分かる。
魔物特有のはなんとなく覚えるしか無いが、冒険者じゃなかったからあまり意味はないな」
『治癒』の文字をじっくり書き写させてあげる。
最初は意識が無かったし、訓練に夢中で忘れていたそうだ。
ずっと見つめられ、キモい。
「これはどういう文字なんでしょうか?」
「古代文字らしい。
ツテで学校や教会、あらゆる本のありそうな所に行ったが、今は書き写した物しか無いようだ。
それ以上は分からん」
午後の訓練だが、言われていたように木剣同士だ。
フレディーの木剣を受け止められるが、攻撃に移れない。
返す剣で次の攻撃が来る。
「おい、剣でまともに受けてるが実際の剣ならどうなる?」
「あ、刃が欠けたり折れたり、でしょうね」
「その通り、ぶつけるんじゃなく避けられれば避け、それ以外は受け流すんだ。
それに、習った型は真似だけか?
腕だけでなく、足や体全体の動きを使うんだ」
受け流すと言われ、分かった気になったが実際やると難しい。
最初は剣をはたくように逸らそうとしたが、そのまま当てられそうになる。
表現が難しいが、くるりと円を描くように動かす。
フレディーは一瞬バランスを崩すが、慣れた動きで再び剣が来る。
「腕だけじゃダメだって言ったろう、体全体を使え!」
夢中になってやっていた。
加速を使わなくてもこれが出来れば。
依然として1度も勝てないが。
夕方になりそうだ、汗を拭き一旦戻ってお茶を飲む事に。
なんと客がいた。
それも中学生くらい、リナより少し上らしい少年だ。
今日は学校が休みらしい。
この領地の子どもたちは、決して裕福ではない。
だが、フレディが必要最低限の税しか取らないので皆町の学校に通える。
最低限+飲み代+ちょっとか。
話を聞くとヤバかった。
エリスは安心しすぎだ。
子どもたちと会わせ、普通に遊ばせ、色々あったらしい。
本来子供たちに「死ぬぞ」と脅すつもりだった、安全のためだ。
徐々に遊ばせ、いきなり防護服を着せた子供にセクハラさせる。
それが最終テストのはずだった。
「あのね、水かけまくったから女の子がちかづいてくれなくてね、男の子と遊んでたの。
ジンって子がね、スカートめくってきたの。
そしたら、トムがちゃんとおこってくれたの」
死ななくてよかったな、ジン少年よ・・・。
トムは金髪でちょっとモテそうな感じだ。
「ヨウさん、初めまして。
俺がリナを守りますから安心してください」
おお、挨拶のできる良い少年だ、リナは君のものだ。
「トム君、よろしくな。リナを頼んだよ」
「まったく。
女のカンってやつか、いきなり進展しすぎだろ、エリス」
「びっくりしましたけど流石エリスさんですね、トム君も」
トムは日が暮れる前に帰っていった。
再度体全体の動きを意識し、練習する。
勝てない。
「トムはごえいにつかうけど、子供をつくるのはヨウだからね!」
夕食のサラダを吹き出しそうになった。
トムは家来か・・・。
膝にリナ、お勉強タイムだ。
エリスは絶対に椅子を持ち込ませない・・・。
『お世話になる』とか『お礼はできません』とか、時間を空けつつ少しずつ聞いてメモしていく。
文字は覚えたが文法がかなり怪しい。
これらの言葉を組み合わせて書き置きするのだ。
リナの様子をもう少し見て、フレディから寸止め一本取れれば出ていくつもりだ。
寝る前の自己加速の練習は長さも意識する。
意識を保てる時間を長く、加えて速く。
難題だが、外に出たなら生きるために必要だ。
つまり、自己加速の最高速に合わせた速度の加速を使い身を守る。
攻撃が必要なら、その瞬間自己加速に切り替え剣を振る。
そのためにも、自己加速の強化は必要だ。
引き出しから昨日の丸めた紙を取り出し、横になる。
『洞察』もオンにしておく、役立つかも。
放り投げる。
最初より少し早めに、持続時間を意識して発動する。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、じゅ・・・」
~~~~~~~~~~~~
早朝は型のみ、最後にはあの飛び跳ねる型。
朝食の会話、リナはいつもどおりだが夫婦がよそよそしい気がする。
喧嘩でもしたのだろうか。
「リナ、ヨウと離れなさい」
「いや」
「ちゃんとしたお母さんになれないわよ、甘えてばかりじゃ」
リナが普通に食事をし始める。
リナにも厳しい。
フレディーが『戦闘で死なないコツ』を語りだす。
簡単にまとめれば、無理しない事とダメなら速攻で逃げる事、だった。
魔法の練習は中級魔法に進んだようだ。
敵を狙って魔法を飛ばす実践的な魔法だ。
ちょっと心配だがエリスに任せよう。
夕食時、リナにお金の数え方を教えるエリス。
便乗して覚えておく。
ブロンズ、シルバー、ゴールドといった馴染みのある言葉だが、『会話』で変換されたのだろう。
見た目は名前の通りだ。
銅貨は1ブロンズ
大銅貨10ブロンズ
大銅貨10枚で銀貨と同じ1シルバー
大銀貨10シルバー
10枚でやはり1ゴールド
1万ブロンズで1ゴールドか、単純だが慣れるのに時間がかかりそうだ。
物価が違うだろうけど、その都度計算して慣れよう。
お勉強は、エリスが椅子をもう1脚持ってくる。
「お母さん」になるためだそうだ、スパルタだ。
いや普通か。
『自己加速』はほぼ10秒で少しずつだが速くなる。
『洞察』有能。
~~~~~~~~~~~~
やっとフレディーから寸止め一本取れた。
あれから3日かかったが、フレディーが言うには「凄い」そうだ。
普通は月単位、あるいは数年かかって届くレベルだそうだ。
リナも大丈夫そうだ。
中級魔法を使いこなすにつれ、初級のコントロールも大幅に上手くなったようだ。
『自己加速』が寝る前しか練習できず悔しいが、『洞察』のおかげで着実に伸びたはず。
今日、町へ行こう。
一日が終わる。
今晩は『自己加速』練習せず、こっそりと家を出る。
居間のテーブルに、簡単だが感謝とお詫びの手紙を残した。
出来ればいつか恩を返せればいいが。
元の世界へ帰る方法を探さなければならない。
一応詰め所には顔を見せ、不審者の犯行ではない事を伝えなければ。
通してもらえなければ、加速の組み合わせで無理矢理鍵を開ける。
鍵を戻すのを忘れないように。
いたのは、以前会った衛兵だった。
「待ってましたよ、わざわざ夜勤にしてもらったが、良かった」
詰め所から出てきた彼は、剣と包みを持っている。
「フレディーからです。
剣は絶対必要だから持っていくようにと、腰に結び付けられます。
あと、この本は必ず人目につかない所で開けるようにと」
包みには本が一冊、子供用の物語のようだ。
鍵を空けてくれ、扉をくぐり町へ入る。
「命をお大事に」
「ありがとうございます」
町にはまだ明かりが灯っている。
飲み屋だろうか。
誰もいない路地に入り、積み重なった木箱の陰に隠れる。
本を開くと、くり抜いた穴から金色のものが数枚落ちた。
加速でなんとか落とす前に全部掴む。
金貨が5枚もあった。
涙が経験した事のない程溢れ出した。
声を出して泣いていた。
現在スキル:
『会話』(初期設定)『治癒』『加速』『交渉』『洞察』『自己加速』『模倣』『剣技』(NEW)
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