1-5.初めての町
夕方になってやっとリナの魔法練習の時間が取れた。
今日言ったので仕方ないかもしれない。
料理は煮込むだけだが、焦がさないようフレディーがかき混ぜている。
エリスの得意属性は雷と火魔法、普通は遺伝で似た感じになるそうだ。
属性の適性を見るが、まず得意の雷からおこなう。
それでやり方を覚える。
火だけでなく、水魔法にも適性が見られた。
初級の水魔法を教えるが、水を手から出すのが気に入ったようだ。
水魔法と言っても強力だと人を切断できる、応用の氷も同様だ。
水鉄砲のように水を飛ばしまくってリナ以外びしょ濡れだ。
リナへの影響を考え、火魔法の応用である熱風は使わず着替える。
着替え、フレディーに報告すると何故か焦っている。
「リ、リナをやっぱり着替えさせたのか?」
「リナは濡れてませんよ、あなた」
「あれは冗談です!」
交渉オンを確認してきっぱり言った。
決して残念ではない、本当だ。
食後はいつものように、なぜかリナを膝に乗せ字のお勉強。
そして客室にひとりになった、やっと『自己加速』が試せる。
アクティブにしてオン、何も起きない。
手を動かすと、風が、空気抵抗がある。
オフにして、デスクに置いたボールペンを持つ。
オンにして落とすと、ゆっくりと落ちてゆく・・・。
部屋を歩き廻ると空気抵抗を感じる。
落下寸前でペンを掴む。
普通の加速のように周囲の色は変わらない。
そうか、加速が弱い。
ペンをもう一度落とし、加速を速めるように・・・。
いきなりふらついてスキルが切れた。
ものすごい疲労感、ベッドに横になった。
念の為、灰色にしておく。
普通の加速では動こうとしても難しい、恐らく感覚のみの加速か。
能力が高まると速度は早まって余裕ができるが、それほど速くは動けていないのか。
エリスのお尻をなでた時も、ゴシゴシ擦る感じだったようだし。
この『自己加速』は体全体の加速、魔力とかスタミナとかか、よく分からないが消費が凄いらしい。
熟練度を上げるか、『恩恵』などで強くならなければ。
毎日無理せず練習しよう。
~~~~~~~~~~~~
いつもの朝、ボコられタイムと朝食を終え、朝からリナの魔法練習だ。
今日は初級火魔法。
指先から炎を出すだけ、点火などに使える便利魔法だがちょっと熱かったりと、すぐにはうまくいかない。
初級雷もおこなう。
指先に放電するが、これが第一関門だろう。
意外と簡単に魔力調整できた、使い慣れているからか。
指が痺れたようで、自分の手を見つめている。
以前の強さの電撃なら自分でもかなり痺れたはずだが。
我を忘れていて、そんな感覚を覚えている余裕がなかったのかも。
昼過ぎには、エリスと3人で初の村探訪。
ヨウにとっても初だ。
今日はフレディーも心配でついてくるようだ。
少し離れているが、第一村人発見。
練習したとおり、「こんにちはー」と手を振る。
お辞儀はしない、当然か。
軽く挨拶をしながら、リナのお披露目という感じだ。
歩き通しで2時間近くかかった、広い。
この村は鍛冶など職人はおらず、皆農業なので外にいて都合が良かった。
帰って、クッキーのような焼き菓子とお茶でリラックス。
「色んなパパとママみたいなひとがいるんだね」
特にリナは感動も驚きもないようだ、まあこんなものか・・・。
「今日は出かけるぞ」
おやつの後、突然フレディーに言われ何も分からずついていく。
楽しいところだといいが・・・。
出かける間は、エリスだけで初級魔法を教えるようだ。
心に余裕が出てきたらしい。
北へ行くと、全体に塀が続いている。
魔物が来ないのはこのおかげか。
箱のような詰め所がある。
フレディーが手を挙げて挨拶、向こうも軽く手を挙げ出てくる。
一応扉には鍵がついていて開けてくれる、鍵って必要なんだろうか。
扉の先は普通の他の貴族の領地、町だ。
普通に色々な店が並び、税は入るが管理も大変そうだ。
宿も酒場もある、立派な建物を見ていると冒険者ギルドと教えてくれた。
普通の住宅地を過ぎて、少し荒れ地の多い寂れた場所にやってきた。
西部劇で見たような感じのボロ家が多い。
「ザクロス、久しぶり」
「フレディー、珍しいじゃないか」
「今の時間ならすいてると思ってな」
20畳無いくらいか、4人が剣を振っている、道場か。
「こいつを通わせてやろうと思ってな。
俺の自己流じゃなくて型をしっかり教えて欲しい」
逃げる気満々なのに、これはダメだろう。
「とんでもない、授業料分でリナに何か買ってあげてください!」
「フレディーなら旧友だから半額でいいんだぞ」
「ダメです!」
「うーん、タダでいいから今日だけ体験しないか。
『慧眼のフレディ』の弟子を見逃すのは惜しすぎる・・・。」
「弟子なんでしょうか・・・よく分かりませんが、タダならお願いします」
ちょっとの興味に負け、体験だけさせてもう事にした。
「では一番簡単な型から」
必死で真似るが、真似だけである。
他の生徒に笑われている気もするが、被害妄想はやめよう。
この笑い声は幻覚だ・・・。
2つ目、3つ目と真似る。
真似るだけなら完璧だ・・・。
もう一度やっても動きだけはできる、へっぴりごしだが。
あれ? 動きだけとはいっても、こんなに簡単に真似られるものか?
スキルを見ると『模倣』があった、模倣か・・・モノマネね。
次々モノマネしていく。
だんだん、足の運びや腰の動きなどまで真似られるようになった。
「型は以上だ、うむ、初めてにしては良いのではないか」
「す、すみません、もう一度だけ最初からいいですか?」
フレディーがにやけて言う。
「たのむ、今度おごるからな」
「約束だぞ!」
夕方近くなると、8人程度の生徒が来た。
今日は旧友が来たから、と自主練するように言っている。
ちょっと迷惑をかけたようだ・・・。
2度めは、体のバランスや腕の振りなどにも注意がいく。
たかがモノマネ、されどモノマネ(今考えた)。
ラストの型は跳ねながら斬るちょっとした魅せ技だ。
(形だけ)ほぼ完璧に真似ると、全員に拍手されてしまった。
もう日が暮れている。
本当にタダでいいのか、飲み代はフレディー持ちだが。
数人に握手され、照れながら出ていく。
「おかえりなさいー」
「遅かったですね」
エリスは無事だ、当たり前だが。
「今日は魔法どうだった?」
「初級かんたんだからひまなのー」
「一番大事なのが基本だからがんばるんだよ!」
「うん」
「ヨウは道場で大活躍だったぞ、見せてやりたかったな」
「あー、リナも見たーい」
「大活躍って・・・型を教えてもらっただけです。
リナには今度見せてあげるね」
遅い夕食を終え、ちょっと文字も勉強。
続けることが大事だ。
『自己加速』、これは速度を上げることだけを目標にした。
最初は確かに、持続時間を伸ばすことを考えていた。
しかし、実際戦闘になった時加速から自己加速に切り替えるとしよう。
その瞬間意識スピードは落ち、剣で斬られれば意味はない。
一瞬でいいから同等の加速状態のまま動ければいい。
出来れば、一瞬動いたあとにぶっ倒れず済むくらいの余裕があればもっといい。
意識を失うくらいの覚悟で、寝る姿勢でやる。
最初は普通の加速で、景色が変色する速さを覚えておく。
昨日のように徐々にやろうとするのは無駄が多い、最初から全力だ。
寝たまま、丸めた紙を放り投げてオンに。
紙はほんの少しずつ落ちている、まだまだ遅い。
そのままいつのまにか、気を失ったのか眠ったのか定かではない。
現在スキル:
『会話』(初期設定)『治癒』『加速』『交渉』『洞察』『自己加速』『模倣』(NEW)
■ブックマークとしおりで読み忘れなし!■




