1-4.教育
魔物を倒すと強くなれる。
最強にするなどとフレディーは言いながら、それをさせないのはおかしい。
『交渉』を心の中で詠唱しながら――必要時はオンになるようだが、調べておかないと――訊いてみる。
「それは、まず回避や防御の基礎能力を上げたいからだ。
『恩恵』を受けたあとに攻防一体の練習をしたら、俺の体が保たない。
それに魔物狩りは・・・遠くになるし、準備も大変だ・・・」
なるほど確かに。
しかし後半は歯切れが悪い、何か隠しているのか?
いや、自分も最初の時魔物など出会わなかったから本当か。
瞬間的に木剣の当たりを相殺できる程動けるようになり、痛みは無い。
能力向上しなければ、ここから出ても死ぬことも有り得る。
痛くない程度にしっかり訓練は受けておく。
少なくとも自力でスキルは分かる。
リナさえ普通にできれば、申し訳ないが速攻で出ていこう。
しかし『交渉』とか、余計な能力がフレディーにバレるのは嫌だ。
移動速度が上がっただけにしておこう。
だんだん速く動けるようになり、フレディーも満足げだ。
新スキルの発現は無いらしいので覗いてはいない、大丈夫だ。
少し整理して考えよう。
スキル発動には、危機(必要)時の自動発動、つまり木剣を受けそうな時の防御本能として勝手に発動する。
詠唱でも発動するが、無詠唱で意思のみでも発動できるはず。
心で『加速』と単に言っても発動しないが、意思を持って『加速』と思えば発動する、即切るが。
例のスキル画面も同じに出せた、一度出すと既に元からあった感覚と同じ扱いになって、いちいち見る必要もない。
フレディーに次に見られたときが問題だ。
スキル画面をもう一度見て色々いじってみる。
『会話、治癒、交渉、加速、洞察』
増えとりまっせ。
焦って色々念じると灰色にできた、オフ状態だと感覚でわかる。
「もう少しやっとこう、思ったより時間がかかるな。
俺や他の人間より100倍は早いがな」
急に言われ、更に焦って治癒だけ残して灰色にしてみる。
「♮∋∂∌∇」
何言ってんだろう、おっさん。
フレディーが剣を一振り、顔に直撃した。
そういえばスキル切りまくってた、言葉が分からないのは『会話』か。
『加速』までついつい切ったのはやばかった。
そんな場合じゃない、顔の肉が裂けで目玉も・・・。
「う゛ぃう」(治癒)
数分で治ったようだ、詠唱凄い。
「おい、自己治癒も詠唱で使えるのかよ! 初めて見たぞ。
最初にやっとけばよかったな」
会話は自動でオンになったようだ。
スキルを開いて、加速をアクティブにしておく。
あ、なんか増えてる! 灰色にする。
いつの間にかフレディーに目を覗き込まれていた。
バレたな。
「うーん、治癒能力と少しマシな加速か、変わってないな。
加速が消えちまったかと焦ったぞ」
見えてないらしい、灰色にしたスキルと『会話』は。
『会話』はこの世界に来た時専用の特殊なものか?
もう一つ増えたのは、『自己加速』。
加速との違いが分からず少々意味不明だが、こっそり試そう。
しかし、相当痛い、というか普通なら再起不能の怪我で発現か。
この世界はサド世界で、能力はマゾ能力か。
目覚めそうだ。
朝食を食べながら、リナについて相談する。
交渉と洞察をオンにしておく。
「リナに魔法を教えたことは無いんですね?」
「そりゃそうだ、危なくてできないだろ」
「命に関わるので無理です」
やはりそうか・・・親バカだが、本当に危険だからというのもあるのか。
「まずは、今の状態での電撃到達距離を調べましょう。
それ以上他人が近づけば危険というラインを知りたいです。
体感で安全か調べます」
「ヨウしんじゃいやー」
いやいやいや、君のせいだよ?
「後は、電撃を含む魔法を、正式に教えてあげてください。
今感情のみで発動するのは、制御法を知らないからです。
付き添いますし、防護装備で大丈夫でしょう?」
「そうですね・・・」
『交渉』も効いているはずだ、断ることはないと思っていた。
「感情だけで詠唱もせず、強力な魔法を使うことを幼少時からずっと続けっぱなしだったんです。
おもらしみたいなもんで、いつか治るかもですがその前にどうにかしましょう」
「おもらしなんかしないもん!」
「あれ? おととい」
「たまにかしないもん」
「ビックリして電撃した時か。
今度パンツ、着替えさせてあげるね」
ただの冗談だ。
「おい、ヨウ・・・教育係だからありか」
「お願いしますね」
「はずかしいけどうれしいの」
しまった! 『交渉』進化し過ぎてないか?
話がやばくなるので切っておく。
「今のは冗談です!」
きっぱりと言い、部屋を出ていくヨウ。
『交渉』は切らないままで「冗談」だと取り消すべきだった。
変態、じゃなくて大変な展開だ。
屋敷前の野原。
フレディーが長年雑草を抜き、芝生より長い程度の草を植え付けて整備した土地だ。
領民の家は離れていて見えない。
ヨウが十二分に離れた状態で、リナが『こわいオバケ』を思い出し電撃を放つ。
『加速』を使って近づいては止まる。
電撃有効範囲は意外と狭い?かもしれない、3メートル無いくらいだ。
次に、その範囲より少し離れて電撃を撃たせる。
ヨウがオバケ役で、そこに向かって狙わせる。
届かない。
結局、エリス言うところの魔力量は結構あるらしいが、単発・突発の電撃で大した事はない。
まともに喰らえば死ぬが。
「死ぬ程の体験をしたから、恐れすぎてたみたいね。
この程度の見極めもせず、恥ずかしいですわ」
「ヨウ、おまえは神の使いか?
まあ言い過ぎか」
ツッコまずにこれからの予定を言う、うまくいけばだが。
「これからしばらく、エリスさんと3人で魔法の基礎から練習しましょう。
徐々に領地の人とも会うように・・・他の人はリナの話は?」
「子供以外は知ってるはずです。
そういう領主と家族だという話は、来た当初にしています。
最近檻の話をした時は皆さんドン引きでしたが」
「近づきすぎないよう、前もって伝えたほうがいいですね。
子供は無邪気に突っ込んでくるかも、その時はリナを抱いて逃げます。
リナ自身他の人に慣れて、コントロールできればいいんですけどね」
やはり時間が空くと剣の練習、というかボコられタイムだ。
リナの魔法練習をさっさと開始し、そっちの時間を増やさなければ。
あと、いくら領主でも仕事しろ!
少し痛いの覚悟で当たっていくが、『自己加速』を使わないせいか進展がない。
どういう事になるのか分からないので、実験するまで封印だ。
休憩に入り、聞き忘れたことを確認しておく。
交渉・洞察オン。
「異常とか底か見えないとか言ってましたね。
具体的にはどういう事でしょうか?」
「ああ、俺は昔から人や魔物の技能が見える、それに加えて相手の『底』みたいなのもな。
これは表現が難しいが・・・。
騎士としてお勤めした時は、それが大きなやつをエリートコースに推薦した。
俺の目の確かさは有名になり昇進したが俺自身の実力もあって中の上止まりだ。
大成果はエリスだけだったな、ははは」
「底、ですか。
この前言った光る石との関係は?」
「ああ、青く光ってる、ずーーーーっと底の方でな。
体じゃなくて精神と言うか、分からんがどこかに吸われたのかもな。
その底が見えない」
話の途中までは、RPGの何かの数値みたいなものと思ったが。
最後の話で分からなくなった。
底の深さが先か、光が先か。
おそらく、いや間違いなく後者だろう。
現在スキル:
『会話』(初期設定)『治癒』『加速』『交渉』『洞察』(NEW)『自己加速』(NEW)
■ブックマークとしおりで読み忘れなし!■