1-3.スキル
見つめ合うヨウとフレディー。
「キモイキモイキモイやめてー! パパ、ヨウ」
「ところで、聞き忘れてましたが自分の能力は分かるんですか?」
「いや、全く分からん」
見つめ合った意味がない、自分の能力が分かるのを期待したのに。
今日の朝聞かされた。
ヨウが得た能力は『加速1』とでも呼べるものだ。
フレディーが言うには『一番低いやつ』だそうだ。
『少しましなやつ』だと動きも速くなる。
それ以上は見た目でしかわからない、聞いても分からないし教えてもらえない。
フレディーが見抜けるのは、能力の種類プラスちょっとした特徴だ。
魔物や獣にも有効だそうだ。
ただし自分の能力は見えない、絶望だ。
この世界ではずっとフレディーと暮らさなければならないのか。
それでは絶望しか無い。
何れにしても、最初から決心している。
この家で、一人で行動可能な剣術など身に付けられれば出ていけばいい。
魔物や獣、社会制度などをもっと知った上で。
ただし、命を助けてもらった恩義はある。
リナを、せめて普通に外出できて、友人を持てる位にはしてやりたい。
表面上でも懐いてくれたように見え、何とかなるかもしれない。
話を戻すと、能力が何なのか自分で分かるようにならなければ、とりあえずはフレディー頼みだ。
剣だけでも普通に使え戦えれば、あとは今日のような能力を、わかっている分だけでも使っていけばいい。
本当にやりたいことは、現代へ戻ることだけだ。
ヨウの荷物が置いてあった。
4日目頃にあの川幅の狭いところで見つけ、間違いないと思ったそうだ。
間違いなく中を見たはずだ。
あるのはファスナー付きポケットに入れたスマホ、内側にはカードが数枚と現金が入った財布、それとポーチ。
ポーチには通帳や三文印、捨て忘れたレシートとかどうでもいいものばかり。
他にはバイク用の交換用電球も入れていたし、それよりスマホか。
壊れたと思って電源OFFにしたから画面は見えなかったはず。
それでも充分不思議だろう。
早速尋ねてきた。
「知らない国と言ったのは記憶喪失とかでありうる。
時代がどうのというのは異常だ」
「創生何年か思い出せなかっただけです」
「・・・まあいいとするか。
お前が何者で、古代や未来から来たとしても、俺達に害がなければいい。
死なずにリナを教育してくれれば願ってもないし・・・。
世界最強を育て上げる夢が、まさか叶うかもしれないとは」
「世界最強ですか? 今そう言いました?」
「底が見えないんだよ、お前の中身は。
それ以上わからんが、朝のあれだけで加速を手に入れたのはビックリだ。
詠唱してみろ」
「詠唱? 『加速』でいいんで・・・うわ」
目の前がオレンジっぽくなった。
フレディーの口が半開きで、料理でバタバタ動いていたエリスも止まっている。
世界がオレンジだ。
ゆっくりしか動けないが、くっつき寄りかかっているリナから離れてみると、止まったまま。
しばらくこのまま大丈夫そうだ。
歩き出し、エリスのお尻をナデナデしてみる。
いい感触なので、もう一度ナデナデ。
フレディーの鼻を人差し指で持ち上げ豚の鼻にしてみる。
もう一度・・・いや、いつ切れるか分からないのでやめておこう。
席に戻り、斜めのまま止まったリナを支えて切れるのを待つ。
切れろと念じたほうがいいのかと思いやってみると切れた。
「ヒャッ」
「ん?」
エリスとフレディーが同時に声を上げた。
「出来たようだな!」
満面の笑みだ。
鼻に触った程度に感じているのかも・・・。
「ゆっくり、ゆっくりがいいのよ、次はよろしくね」
エリスには感触が分かったらしいが、高速摩擦に感じたっぽい。
告げ口されなくてホッとした・・・いや、逆に危険かもしれない。
「で、リナ。
ヨウに慣れるのはいいが、胸はくっつけてはダメだと・・・」
この子は性教育というか、女子同士で話し合うことも皆無だったのだ。
話では、女の子だけの時は相当際どい話が多いと聞く、現代知識だが。
「わかっててやってるの!
子供をつくるためのじゅんびなの」
「何も分からないのは仕方ないが。
そのうちヨウに、いやエリスに教えてもらいなさい」
「ぜんぶしってるもん!
公爵夫人がいっぱいおしえてくれたの。
おとこのひとのおちん」
「こらリナ、なんて言葉を!」
「を、おんなのひとのおま」
「やめてーリナ! ママが悪かったわ」
リナはマニアックなプレイ含め、詳細な説明を続けた。
こういう事を簡単に親の前で言えるということは、普通に持つはずの羞恥心に欠けているということで自ら未熟だと言っているようなものだが。
本人は自慢げだ。
檻にいた最後の年、公爵夫人が魔法のバッグに本を隠して持ち込み、数日間に渡って教えてくれたそうだ。
変態的な物も雑学として教えてくれたらしい。
もちろん親に話すなど想定しておらず、思春期以降のためにと思ったに違いない。
「あのババア、一週間以上泊まり込みしたと思ったらそんな事を」
「高級肉と酒に釣られたのはあなたでしたわね」
「あの、いいでしょうか。
そういい選択とは思いませんが、同性の友人もいないリナさんには一度は通過せねばならない事ではないでしょうか。
ご両親とのトラブルを含め。
そういう経験って誰にもありますよね、今日が最初のそれでは」
「ヨウ、お前は部外者だからな。
いや、言い方が悪かった、リナの事を頼んだのは俺だし考えてくれてるのか」
「そうですね、リナのことですから私達では冷静に考えられませんわ。
・・・少し落ち着いて考えましょう。
ヨウさん、リナにもっと常識的な話をしてあげてもらえます?
あ、まだ本当にヤッてはダメですよ!」
物分りが良くて助かった。
余計に拗らせてしまいかねなかったが、言わずにはいられなかった。
うまく行き過ぎのような、これはもしかして・・・
まあいずれ分かる。
『説得』とか詠唱したら発動するかもしれない。
ここで思いついた。
元の現代でさんざん読みまくった物語の知識になぞらえて、できそうな事をやってみるべきでは。
詠唱はあった。
他にも、キーワードのようなものがあるとしたら。
朝食後も剣の訓練は続く。
何も変わらない。
一時間はやっているが、仕事とかはいいのか。
ああ、領主だから普通に出勤したりはしないのか。
そういえば、最初に助けられた時も狩りに出ていたのでは。
見回っていたのかも。
休憩に入って、さっき思った物語知識に沿った質問をしようと思うが。
「おい、避けずに当たってみないか?
じゃないと、ずっとこのままな気がする」
先を越された、なるほどいいところに・・・余計なことに気づいてくれたもんだ。
「手加減してもらえます?」
「それじゃ意味がないだろう」
「・・・あのワニは獣ですか? 魔物はいるんですよね?
魔物を倒すと強くなれるのでは?」
「おい一度に聞くな、・・・まあ全部答えるとその通りだ。
ここは特別で、下級魔物でさえいない。
周囲が強い領地に囲まれてるし、魔素も薄いからな、おかげで暇すぎる」
他にも聞きたいが、この世界の基礎知識が無いので何を聞いていいのかも分からない。
その後は、フレディーの木剣が当たる一瞬だけ同じ方向に動いたり捻ったりという荒業で、なるべく痛くないように剣を受ける。
どうせ打ち身とかは元から残らないのでバレない。
少しだけ動ける速度が普通に近づいた。
嬉しそうに頷くフレディー。
当たったフリの調整にまた苦労しそうだ。
夕食後エリスに地理や常識を聞くが、何も教えてくれない。
「私バカだから、バレると恥ずかしい」そうだ。
リナと一緒に本で勉強しろという。
なぜか、リナの部屋の勉強机で、膝に乗せながらのお勉強だ。
会話と違い、文字が全く読めずそこから始める。
エリスが色々仕組んでフレディーに邪魔させないようにしているようだ。
計画的犯行だ。
多分大丈夫だ。
夫婦が留守にでもしないかぎり、押し倒したりはしない。
・・・・・・
体を拭いた布の入れ場所など、この家での過ごし方は一通り心得た。
地下から男2人で戻してきたベッドに横になる。
客室なので貴族になった気分だ、家具は古いけれど。
一人になれたので、『キーワード』を試してみよう。
「ステータス」
何かの感覚に引っかかりを感じるが、何も起きていない。
「ステータス表示、アイテム、アイテム表示」
どれも引っかかりだけ、この感覚だけでもしっかり覚えておこう。
「スキル」
視界にもう一枚スクリーンが見えた!
横書きで4行あるが、読めない・・・この世界の文字か。
文字を覚えなければ、いや直接意味が分かる。
『会話、治癒、加速、交渉』といった感じらしい。
もう一度「ステータス」と言ってみる。
しかしスキルが見える『きっかけ』の感じだけ同じ、見えない。
現在スキル:
『会話』(?)『治癒』『加速』『交渉』
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