1-13.南の勇者
道端にゴリがいた。
「まあいいさ、いきなりそこまでは無理に決まってるな」
特に何も答えず、それじゃと別れた。
ギルドに寄っていないのは、ゴリがまとめて魔石の換金交渉するためだ。
その日暮らしの者は混雑の中わざわざ換金するが、そうでない者は閑散時に大きさの違う物などきちんと交渉し損の無いようにする。
獲物の肉の持ち込みがあれば別だが。
ギルドに入り、相談窓口のリリさんに直行。
大あくびをしていた所だった。
「あっ、もう帰る時間だから。
来るかもと思って待ってたんですよ」
本当かどうか怪しいが、一応朝のこともある。
「朝は助かりました、ありがとうございました」
「いえ興味もあったんで、マスターに報告がてら。
今から会えます?」
おっ、やっと会える。
「お願いします!」
「じゃ、準備させるんでちょっと待ってて」
偉そうな台詞を残し、5分程でリリさんは戻った。
2階へ案内される、応接間のようだ。
恰幅のいいエルフっぽいおじさんがリリさんと入ってきた。
「ヨウさん、ギルドマスターのオレオです。
逆らうと瞬殺されるんで気をつけて」
リリさんがなぜかダッシュで出ていった。
「まったく・・・わしゃそっち系じゃなくてこっち系じゃから」
頭を指差す。
「色々あってな、ここコレダの地担当になった。
すまんが、分かったのは『南の勇者』と似ているという事それだけじゃ」
コレダってあまり気にしてなかったが、ここの地名か。
「南の勇者ってどんな人です?」
「何も知らんのか?」
「その人と光との関係は有名なんですか?」
「いや、一部の研究者の秘密というか、限られた文献だけに残っておる。
君の話は本当のようだから話しておるんじゃ」
というか、全部分からなくてもそれだけ教えてくれれば・・・。
こっちが知らな過ぎなのか?
『南の勇者』は数百年前に現れた。
とにかく色々な能力を持っていたが、結構アレだったようだ。
ちょっと肥満気味で、突然変な踊りをしながら歌い出したり。
南方を支配して人間を奴隷化していた魔物を倒した。
これは魔王討伐?
その後その地で巨大なハーレムを作ったそうだ。
この話は誰でも知っているそうだが。
彼はまさにこの地コレダに現れ、どんどん頭角を顕した。
その頃、「青い光に守られている」と言ったという記録があるそうだ。
だが、彼のハーレムはこの世界の黒歴史とされ、それらは隠蔽された。
「最初『青い光』の話を聞いた時は、驚いた。
また同じことが起こるかと・・・いや彼は悪いことはしておらんが。
これまで全ての行動で、君の人間性は分かっておるし」
つまるところ、トンデモ勇者のおかげで混乱して話すのが遅れたらしい。
情報は分かったが、話したのは失敗だったか。
マスターの話では知っているのは一部の者だし、似た存在だとしても放置プレイされるはずだと言う。
もしあらぬ事を言われても、ヨウならば態度で示せるはずだと。
複雑だった。
自分が勇者程の器があるか知らないが、どちらにしても人の道を外れないよう行動しなければ。
後はフレディーの話をした。
彼は感謝とともに、人間性について太鼓判を押してくれたそうだ。
50ゴールドもの餞別を貰って心配であることを話したが。
「分かっとらんようじゃな。
娘さんは普通に学校に通うそうじゃ、だから領地運営が昔のようにできる。
新たな入植者はあれだけ広ければ数十人は下らんじゃろう」
つまり、リナが社会復帰できたので数十ゴールドぽっちでは足りない程の恩恵を受けたということだ。
よかった。
少し涙ぐんでしまった。
ちょっと恥ずかしかったが、マスターはうんうんと頷いていた。
宿へ戻り一通りのことを済ませる。
後は本を読み少しずつ単語や文法を理解する。
これまで見たところ、文語と口語はほぼ同じなので早く理解できそうだ。
そこまで分かるのに随分時間がかかった。
後はスキルの練習だが・・・。
勿論生き残るためには大事なことだが、それだけではダメだ。
剣を勉強しよう。
フレディーには結構鍛錬され、やっと加速込みで勝てた。
普通の、本当の剣技が出鱈目なのにスキルだけで何とかなっている今は明らかにおかしい。
長い夢を見ていたのかもしれない。
あの道場へ行ってきちんと剣を学ぼう。
スキルに違和感があった。
見ると【多くの信頼】というのがある、最下段だ。
称号だと分かった。
これらが出現するのは危機の時だったり、あのおかしかった時だったり。
今まで助けられはしたが、よく考えず流れに任せていた。
【多くの信頼】か、ちょっと嬉しい、ちょっとまた涙ぐんだかも。
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リーナの小屋、いや家へ向かう。
今までのように宿まで来させるのはダメだ、特にひとりでは。
既に昨日話してある。
煙が上がっている、焚き火のレベルじゃない。
走った。
炎が上がっている。
リーナとゴリの家だ。
リーナは? 外にいた。
誰かが倒れている、加速を使いながら走ろうとしてやめる。
冷静が働いている、ならばもっと的確な判断を!
冷静を強く意識する。
周囲は? 感知で探るが敵対者はいない。
まわりの住民も呆然と見ているだけだ。
倒れているのはゴリだった。
矢が刺さり焼け焦げていた、当然・・・・・・。
矢は当然証拠にならない物を使っているはずだが、一本は回収しておく。
リーナは・・・呆然としている、泣くことさえ忘れている。
「しっかりしろ! 大事なものは残ってないか?」
リーナは首を振る。
焼け焦げた革袋を大事そうに持っている。
他の家とは離れている、延焼することは無いと思うが、もしもの事があれば協力して消火する。
ゴリを引き摺り、少しでも炎から離れる。
周囲に感知を巡らしながら、リーナの肩を抱く。
暫く経ち火は消え、ゴリの遺品を改めて回収しギルドへ。
当然遺品はリーナが受け取るが、すべて一旦ギルドへ届けた。
事件報告とともに。
「昨日の彼ら、“業火の剣”の可能性大と言わざるを得ませんね。
あの決闘を騙った卑怯な襲撃といい、リーナさんが無傷な事といい。
素直に応じるとは思えませんが、尋問ですぐに分かるはずですが」
リリさんの言うとおりだが、それだけで済ませられるのか。
彼らは尋問されないよう更に手を打ってくるに違いない。
悪いやつとはそういうものだ・・・。
「俺が証言しよう。
止められなくて済まなかった・・・知ったのは今日だったからな」
「ガデス・・・」
決闘の時中立を決めた盾と大剣の大男がいた。
リーナは知っているようだ。
「ゴリの事は聞いたよ。
今日正式に奴らから抜ける話をつけるつもりだったが・・・。
俺の師匠とも言える人を殺され、もう我慢とかいう話じゃない!」
ガデスはカウンターを叩いた。
バキッと音がしてカウンターが陥没し割れた。
普通じゃない馬鹿力だ。
「奴らのパーティーに入ったのも罠のせいだった。
身に覚えのない暴力事件で保釈金と賠償を払ってくれたんだ。
恩返しに加入したが全員グルだった、保釈金だけは払ったようだが」
「ガデスは恩義に厚過ぎるからな・・・」
リーナはぼそりと、やっと声を出した感じだ。
「カウンターを壊してすんません。
分割になるかもしれませんが弁償します」
「ではガデスさん、パーティー脱退の書類を作りましょう。
他メンバーやリーダーの不法行為によるものですが、事件が明らかになり次第成立するでしょう」
「これが終わったら仲間にしてくれるだろうか。
パーティーとかはどうでもいい、仲間だ」
リーナは頷いていた。
こいつがどういう人間かは分かった気がする。
「よろしくお願いします、ヨウです」
ステータス:レベル18(2回目)
体力124、魔力74、スタミナ124
強さ124、素早さ124、知力92、運100
現在スキル・称号:
『会話』(初期設定)
『リワインド』
『治癒』
『加速』『自己加速』
『回復』『強奪(敵専用)』
『剣技』『跳躍』『魔断』『感知』
『洞察』『交渉』『冷静』
『模倣』『解体』
【多くの信頼】(NEW)
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