1-10.強奪
ハゲザルの首は消えていた。
まだサルの右手が頭を掴んだままだ。
先に治癒を唱える、首が半分取れかけてる気がする・・・。
いや、確か首の神経がイカれたら全身動けないはず、よく分からないが。
首はしっかりとし、左肩と脇腹に大きく肉が盛った。
体力がたくさん、スタミナと魔力がほんの少し減る。
何が起こったのか。
新スキルのようだが、灰色点滅している。
『強奪』、効果からすると増減するステータスを敵から奪うものだろう。
ただし、今は使用不可だと理解する、条件があるのか?
あの瞬間、一気にスタミナが満杯になった。
胸と頭は掴まれているが、すぐ殺さず余裕をかましていたハゲザル。
全力の『自己加速』で右手の肘から先だけで剣を振った。
それだけだった。
頭から、食い込んだサルの手を外すとバサリと倒れた。
レベル27。
確か7だったから20も増えたわけか、このサル強いはずだ。
スタミナはさっき大きく減らし、治癒で体力も減った。
フラフラする。
レベルアップで全快にならないのは不便だが、ゲームじゃないし。
『感知』で周囲に何もいないのは分かるが、取り敢えず安全地帯へ戻らなくては。
辿り着いたが見つかるわけにはいかない、木の陰に隠れている。
安全なこの場でどうにか腕を元に戻さなければ。
光の事を知っているフレディー以外には化け物の様な能力だ。
少しずつそれぞれのステータスが回復しているが、空腹感が酷い。
体力10/75、魔力18/46、スタミナ8/75
強さ75、素早さ75、知力56、運100
全て大幅に増えたが、今度は治癒により体力が消費した、大丈夫か。
空腹か・・・そうだ、念の為の干し肉を買ってた。
背負袋は皮肉な事に全く無傷だ、肉を探す。
あれ、覚えのない包みが・・・確かリーナの弁当の片割れだ。
端っこがハゲザルに掴まれた時に潰れたようだが、食える。
でかい肉の塊ばかりの弁当をほおばる。
半分ほどで満腹、回復待ち休憩。
20~30分経ったか、体力の自然回復がググッと一気に増えた。
敵もいないし、強奪も使えないままだ。
あ、なるほど。
確か、食物を食べてから吸収され血糖値が上がるのに30分かかる。
噛まずにすぐ飲み込む習慣があれば満腹を感じる前にどんどん食べてしまい肥満の原因になるらしい。
この、吸収される時間になったわけだ。
魔力とスタミナもかなり回復している。
体力50を超え、治癒を唱える。
手首より先以外戻った、伸びた・・・。
また空腹感、どんな大食漢だ。
リーナの弁当の残り分を有り難く頂戴する。
さっき最初に食った分が効いたのか、程なく手首も生やせた。
ステータス用らしき『回復』が新たに増えている。
よほど必要を感じた? いや必要で生えてくれば苦労はしない。
苦労してない気もするが・・・。
恐らく回復速度が上がるはず、食費が心配だが。
安心してもう一度体をチェックしてみる。
体というより、買ったばかりの鎧が左側が壊滅している。
肩部分は無くなった。
結構高かったはず、4ゴールドだったから5万円くらい、安いか。
体を守る大事なものだ、元の世界でも安物は使わない気がする。
そんな事より、リーナとゴリに生きていることを知らせないと。
麓へ降り、どちらに向かうべきか、やはりギルドか。
歩いているとあの2人の他、数名を『感知』した。
走っているようだ。
少し早足で進むと、見えてきた。
「ヨウか?」「戻ってきたのか!」「どういう事だ」
リーナが走ってきた。
抱きつかれた、ハグか?
「よかった、ヨウ、よかった・・・」
当たった胸から声が響いてくる、それより柔らかい。
一応受け止めた手で感じる腕には筋肉があるのに、胸だけ凄く柔らかい。
「どうやって戻ってこれた?」
ゴリが信じられないという顔で言う。
「倒しました」
助っ人らしき冒険者は4人。
全員がヨウの露出した左腕と壊れた鎧を見ている。
盾と槍、昔の西洋のようなガチガチの鎧だ、馬はいないが。
「いや、さっきの話はウソじゃないぞ!」
「分かってる、昨日騎士みたいな奴がオークを倒したって聞いたからな。
しかし、オーガーを倒す強さか・・・ボロボロだが」
「わざわざ戻って貰ったのに済まない」
「ああ、規定の契約分は頼むぜ」
まだリーナが離れない、柔らかい・・・。
左肩が冷たいと思ったら、濡れていた。
よだれ、の訳はないな。
暫くリーナは抱きついたままで、最初はゴリはニヤニヤ、だんだん困り顔に。
ようやく離れたが、その途端後ろを向いてこっちを見ようとしない。
「鎧はどうするんだ」
「フレディーさんに貰った金で少しいいのを買うよ、いつか返すけど」
「魔石は回収したか?」
魔石ってなんだ? 聞いてない。
「なんですそれ?」
こっちを見ないまま答える。
「まったく、今日はとりあえず教えてやるから一人でまた行くなよ!」
救援らしき金をかけていることを思い出し、ゴリに話す。
「お前ならすぐに稼ぐだろうな」
1ゴールドを渡す。
待ってもらい、2度めの防具屋へ。
動きやすくて丈夫という20ゴールドの物を選ぶ、いい値段だ。
金を下ろし忘れたと言うと、ギルドカードを見せろと言う。
すぐ戻って来て「預金分から引いた」、と鎧をくれた。
直営店だった、なるほど。
あとは一緒に、必要らしいものを一通り買い、リーナの家へ。
ゴリと一緒に住んでいるのか。
ボロ小屋だが、必要な補強だけはしている様子。
街道沿いはまあ安全なのだろう、似たような掘っ建て小屋が並ぶ。
「荷物が多かったが何が入ってたんだ?」
革ジャンを取り出す、スマホなどは秘密だ。
「盗まれたら困るんで」
「ホントに何も知らないんだな」
宿屋にもギルドがあり、信用に関わるので盗難はそうそう無いらしい。
リーナは宿屋住まいだった事があり、朝起きて寝るまでを一通り質問。
また聞けば済むし、自分でも分かるだろうから適当だ。
メインは狩りのレクチャーだ。
ここら辺の獲物と特徴を聞くだけだが。
後はそれぞれの回収部位、これを知らないとさっきのようにタダ働きだ。
後で魔石は回収しておくか。
レベルとステータスが上がり、感知も上がっていてヘマはしないはず。
ずっとリーナの個人授業、ゴリはどこかに出掛けたままだ。
「ひとりぼっちなんだろ。
明日からも教えてやりたいがいいか?」
「もちろんお願いします、なんかあれば守りますから」
リーナがプイッと横を向いた、耳こんなに赤かったっけ?
「お、おう頼むぞ」
小屋を出るとゴリがいた。
「リーナを頼めるか?」
いや今約束したばかりだし、その事を話す。
「リーナはな、昔パーティーの奴らに酷いことをされてな。
荒れて行き倒れてたのをワシが拾った、それ以来懐いてくれて・・・。
いや、ただの同居人だがな。
あの言葉遣いも態度も、自衛手段なんだろう。
リーナを頼む」
ぼやかしているが、だいたい察しはついた。
「頼む」か・・・今度は恩を売った方だが、個人授業でトントンか?
積極的に引き受けるわけではないが、断る理由も無い。
『感知』で人や魔物を警戒しつつ、さっきのオーガーから魔石ゲット。
頭の後ろ側とだけ聞いていたが解体スキルのせいかすんなり採れた。
魔石はギルドで5ゴールドの価値だった。
生きている事は報告済みだったようで驚かれはしなかったが、魔石を見せると複雑そうな顔をする相談員リリ。
「マスターは情報の無さに苦労しているようで。
もうしばらくお待ちください」
リーナ情報で夜の体拭きまで問題なく終えた。
部屋に置いてあるリュックに革ジャンを入れ直す、スマホはそのまま。
ベッドに寝転び、取り敢えずやるべきことを考える。
現代に帰る方法は想像もつかない。
ギルドマスターなら『青い光』の情報も分かる可能性もあるが。
伝説とか昔話の類でもいい。
取り敢えずはこの町で常識を学びつつ強くなる。
そのためにも『自己加速』練習は欠かせない。
回復を使って複数回練習できそうだが・・・空腹で眠れなくなりそうだ。
夕方早くか休みの日にやろう。
日曜っぽい日もあるはず、多分。
もう一度ステータスを確認しておこう。
常に意識を向ければ分かるが、全体を確認しておきたい。
脳内ウインドウの引っかかりに違和感が。
何かわからないが開いてみる。
白で区切られたマスが縦4個x横5個。
ゲームで見たような。
意識で『アイテムボックス』と理解した。
現在スキル:
『会話』(初期設定):『治癒』『加速』『交渉』『洞察』『自己加速』『模倣』『剣技』『冷静』『跳躍』『解体』『感知』(『強奪』使用条件? NEW)『回復』(NEW)
ステータス:レベル27
体力75、魔力46、スタミナ75
強さ75、素早さ75、知力56、運100
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