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1-1.牢屋

全身痛い。


ぶっ倒れていた、うつ伏せ。

口に草と土が・・・山の斜面?



最近カードローンでぎりぎり買った中古バイク。

44歳で数度目のローン枠ぎりぎり、だが趣味が一番。

バイクには何事も勝てない。

運動は苦手だが、バイクだけはバイトや趣味で乗りまくって自信あり。


なのに事故って吹っ飛ばされた?

ここがどこなのかも分からない。



ペッペッと草を吐き出して袖で土をぬぐう。

起きられない。

血は・・・顔や頭からは出てない。




ふと、こんな時に気づいた。

青く光る、滑らかな水晶?

半透明の小さな石。


水晶とか、そんなに高くもないが・・・拾っとこう。

手が動かな・・・



その石が口に飛び込んで喉に入って、

呼吸が!


「げ、がふ、う、うええ」


咳き込み、一旦喉からは出たが飲み込んでしまった。



む、虫とかじゃなかったよな。

1センチくらいのまん丸じゃない石。

飲み込む感触もそうだった。

不思議と泥のついた感じはなかった。




うつ伏せのままだが仕方ない、解決策を考えよう。

スマホはバックパックの中だ。

そういえば記憶は・・・曖昧だ。


仕事場から帰るところか、そこだけなんとなく思い出せる。

バイク運転中の記憶は、常に全て覚えているはず。

バイトで1日8時間位乗っていた頃に身についた。


だが、事故らしい記憶がない。

それどころか、運転していた記憶さえ無い。


頭を打った?

記憶ってそんなに簡単に無くなるのか、よほど強く打ったか。




やっと座っていた。

景色を見て混乱した。

見覚えがない山々と、中央に平原。


降りてみれば道路が見えるかもしれないが、足がちゃんと動かない。

バックパック・・・要するにリュックでいいか。

取り出したスマホに電波が届いていない。

壊れた。



やっと立てた。

もうあれから1時間は経ったかもしれない。


痛みの残る全身と足で岩と石の転がる麓に降りた。


ガードレールも・・・道さえない。

バイクどころか何もない。



まばらに木の生える草原には、やはり何も・・・


遠いが、石でできた城というか遺跡というか、建物らしい物がある!

廃墟かもしれないが、他に目指すところは無いな。



川を渡らないと、4~5メートルは幅がある。

少し移動すると狭くなっていた、3メートル無いくらいだ。

両岸にはススキが茂る。



覚悟を決めて、ポケットのものを詰め込み直したリュックを頭に載せ1メートルほど進む。

深さは50センチも無い。

念の為リュックは対岸へ先に投げておいた。


ほぼ渡りきったと思った瞬間、足首がガチッと挟まれる感触。

罠?

グリッと動いた、ワニ?!



引き倒され、ワニがぐるぐる回転・・・

バキッバキッ


自分の骨の折れる音が聞こえた。

それどころか・・・

食いちぎられた、足が、あしの下のほうが。


また来る!

「オラァァ!」


斧を持った男がワニの首に数回斧を打ち下ろす。

助けてくれた・・・ワニ狩りに来たのか。



先に引っ張り上げてくれた、引きずってだが。

助かった、命だけは。


ワニも引きずりあげてきた。

「小さいな。

足首やられたか・・・よそ者だな?」


「はい」

掠れるような、息だけのような声の出ていない返事をした。


男、40代でガタイはいいが日本風の鎧を着ている。

コスプレじゃない、本物っぽい。

鎧と言っても、戦国武将のようなのではなく恐らく実用のものだ。

兜はしていない。



男はじっと目を見てくる。

おっさんに見つめられている・・・やばい。


「うちに来い」


有無を言わせず肩に担がれ、出血のせいか意識朦朧と・・・・・・






目が覚めると檻の中だった。

体を伸ばすと右足が枠に当たり、頭をぶつけた。

ベッドが小さい。


食いちぎられた左足は・・・痛みはない。

包帯も何も無いが、肉が盛って食いちぎられたようには見えない。

治療してくれたようだ。

ベッドの足元にはまだ血の跡がべっとり付いている。



「目が覚めたか。

隣に移れ、片足あれば大丈夫だな? その扉だ」

指差すところには鉄の扉がある。


疑いも持たず中に入ると、ガチャンと音がした。

おっさんがロックしたようだ。


もしこの部屋が危険なものだったら、と今更思いつく。


大きな普通サイズのベッドがあった。

あとはちいさなテーブル、というか台。

食事が置いてある。


だがやはり牢屋だ。



「客室のベッドを苦労して運んだ。

言っておくが、壁も檻も扉も対魔と堅牢がつけてある。

お前さんの今の力を見ると不要そうだが、念の為だ」


こちらも何か言いたいが、何から聞けばいいのか。

「ここはどこですか?」


「俺の城、家だな。一応領主だ、最下級の。

フレディー・ショウジだ、ショウジ家は娘で終わりだろうがな」


「滝海 洋です。あ、ヨウ・タキウミですね。

なんで檻に入れられたんでしょうか?」


「お前は異常だ。 うちの娘と同じだ、理性はあるようだが。

しばらく見極めさせてもらう。

身に覚えがなければすまないが」



おっさんは外国名を名乗った。

だが、顔は日本人というか、モンゴロイドと言うんだったか。


言葉は通じる。

確か「タイマとケンロウ」と言った、「堅牢は分かるが、対魔、か?


「あの、ここの国や場所、それから今が何年か教えてもらえますか」

「記憶が、無いのか?」

「・・・はい」


「ここはマレル王国フィット領の一部で、小さな20軒程度の領地。

今は創生1162年だ」

「ありがとうございます」


「うーん」

おっさんがこちらを見ているが、最初のように射抜くような目ではない。

外見だけを見ている。


「歳を聞いてもいいか?」

いきなりだ、ウチの娘をとか言う流れ? そんなわけない。


「44です」

「昨日はまさにそんな感じだったか。

力は昨日か最近得たか。

最近なにかおかしなことが起きた覚えは?」


そんな事を言われても。

まさにそんな感じ、ってどういうことだ。

おかしなことは有りすぎて困るし。


「檻から出たいなら話すほうがいいぞ。

一方的に脅すようで済まんが、恐ろしいのはこちらもだ」


こちらも状況を知りたい、順に話す。

「ここは全然知らない国で、時代もわけが分かりません。

気がついたら山で倒れてました。

ワニに足を食われる少し前です。


あとは、檻に入れられてることです」



おっさんは「悪いな」という感じでは言うが出してはくれない。


似たような感じで翌日も話が続くが、大して変わらない話だ。

あの『青く光る石』を思い出して話したが。


石について聞かれたが、見たことと起きたことしか話せない。




そう言えばと思い、便に混ざって出ていないか見るが分からない。

少なくとも、出ればカチンと音がするくらいの石だと思う。




改めて説明すれば、この檻の中は設備が整いすぎている。

トイレも扉があるし、本は撤去してあるが本棚も。

コンセントが無いのに光る電気スタンドもどきまである。

家具を置けば暮らせそうだ。


体を拭く布と湯おけが食事用の窓から支給されるので、風呂に入れないとは言え不満を言うほどではない。



初日に運ばれて、ちゃんと翌日には目を覚ましたそうだ。

4日目には足が赤ん坊のような形を取り戻していた。

6日目にはほぼ元に戻った。


凄い治療を初日にしてくれたんだろう、これについては感謝しか無い。



7日目の朝、礼を言った。


「檻に入れられたとはいえ、治療には本当に感謝しかありません。

ありがとうございます」


「やはり、全く自覚がなかったか・・・。

賭けだが、今日からうちで暮らしてみろ」


「やはり、怪しんでいますか。でも助かります」

「これを見て驚け」


大きめの手鏡を渡された。

少し濁っているが立派に鏡だ。


映る顔は、自分じゃない。でも自分だ、昔の。

20歳くらい、もう少し若いか。


「怪我が治ったのも、若返ったのもあんた自身の力だ、何もしてない。

俺には人の力を見通せる。

お前の力は解らなすぎる、あるいは治癒だけで何も無いかもしれん。

どういう人間かは少しだけだが分かった、大丈夫だろう。


『賭け』の意味は良い意味だ、可能性だ」


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