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第四話 自己紹介


「先ほども言いましたが、私はこの国の王女、ステラ・クロイツと申します」


 この女は今確かにクロイツ、といったか。頭のどこかでこいつはまだ誰も知らない別の王国の別のステラ王女で自分の知るステラ王女とは全くの別人であると、半ば現実逃避気味に考えていたのだが、クロイツ家の者ならどうやら自分の知るステラ王女で間違いないようだ。

 ……ここも間違いなく敵国の王城の内部。俺は何の準備もなく敵中ど真ん中に放り込まれたということか。


(くそがぁぁぁぁ)


 抱えたい。今すぐここで頭を抱えたい。

 だが、そんなことをしている暇はない。そんなことはここを切り抜けてからだ。


「王女……って王女?」


 黒髪ロングがそんなま抜けな質問を彼女に投げかける。だが、ステラ王女はそれにも笑顔を崩すことはなく、にこやかに答えた。


「はい、王女でございます」


 小首をかしげ、華やかな微笑みを浮かべる。王族らしい、完璧な作法であった。


「た、大変な失礼を……こらっ、茜も頭下げて……!」


「むぐっ、何すんのよ! 王女だかなんだか知らないけどご飯の邪魔しないでくれんぐっ」


 思いっきり食べ物を口に頬張りながら文句を垂れる金髪(偽)。

 いいから食べるのをやめろよ。もう自分の置かれた状況を忘れているのかこいつは。


「いいんですよ、そんな畏まらなくても。……あなたがたのお名前もお聞かせ願えますか?」


 王女にそうお願いされて、顔を赤くして若干テンパった様子で返事をする八坂。


「は、はひっ! ……私は、八坂 レイって名前で、高校1年生です……」


「高校? 1年?」


 緊張からか()()()()()()()()()を言い出した八坂に、王女が首を傾げる。 

 俺も首を傾げる。高校となんだ。

 

「えっ? あれっ!?」


 王女の反応が想定外だったのか八坂は更に慌てる。そこに割り込んで来るものがあった。


「――高校とは学校のことですよ! 王女様!」


 突然話に割って入り込んできた者は、先ほどのキモ男だ。例によらず挙動不審だ。

 

「ああ、学校ですか。それでしたらこちらにもございますよ!」


「それでですね! 王女様、僕の名前は波市 ハジメといいます! お見知りおきを!」


 くねくねとした変な動きで王女のもとまで近寄っていき、さっと彼女の手を取るとそんな自己紹介をした。口の周りに食べカスをべっとりとつけていてみっともない。

 彼は自己紹介を終えると、掛けていたメガネに手を添えて、これまた変なポーズを取ってみせる。

 ……決めポーズのつもりなのか。


「ハジメ様ですね! よろしくお願いします」


 王女はそれにも丁寧に対応した。その場で深く一礼をする。

 ハジメと名乗った男は興奮したのか踊り出す。ますますキモい。


「……キモ市、マジでキモいわね」

 

 金髪(偽)がそれに反応した。それには同意である。


「うるさいぞ茜! お前みたいな性格ブスに言われたくない!」


「なんですって!? ぶっ殺すわよあんた!」


「はっは、殺せるもんなら殺して……痛っ!? フォークを目に刺そうとしないでやめてメガネなかったら死ぬ!!」


 ……グダグダだな。俺は彼らの様子をみてそう評した。異世界人にはまるで緊張感が感じられない。

 いきなり知らない場所に飛ばされたというのに、ずいぶんと落ち着いているじゃないか。

 唯一八坂と名乗った女は割とまともな反応であったが、それでも取り乱すというほどではなかった。


「あっ、私は相川 茜よ。よろしく」


 金髪(偽)はキモ市とやらの鼻の穴にフォークをグリグリと突き刺しながら自己紹介をした。酷い絵面だ。


「茜、やめてくれ! 謝るから! ……さっきのは冗談だからあがぁ!!」


「うっさいわね! ステラちゃんがいくら可愛いからって擦り寄ったりして、だからキモいって言われんのよ」


「ステラたそまじ天使ぃああ゛あ゛!」


 いい加減やめろよ、貴族連中がめちゃくちゃ引いてるぞ。

 お前ら大勢の前にいるってこと忘れてないか?

 俺はしばらく傍観していたが、いつまでもやめる様子を見せないために、いい加減止めに入ることにした。

 王女も流石にポーカーフェイスが崩れかかってきて頬をピクピクさせている。

 ……別に敵国の者をフォローする意図があったわけではない。ただ自分が不快に感じたからだ。ただそれだけだ。


「――おい、いい加減にしろ。ここはお前らが乳繰り合うような場所じゃない」


「なっ!? 失礼ね! 乳繰り合ってなんかないわ……よ?」


「なんだ」


 金髪(偽)が俺を見るなり固まった。周りをみると、メガネや八坂まで動きを止めてこちらを見ている。

 三人は口を揃えて言った。


「「「誰……?」」」


 おいお前ら、今気づいたのか。

 王女はしっかり気づいていたのに横にいたお前らは気づかなかったのか。何なんだこいつらは。


「ねぇ、さっきまでいなかったわよねこいつ……誰か知ってる?」


「さぁ、同じクラスじゃ無さそうだけど……見るからに友達いなさそう」


「そんなことはないでしょ、……でも目つき悪いわね」


「……何言ってんの二人共、失礼だよ!?」


 ヒソヒソ声で話している三人だが、俺の耳には全て聞こえている。

 ……あのクソメガネは一番最初に葬ってやることにしよう。そうしよう。

 とりあえず今は名乗るのが先だろう。本名そのままというわけにもいかないから偽名を使う。異世界人の仲間を装うわけだから、そちらに寄せたほうがいいだろう。


「俺は……」


「「俺は?」」

 

 ……しまった。異世界での一般的な名前を俺は知らない。

 こちらで一般的な名前を名乗っても逆に怪しまれるし、どうするべきか。


(…………)


 あまり間を空けるわけにも行かないので、俺はイチかバチか適当に思いついた名を口にした。


「……シウラ・ルクトだ。年は15,よろしく」


 帝国の東方でよく使われている名だ。異世界人の名ともよく響きが似ているし、今この場面ではこれが最善だろう。


「市浦? 聞いたことある?」


「いや? レイ、お前は?」


 メガネと金髪(偽)が顔を見合わせる。メガネが八坂に聞いた。


「……ううん、知らない」

 

 レイはそういいつつも、こちらをじっと見ている。

 ……怪しまれたか?

 俺は内心ヒヤヒヤしたが、すぐにそうではなかったことがわかる。


「人違いだった。ごめんね」


 人違い。彼女はそう言った。俺の名前を聞いてからだ。これは異世界側でも()()()()()の人間がいるということだろう。

 俺はひとまず安堵する。


「……ルクト様、ですね。よろしくお願いします」


 王女も挨拶を返してきた。俺は乗り切った、と判断した。

 ……とりあえずこの路線で奴らの仲間を装えばいいだろう。問題は俺とアイツらが赤の他人であるというところだが、それは記憶でも改竄しない限りはどうにもならないため、現時点では放っておくことにする。


「さて、自己紹介も済んだことですし、次は皆さんの能力を鑑定させていただけませんか?」


 暫くして、王女はそんなことを持ちかけてきた。やはり、勇者の能力を鑑定するらしい。

 ……しかし、この場で測るのか。


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