第三話 歓迎パーティー
(で、俺はここに召喚されたというわけだな)
ここまでの出来事をたっぷり数分掛けて、俺は最初から最後まで振り返ってみた。
……うん、納得がいかない。
(理不尽すぎだろぉがあああああああああああああああ!!)
俺は心の中で精一杯叫んだ。
こればかりは油断してようがしてまいが防ぎようがない。術式破棄だって常に詠唱している状態だと注意が散漫になり、結局隙は大きくなるし、魔力消費を考えたらそんな馬鹿なことをするやつはいない。
……術式が間に合わなかったことについては、単純に俺の練度不足もあるかもしれないが、あの転移魔法、使い手の練度は驚くほどに高いと思われる。
あれだけの精度、起動速度だ。あらゆる常識が当てはまらないことを考慮すべきだろう。
問題はこのメンツの中に確実に術者が存在することだ。
それだけの魔法を扱える化け物は一体どこにひそんでいる。
俺は軽い焦燥感を覚えながら、目だけを動かして怪しい者を見定める。
この場にいる王国側の人間は、その全てが貴族の正装であった。特に魔術師らしき人物は見当たらない。
(チッ、いないか……)
「――落ち着かれない様子ですね?」
……しまった。あまり挙動不審だから怪しまれたか!?
ステラ王女が俺の目の前に歩いて来る。
ここはポーカーフェイスだ。今の俺は戸惑う一般人。ただの何も知らない人間だ。
「いえっ……、あのっ、ここは一体どこなんですか? あなた達はいったい……」
「……」
装えてる、よな? 今までの依頼では特に気付かれなかったんだから。俺は【七星】メンバーだ。
これくらい造作のないことの、はず。
なんか自信が無くなってきた。クソっ、落ち着け俺。
初めてのケースではあるが、やることは変わらないはずだ。
「ですよね。こんなところじゃ落ち着けないでしょう。皆様、こちらへ」
バレてはいないようだ。王女にそう指示を受け、俺と異世界人達はとりあえず隣にある会議室のような場所へと移動することになる。
……スケジュールではこのあと歓迎パーティーだっけか。
何が出てくるかにもよるけど、俺は王国料理はあまり好かない。不味いとかじゃなくて、ちょっとだけ苦い思い出があるのだ。
それはともかく移動だ。俺たちのあとにはあの貴族共も続いた。
……付いてくるのかよ。あんなのに見られてたら落ち着くわけ無いだろ、普通。
(落ち着くとはいったい……?)
やはりこのままスケジュール通りに進行するようだ。どう見てもここはパーティー会場にしか見えない。テーブルにずらりと並んだ料理。椅子はない。
立食形式のパーティーだ。
こんなところで落ち着けるはずもない。予定通りのようだが、とりあえずゴネてみるか?
いや、そんなことをして目立ってしまうのは悪手だ。ここは黙って従うのが吉。
異世界人達も特に騒ぐことなく王女の後をついて行っている。若干一名何かを堪えているのか、プルプル震えながら歩いているが。
今はこいつらのお仲間を装わなければいけない。
「とりあえず、食べながらお話でも!」
「は、はぁ……」
女二人の方は若干戸惑っているようだ。訳のわからんところに連れて来られて、何故か食事を摂るよう促されているわけだから。
一方、男の方はさっきからずっと様子がおかしい。
全く戸惑うような態度は見せないし、そればかりかこの状況を喜んでさえいるように見える。
ブツブツずっと呟いててなんというか、その、気持ちが悪いことこの上ない。
「……キタキタ、テンプレキタァ……。これだよこれェ」
こいつ、何かを知っている?
……とりあえず、一応注意だけはしておこう。
「こちらで少しお待ちください」
王女に今度はそう指示され、俺達は足を止める。案内されたのは一番奥だ。
入り口からの逃亡は困難。しかし、幸いにして後ろに窓がある。いざという時はこちらを退路にして逃げ出せばよいだろう。
貴族連中もぞろぞろと入ってきてそれぞれが席についた。
「すみません、お待たせしました! どうぞ、ご自由に食べて頂いて構いませんので、楽にして下さい」
王女は大した間もなく戻ってきた。今度は後ろに護衛を二人、引き連れている。彼女はニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべて、俺達にそう促してきた。
挨拶とかはいいのか?
そう疑問に思ったが、とりあえず言われるがままに、数々の料理から少しづつ自分の皿によそう。まだ手はつけない。毒入りの可能性はゼロじゃないからな。
「……そこのお二人もどうぞ」
女二人はそう言われて硬直する。俺はそれを横目で眺めながら思考した。
「じ、自己紹介もまだなんだけど……」
「そそ、そうよ、こんなもの食べてる場合じゃないわ」
おい、金髪(偽)。言ってることと行動が真逆だ。
さっきからチラチラ料理の方を見ていたし、ずいぶんと食い意地の張った女だ。というか、あの気持ちが悪い男についてはもう勢いよく食べ始めている。
まともなのはあの黒髪の女だけか。
……あの分だと毒は無さそうだ。
いや、そうではなく。自己紹介、もしするようなら準備しておかねば。
見たところ少なくとも女二人は知り合いのようだ。対して俺は赤の他人。上手くやらないとそれも怪しまれるポイントになる。
「はい、失礼しました。まずは私から自己紹介させていただきましょう」
王女は黒髪ロングの女の言うことを聞くことにしたようで、彼女の方から名乗り始めたのだった。