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第二話 暗殺依頼


「勇者召喚、ですか」


 俺はアリーシア司令から依頼の内容を聞かされる。

 彼女によると、王国では現在、秘密裏に勇者召喚の準備が行われているそうだ。

 勇者召喚とは文字通り異世界より”勇者”を呼び出すことである。

 ……王国の機密事項であったが、我が帝国の誇る暗殺部隊【災厄の七星】の諜報部の前には、セキリュティなど無いに等しかった。

 アリーシア司令は面倒くさそうに鼻を鳴らすと、計画書を俺の前に差し出して来た。

 俺は無言で受け取ると、その中身に目を通す。


「フン、貴様なら容易いであろう? この程度のこと」


「ええ、特に懸念するようなこともありません」


 いつものように、潜入し、監視し、暗殺する。ただそれだけのことだ。

 今回も例外はない。


「ああ、それと今回は【七星】を全員投入しての作戦になる。相手は勇者だ。念には念を入れなければいけない」


「全員、ですか? 依頼は個別に?」


「……ああ、貴様の他のメンバーは既に出発しているぞ」


「では、すぐに準備をして自分も王国へ急行せよ、とのことでしょうか」


「そうだ、勇者召喚はもうすぐ執り行われるだろう。急げ」


「了解しました」


 俺は指令をすべて聞き終えると、すぐに取り掛かるための準備のため、司令室を退出しようと踵を返す。

 だが、アリーシア司令は後ろから俺を呼び止める。

 扉の取っ手に伸ばしかけた腕を引っ込め、俺は彼女の方へ再び向き直った。


「なんでしょう」


「……相手は勇者だ。油断はするなよ」


 そんなことか。俺は暗殺者である。【七星】に名を連ねる一人である。”油断”などしていてはそんな役は務まらない。油断など、有り得ない。

 アリーシア司令は、さらに続けた。


「貴様も知っているだろう。過去の歴史ぐらい」


 もちろん知っている。

 勇者が、異世界人の存在が我々の歴史に与えてきた影響など、過去に嫌というほど叩き込まれた。

 王国と停戦してから30年、今になって実に200年ぶりの勇者召喚である。

 200年前の勇者召喚は、今は帝国領となったグラン王国による物であった。

 ……勇者の力は絶大だった。地図を大きく塗り替え、勇者召喚に成功したグラン王国は世界一の超大国へと成長したのだ。

 その時帝国は有史以来、最大の危機を迎えた。

 勇者はたった一人だった。その一人によって国をまるごと潰されかけたのだ。実際、数十の小国が滅亡した。

 地上に残った国は、我が帝国と、グラン王国、今の王国の3つのみだったそうだ。

 帝国も前述の通り、勇者の侵攻によって滅びるのも時間の問題だった。

 しかし、そんな中で、帝国は辛くも勇者を暗殺することに成功する。

 俺の所属する【災厄の七星】の前身となる組織によってだ。

 勇者を失ったグラン王国はまたたく間に崩壊した。

 勢いを取り戻した帝国は逆にグラン王国へと攻め込み、やがて今の地図が出来上がった。

 帝国にいる人間なら誰もが知ることだ。

 それこそ、子供でも。


「……心得ています。では」


 扉を出る前に軽く一例し俺は司令室を今度こそ立ち去った。

 勇者は危険な存在だ。この任務の失敗は許されない。





 ルクスが立ち去った後、アリーシアは深くため息をつく。


「……頼むぞ」

 

 彼が立ち去った扉の方を見据えながら、彼女は一言、そう溢した。

 その言葉はアリーシアしかいない司令室で、微かな残響を残して空気に溶けるように消えていった。





「……王国は召喚後に、勇者養成のため、異世界人を学園に編入させる予定……、か」 


 任務指示が書かれているメモを一枚づつ目を通していく。

 学園とはいっても、兵士の養成を主とする場所のようだ。出来ればこのような場所に勇者達が移される前に叩きたい。

 ……それにしても諜報部は優秀だ。王国が召喚を行った後のこれからのスケジュールがもはや筒抜けだ。

 学園に移動するのは七日後、帝国から王国までは約三日。

 まだ余裕がある。現地を自らの目で観察する余裕もありそうだ。

 俺は自分の中でスケジュールを組み立てていく。これに関しては普通の人間なら誰でもできることだ。

 読み終わったメモはすぐに燃やす。俺は指先で火炎魔法を行使した。

 メモは一瞬にして灰になり床にゆっくりと散っていった。少々行儀が悪いが、侍女がすぐに清掃に来るだろう。

 問題は、無い。


「さて、準備だ」


 俺は自分の自宅へと向かう。

 【七星】には特権がある。平の兵士は宿舎で寝泊まりすることになるが、我々にはある程度の行動の自由が与えられるのだ。

 それだけの実力がある。それだけの責任が伴うということだ。

 もちろん、招集には必ず応じなければいけないし、帝都から遠く離れたところに行くにも制限がある。

 たとえどこで、なにをしていようが、呼ばれたら応じなければいけないのである。

 今回も本来なら久しぶりの休暇だったのだが、緊急ということで馳せ参じた次第だ。


「……さっさとこなして、休暇の続きだ」


 俺はそう意気込み、自宅へ足を踏み入れようとした。

 直後、違和感を感じる。


「っ……?」


 足を止め、その足元に目を向ける。そこには、紅い魔法陣が出現していた。


「なっ――」


 この紋様は……、転移魔法!

 咄嗟に術式破棄を発動しようとするが当然間に合うはずもなく。俺はどこかへ強制的に転移させられてしまった。

 こうして、俺は王国に”勇者”として召喚されることになるのだった。

 

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