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第一話 最凶暗殺者、召喚される


 ――これは、どういうことだ。


 俺は辺りを見回す。広い空間、豪奢な装飾。

 ここは何処かのホールか。

 今度は目の前にいる人物を確認した。

 ……金髪、貴族で間違いない。頭上に被っているティアラ、そこからかなり位の高い人物であると推測出来た。

 贔屓目に見ても可愛い。年は自分と同じくらいか。

 コバルトブルーの瞳に、スッと通った鼻、桜色のふっくらとした唇はきり、と引き結ばれていて、見る者に聡明さを感じさせた。


「……」


 ……わりと自分の好みではあった。


 だが、いまはそんなことを気にしている暇はない。

 彼女の、その後ろ。そこにも大量の人が居る。

 若い者から、年を食った老人まで。老若男女様々な人間が椅子に座ってこちらの様子を伺っていた。

 こいつらは……、こいつらもおそらくは貴族。

 全員に共通していること、それは彼らが例外なくきらびやかな衣装に身を包んでいること。少なくとも一般人では無かった。おそらくは大臣、またはそれに準ずる要職に就く者だ。

 俺は周りの状況を一つ一つ、素早く冷静に理解し、飲み込んでいく。

 暗殺者として鍛え抜かれた精神が、それを可能にしていた。


「え……ここ、何処よ」


 隣から声が聞こえた。俺はそちらの方を見る。

 見慣れない服装の女が二人、男が一人。全員、まだ子供だろう。

 一番手前に立つ髪の長い女と、奥にいる男は黒髪黒目だった。

 黒髪か。黒髪は珍しいな。……()()()()()()

 しかし、女の片方は金髪だった。鮮やかな金髪を短めのツインテールにまとめている。……こいつも貴族か?

 一瞬そう考えるが、それにしては随分と不自然だったのですぐに気づく。

 染料の類を使っているのだろう。


「……なんでこいつらこっち見てんの? まじキモいんですけど」


 声の主は彼女だったらしい。金髪(偽)が再び声を上げる。

 俺はその様子を無言で眺めることにした。

 喋っていない方の女は、ただ戸惑って、オロオロとしている。

 一方奥にいる男は、ただ無言で俯き、ブルブルと体を震わせていた。

 金髪(偽)の声を聞いて、目の前にいる貴族の女が口を開いた。


「――初めまして、勇者の皆様。私はこの国の王女、ステラと申します」


 ……!!


 こいつ、今王女と言ったか。それに俺達の事を勇者と……。

 だんだんと状況が呑み込めてくる。

 王女といったからには、現在地に当てはまる場所は一つしかない。ここは……”王国”だ。

 まさか、……ということは、まさか――ッ!?


「異世界からはるばる、ようこそお越しくださいました!」


 ――俺は、勇者召喚の場に居るのか!!

 

 そう理解した瞬間、冷や汗が吹き出る。今まで冷静でいた頭は、途端に混乱を極めた。

 一体どういうことだ、流石に理解の範疇外だぞ。俺は先ほど依頼を受けたばかりなのだ。それがどうして王国に?

 帝都とから王国までの距離は()()()()()()()()k()m()()()()()()()のだ。

 その距離を一瞬で移動する方法など存在しない。転移魔法を用いても、せいぜい数百kmを移動するのが限界だ。とても国をまたぐなどという芸当が出来るはずもなかった。

 もしもだ。仮に数千kmもの距離を転移することが出来る魔法師がいるとして、その目的はなんだ。俺を嵌めたのか?

 ……いや、この仮定は無意味だろう。非現実的過ぎる。そのような絶大な魔力を持つ魔法師など、全世界、何処を探しても居ないからだ。

 しかし、その非現実的な出来事が今目の前で起きている。

 ありえない。だが、実際にありえてしまっている。

 周りに仲間は見当たらない。ここは俺一人のようだ。

 

「……どういうことだ」


 思わず、そう言葉を漏らす。


「あっ、突然のことで驚いていらっしゃりますよね。突然で申し訳ございません。それについては今からご説明させていただきますので、どうかお聞きいただけるようよろしくお願いします」


 目の前で何やら王女が深く腰を折って、頭を下げながらそんなことを言った。俺は彼女の言っていることが全く頭に入って来ない。


「当然よ! 早く説明しなさいよ!」


「ちょ、ちょっと茜! 失礼でしょ」


「レイはうるさい! こんなところになんの断りもなくいきなり連れてくる方が失礼でしょ! しかも勇者がどうとかわけ分かんないし、頭おかしいんじゃないの」


「でも、それは……」


 ステラ王女の言葉を聞いた俺以外の三人が騒ぎ出す。

 それすらも俺の耳には入らない。


「よっしゃああああああああ! キタ! 来たよこれ! ついに僕の時代が! 異世界キタァアアアアアアアア!」


 男が両拳を自らの前で握りしめ、わなわなと震えながらそう叫ぶ。

 俺の疑問に答える者はない。あるわけない。

 ……だが、敢えてもう一度。俺は、心の中で聞いた。聞かずにはいられなかった。


 ――これは、どういうことだ。


 今日、この日。帝国の暗殺部隊の戦闘員だった俺は、敵国の勇者になった。

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