三つの扉―炎、虫、獅子 一つの扉を選びなさい―
気が付くと男は真っ白な部屋にいた。
壁の全体がぼんやりと光っていて距離感がつかみにくい。どこまでも広いようにも、逆に手を伸ばせば壁に触れられるくらい近いような気もする。
―あなたは進まなければならない。くぐった先で罰を受けよ―
突然聞こえてきた言葉に驚いて男が振り向くと目の前には三つの扉があった。
一体ここはどこだ、さっきの声はどこから聞こえてきた。疑問は尽きなかったが、扉を選び進まねばならないということを男はなぜだか事実として理解していた。
男が三つの扉に近づき観察してみると、ネームプレートのところにはそれぞれ文字が書いてあった。左の扉には<骨も残さぬ炎>、真ん中の扉には<人を食う無数の虫>、右の扉には<一年間食事を与えられてない獅子>と書いてある。おそらく扉の向こうに待ち受けているものが書いてあるのだろう。男は少し考えたあと、一つの扉を選んでドアノブに手をかけた……。
男が選んだのは右の扉だった。扉をくぐったその先は今までいた部屋と同じような真っ白な部屋だった。唯一違う点は男を一飲みにできそうなほどの大きな獅子が部屋の隅で飢えて死んでいることだ。一年間食事を与えられなかった生き物が無事であるわけはない。男はそうアタリをつけてこの部屋を選んだのだった。そしてその予想は的中した。獅子の死骸はアバラが浮き出ている。首や尻の部分の皮膚は肉がなくなったせいで余って垂れ下がり床に敷物のように広がっていた。片方の足が先から無くなっているのは、もしや空腹に耐えきれず自ら食いちぎったのだろうか。部屋へ入った時は気が付かなかったが周囲の壁には何度も爪や牙を立てた跡が残っている。飢えというのはここまで壮絶なものなのかと男は思わず息を呑んだ。
男が去った部屋には三つの扉だけが残された。その一つ、男のくぐった扉は先ほどと違って<一日食事を与えられてない罪人>と書かれている。




