人の心
生まれた時からこいつは傍にいた。
高校に入学してから、気づいたら3か月ほどたっていた。友達もいるし、寮での生活は楽しかった。ただ一つ気掛かりがあるとすれば...
「渡部、目にくま出来てるぞ。」
僕の肩に乗っているシバがそう言ってきた。
生まれた時からこいつは、僕のそばにいた。見た目はただの柴犬だけど、とても小さく他人には見えないのだ。そして何よりうるさい。
「夜中、話しかけ続ける奴のせいだろ」
ため息をつきながらシバに言うが、当の本人は聞いていないようだった。
「渡部がかまってくれないからだぞ...」
もう意味がわからん。隣にこいつがいなければ、朝の通学も散歩感覚で楽しめたのに...
そう考えていると前から二人の女の子が歩いてきた。制服からして近くの中学生だろう。
「髪型変えたんだね~、か~わ~い~い」
腰当たりまで髪のある女の子が言うと、もう一人の女の子は顔を赤くして笑っていた。
一見、ただの仲のいい友達の会話に聞こえるが、僕にはこう聞こえる。
「髪型変えたんだね、か~わ~い~い」『ブスが出しゃばんなよ』
更にあの顔を赤くしていた女の子も、『当たり前のことじゃブス』
こう聞こえるのだ。原因は分かっている。
「おいシバ、見たな?」
「何の話ぞ?」
こいつ、とぼけてやがる。
「おい、殴るぞ」
握った拳を顔まで上げる。認めないのなら、このまま殴ってやろう。
「わかったわかった、すまんぞ。罪は認めるが、殴られるなら女がいいぞ」
そうだこいつMだった。その上エロでオス、何より厄介なのが、こいつの『心を読み取る能力』
小さい頃からこの能力に困らされ続けてきた。普通の人はこの能力を羨ましがるかもしれないが、現実はそうはいかない。
陰口を言われているのがわかるし、人の心が読めるが上気を遣う必要があるのだ。
めんどくさすぎる。まぁとりあえずがん押ししておこう。
「シバ、次見たら一発な?」
「ひどい!女を見なかったら死んでまう」
反省していないのがまるわかりだった。
この『心を読み取る能力』はシバの視界に入った人物に発動される。つまり、シバが見た人物の心が読み取れるのだ。
学校までは決して遠い距離でもないのに、こいつのせいで足がすでに重い。
しかし、学校を遅刻したらしたでまためんどくさい。怒られている自分を想像し、足を無理やり学校へ向かわした。
教室に入ると同時に、チャイムがなった。心なしか教室がいつもよりざわついていた。それに、先生もまだ来ていない。少し気になり男子の輪に混ざりに行った。
「今日、なんかあんの?」そう問いかけると、その輪の中にいた人は驚いていた。
「は?渡部知らねえの!?美人転校生の噂!今日だぜ!」
そのうちの一人が興奮しながら言ってきた。
「ハ-フらしいぜ!」「しかも知的!」「狙ってみるか」
などと、次々とその転校生の情報が言われる。一体どこから仕入れたのだろうか。
話を聞くのが疲れたので僕は席にもどった。
数分後、担任が教室に入ってきた。「静かに!!」と甲高い声で注意を二、三回続けていたが、一向に静まることなく、担任は諦めその転校生を呼んだ。
「麻衣さん。いらっしゃい。」
ガラガラと開いた引き戸からその転校生が歩いてきた。
すると、その転校生は黒板の前で止まりおもむろにチョ-クを取り出し、大きく名前を書いた。
「福田麻衣です。気軽に話してください。」
そう言って一礼をした。男達からは黄色い歓声、女達からは「よろしく-」「可愛い-」
『友達にしよう』 『負けた…』
などと口々に声をかけていた。
福田って姓でどこがハ-フだよ。ふきだしそうになったのをぐっとこらえていると、ふと違和感を感じた。
福田が自己紹介をした時、周りの女の心の中は読めていた。それは、シバは周りを見ていたことになる。
ましてや、あのエロ犬のシバだぞ?可愛い女が来ると聞いて見ないはずがない。
左肩を横目で見ると案の定シバと目が合った。どうやら考えていることは同じらしい。
「シバ、見ていたよな?」
小さな声で一応確認すると、シバはゆっくり頷いた。
「僕、心読めなかったんだけど...」
シバに動揺を隠しながらそう言った。
「警戒しておいたほうがいいぞ」
いつにもなく真剣な声だった。
顔をあげると福田と目があった。
慌てて目をそらした。不自然だっただろうか。まぁいい、いま関わりあうのは気が引ける。
これでマイナスイメージを持ってくれると願ったり叶ったりだ。
再び肩にいるシバに目を戻すと、シバは震えていた。何があったのか聞く前にシバが口を開いた。
「あいつ俺を見て笑いやがった...」




