第八話 『夕食前』
気が付くと目の前には見知らぬ光景が広がっていた。青空が見えていた空は一変し、木でできた天井があった。
今はどうやら横たわっているらしく背中には柔らかい感触が広がる。どうやら、場所を移動したようだ。
ん?何やら腹部辺りに何かが乗っかる重みを感じる。何か冷たいような生暖かいような物だ。
最初は、布団のように思えたがそれも何か違う気がする。時折、膨らんでは縮み、ピクリと動いたりする。明らかに布団では無いようだ。
何かと思いキョウはゆっくりと起き上がる、そこには、
「おぉっ?! マリアちゃん、何してんの?!」
「……うーん。あ、お兄さんおはよぅ……」
腹部には少女、マリアが寄り添うように、抱きつくように寝ていた。少女ならではの無臭に近く、またそれとは違う暖かく良い匂いが漂う。一度起きたが目を瞑り、座った状態で足元の上で寝ている。
キョウはとっさに起きた時の作用でモノが危険にさらされていると気づいた。とにかくそれを害さないよう、ゆっくりとどかし起き上がる。
見てみると寝ていた場所はベットの上だった。シーツは寝ていた所以外はキッチリと整えられていた。まだ温もりを感じる。公園からの記憶が無いことから運ばれたのだろう。
「お、気が付きましたかね、キョウ殿。マリア様と衝突したきり軽く小一時間は寝ていましたからね」
「マジ…ですか。どうりで頭が痛いわけだ……」
衝突した額部を軽く撫でる。目立った外傷は無いものの触ると分かるくらいにはタンコブが出来ていた。撫でながらぶつかった時の様子を思い浮かべる。
「……そう言えば、ファラクロスさんは気絶する前に何か言ってましたけど何でしたっけ?」
意識が飛ぶ寸前、彼がボソりと何か言っていたのを思い出す。頭を抱え必死に思い出そうとしていたファラクロスだったが諦め首を横に振る。
顔を上げ、「それはそうと、」と、ファラクロスが口を開いた。
「起きたばかりですがこれから歓迎の宴がございますがどうなされますか?」
「そうですね。もう大丈夫なので参加しますよ」
「承りました」
そう言って軍服姿の男性、ファラクロスは部屋の奥へと消えていった。
キョウの足元、横で眠そうにしていたマリアがあくびをしながら伸びていた。思わず微笑んでからキョウは言った。
「じゃあ、行こう。マリアちゃん」
「……うん」
「あ、眠ぃ?」
マリアは首を振ってベットから飛び出す。元気だと言わんばかりに腰に手を当てドヤ顔。そして、そのままマリアはキョウの腕を掴んで部屋の奥へと行った。
彼女の手はとても細く子供らしく、また女の子らしいとも言える。とても滑らかなその肌は一度触るといつまでも触りたくなるような手触りだった。
その手は少しヒンヤリとしていて気持ちいい。キョウは昔から人より体温が高いため丁度いい冷たさだ。
「ん? そういや、マリアちゃん。石鹸の香りがする?」
その石鹸の清潔な香りに思わず口に出してしまった。これは完全にヤってしまったと思った――が、キョウを振り返った少女は怒る様子を見せるどころか少し微笑んで、
「泥で汚れちゃったからお風呂に入ったんだ……」
そう言い、また前を向いてしまった。最近の女の子はこれ位では動じないのだなと、心の隅にそっとしまい、キョウもまた歩いてゆく。
しばらくの間、長い廊下が続いている。少女はこの長い距離を小早に走りながらキョウを引っ張っている。実際には、キョウは引っ張られているフリなのだが。しかし、少女は相当息を切らしていた。流石に悪いと思い、声をかける。
「……大丈夫? おぶって行こうか?」
少女は、意図せぬ質問に目を見開いてキョウ。見つめていた。顔を上げたり下げたりと考え、モジモジ何かを伝える。
「……おね……がい……します」
「……ふふっ、ほら、乗りな」
キョウはしゃがみこみ、背中を向ける。少女の手がキョウの首に掛かる。ゆっくりとその体をキョウに預け、少女を支えるように手を腰に回す。徐々に立ち上がり、無事おんぶする事が出来た。
少し、乗りやすく位置をずらす。その少女の体はまだ未発達で起伏はあまり無く、体も軽い。少々、首に掛けられている手が強く締め付けられていて苦しいが気を向けなければ気にならない程度だ。
「――よし、行こう!」
道は背中の少女が曲がり角に差し掛かる度に教えてくれた。寝ていた部屋からは結構離れていて少女のペースで歩いていたら数十分はかかっていた程の距離だ。
キョウは、力を振り絞りその体を走らせる。とても、とても長いその廊下はまるで暗闇に吸い込まれるかのように長かった。けれども、しっかりと終わりはあった。
少女の言う通りに進んでいくと行き止まり――否、扉に差し掛かった。縦はキョウ二人分はあり、横は数えるのも面倒臭い程にデカイ扉だ。
「マリアちゃん、ここかい?」
「あ、着いた。 お、降ろして……」
「え? あぁ、悪ぃ。足元気を付けて」
ゆっくりとその身を降ろし、腕を軽く回して肩が軽くなったのを確認。流石に肩は関節がバキバキ言うほどに凝っていたようだ。
「お兄ちゃん、行くよ」
「おう、準備はいいぞ」
その重厚な扉から光が漏れだしてゆく。少女が扉を開けるのをキョウが後ろから加わる。
開いたその扉からは眩しすぎる光に思わず目がくらんだ。
久しぶりすぎる投稿…