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パワフル  作者: コウサカ火兵
第一章 始まりの1歩
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第七話 『観光』

 軍服姿の男性――ファラクロスが外へ通ずる扉へと案内する。少女、マリアがキョウの手を取り外へと行こうとする。キョウはそれに流れるように着いていき扉の前へ立つ。


「では、キョウ殿、マリア様、行きましょう。案内は、私――ファラクロス・タラコピオスが行います。 何処か気になる所がありましたら、何なりと仰せ付けくださいませ」


「え、あ、はい! よろしくお願いします、ファラクロスさん」


「ははは、そう固くならないで良いですよ。 ファラクロスで良いですよ」


「そ、そうですか。 じゃあ、マリアちゃん行こっか」


 先程から一切何も話すことのなく口を閉ざしている少女へと話を振る。しかし、それが届かなかったのか尚も俯いたままだ。


「マリアちゃん、どうしたの?」


 我慢にならず、失礼にもストレートに、単刀直入に聞く。少女はやっと顔を上げてはくれた物のやはり話さない。いや、どうやら目で何か語りかけてきていた。

 顔はそのまま視線だけを広報の方で落ち込んでいる少年――ニンの方を見ていた。少女の事を『ちゃん』付けすると事を禁じられずっとあの調子だ。

 これにはマリアも悪く思い、どうするべきか悩んでいた。


「……待ってて上げるから、何か言ってきたら?」


「…………」


 少女は、決心し少年に近づき寄る。しゃがんでいる少年の頭を掴み顔を無理やり上げる。あげた顔にゆっくりと近づき、おでこにキスをした。


「……ごめんなさい。 けど、ちゃんは駄目」


「……マリアっ! お前ってやつは!」


 潤っていた目から一気に涙が流れ落ちる。そして、見えるのかも定かでない目でしっかりと少女を、マリアを抱きしめる。

 しかし、これには流石に嫌になり抜け出してしまった。


「もう、行こ! お兄ちゃんっ!」


「――あっ、マリア!」


「えーと、お預かりしますね」


 崩れ落ちた少年を横目に2人は軍服の男性が開けていてくれた戸へ入っていく。軍服姿の男性は扉を閉めきる前に一度ニンの前へ歩み寄る。


「では、このファラクロス。 全身全霊を掛け、マリア様をお守り致します!」


 男性は勢い良く床を蹴りつけ、腕を頭の上へもっていく。その敬礼を見るや否や崩れていた少年も立ち上がり、じっと男性の顔を見つめる。


「……当たり前だ。 何かあったらタダでは済まないからな」


「――はっ!」


 そう一言いい、軽く会釈をして扉へ駆け足で向かう。その道中、隠していた冷や汗を拭い扉の中へと吸い込まれていった。


「……はぁ、あのマリアも困ったもんだ。 そうだ、プリシヴィー」


「はっ、何でしょう」


「今回、マリアがどうやって抜け出したのか……それを調べてこい」


「――承りました」


「あと……あの青年についても、頼んだぞ」


「――了解です」


 そうして、もう一人の軍服姿もまた部屋から立ち去った。

 黒服に包まれた少年は置いてあった椅子に座り、ただただ一点を見つめる。


「――ほんっと、メンドクセェ」


 誰にでも言うのでもなく、そう呟き彼もまた部屋から消えた。



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 扉を抜けると目の前には家に入る前にあった森――では無く、人々が行き交う町があった。大きさは見える限りでも、キョウが居た村を軽く超える。

 出てきた建物の前には、ちょっとした広間にあるような噴水が置いてあり、その周りを囲むように商店が立ち並ぶ。狭い道を人々が往来し、まさに商店街といった光景が見られた。

 人々は、先程の少年や少女、男性たちとは違い、普通の服の上に布をかけるような格好をしていた。恐らくこれがここの衣装なのだろう。


「ね、ね、驚いた? 凄いでしょ!」


 少女がこちらが驚いているかどうかを確かめたく、鼻息を荒くして聞いてくる。驚きを隠せないキョウは手を広げ答える。


「こりゃまた、どうなってるんだ? さっきまでの森が消えちゃったじゃないか」


「ハハハ、そうでしたな。キョウ殿は知りませんでしたね」


「え、と、どういう事か説明お願いします」


「ええ、もちろん。簡単な話です。結界の中に隠されているだけですよ」


「そうだよ! 結界の外からは森にしか見えないけど、中に入ればこの通りっ!」


 マリアはこれ見たことかと、腰に手を当て可愛らしいドヤ顔を決めてくる。


 改めて辺りを見ると、出てきた建物も噴水を囲む商店街の一部になっていた。隣には果物が立ち並ぶ青果店と商店街の異質としてなっていた、歴史を感じさせる少し寂れた酒場があった。

 青果店の前ではスキンヘッドの頭の店主が誰かと話していた。同じスキンヘッドの軍服姿の男性――ファラクロスだった。早速、任務を放棄しサボっていた所に、


「こーら! ファラクロス、サボっちゃ駄目でしょ!」


「……あっ! マリア様!」


「おやおやぁー? ファラ、サボりかぁ? しかも、王女さんを連れて。どうした、捕まんのか?」


「ちょ、笑えない状態だから!」


 マリアを含め、3人は高く、広間に広がる程の大きな笑い声を挙げた。

 そんな大きく笑う3人組の中にキョウは何事もなくスルリと入っていく。


「ファラクロス、こちらの方は?」


「お? ファラ、今度は男まで連れてどうしたんだ? ホントに捕まんのか? はははっ!」


「はぁ……こちらは外の御方で、今、案内してるんだよ」


 店主と残り2名だけに届くように小さくそう囁く。きっと、さっきから町の者がチラチラ見てくるのもこの――外から来た青年の事だろう。

 小さな町だ。外から誰か来れば、すぐにわかる。人々は、不思議に、怪しむように、その格好をジロジロと見てくる。


「ふむ、皆にも誤解を解かなければな……」


「え? あ、チラチラ見てくる事ですか? きっと、格好がおかしいからで別に――」


 気にしなくても良い、そう続こうとした所をファラクロスが広間、その周辺全域に届くような大声で叫ぶことで中断される。


「皆さんっ!! この方は、客人なので安心してくださいっ!! この、ファラクロスが誓いますっ!!」


 大きく出てきた。客人と聴衆に言い、自らの名を賭け、安全だと言う。そこまでして、自らに自身があると言うのだろうか。否、それを出来るほどに彼は信頼を得ていた。


「おぉ! ファラさんがそう言うなら安心だな!」


「そうね! ごめんなさいね、外から来る人なんてあんまりいい印象を持たなくて」


 老若男女問わず、町の住民皆が声を上げて歓声をあげる。そうと分かれば皆睨む様な目つきが笑顔になり、歓迎をするようになった。


「ようこそっ! 外から来るなんて大したものだっ!」


「そうだぞっ! そうだ、これでも持ってけっ!」


 そう言って気前のいい男性から渡されたのは乾パン――否、クッキーだった。


「えっ! いや、その、大丈夫……ですよ」


「若いのに遠慮すんなっ!」


 そう言われやむを得ず、貰っておく。男性はそのまま笑顔で去って言った。そんな男性を見ていたキョウの耳元に大きな声が入ってくる。


「ふふふ、どうだ。これが私、ファラクロスの自慢すべき所。民衆との、絆、と言う物ですよ」


 得意げな顔をし、こちらを見下す。キョウよりも頭一つ分くらい大きいファラクロスは、ただでさえ顔が怖いのにより威圧感が与えられる。しかし、それもそこまで。ファラクロスのドヤ顔混じりの笑顔は見る者はつい心を許してしまうほどの優しさに溢れていた。

 これにも住民に愛される秘訣があるのだろう。


「ファラクロスって、人気者だったんだね。私、知らなかった」


「どうですか、マリア様。少しは見習ってくださいよ」


「こら、ファラはまた王女さんに手をかけるつもりかぁ?」


「だから、冗談にならないってっ!」


「……ははは」


 つい、そのやり取りが面白く笑ってしまった。2人の男性はこちらをジッと見つめる。謝るよう、手を横に振ろうとしたら、


「ふふっ、そんなに面白かったですか? えっと、キョウ……さん、でしたっけ?」


「あぁ、キョウ殿、まだ紹介してませんでしたね。こちら、私の幼少の頃からの盟友、青果店のカーブですよ」


「カーブです。よろしく」


 そう言って、手を差し伸べる。その手をとり少し荒っぽく、男っぽい握手を交わしこちらも名乗る。


「私はキョウと言います。よろしく、カーブさん!」


「ねーねー、まーだー」


 先程から男同志の語り合いに完全に置いてけぼりにされていた少女、マリアが退屈を訴えるよう身を乗り出してきた。


「あぁ、ごめんね、マリアちゃん。そうだな、どっかいい所ない?」


「王女さんをちゃん付けとか凄いな、お前。えーと、何処か行くとこ無いんなら一旦王女さんの家に行けば? ファラ、何か言われてないのか?」


「えぁ? そうだな、確か夕刻――食事時には帰れとの名だけだな」


「夕刻か。えーと、まだ(さる)の初刻じゃないか。まだ、時間あるしどっか回ってけ」


 申の初刻、時間を表す時に用いる語だ。子から始まり、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥の12個だ。はるか昔に作られたと言われている。

 夕刻は主に酉の初刻が当てはまる。そのためまだまだ時間はある。


「おー、まだまだ時間あるじゃないかー! こっちに行こっ、お兄さん」


「え、あぁ、そうだね」


「王女さんにお兄さん呼ばわりとかホント何もんだよアンタ」


「はは、その事ではまた今度な、カブや」


「あぁ、楽しみにしてるよ、ファラ」


 そうして、青果店の主人カーブに別れを告げ、少女に言われるがままに着いていった。



※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 少女、マリアがキョウの腕を掴んでから早十分程たった頃、空き地――否、公園へ連れてこられた。公園は、特に目立った遊具は置いておらずベンチと滑り台、シーソーが置いてあるだけだった。


「お兄さん、ここで遊ぼっ!」


「えぇ、あぁ分かったよ。何で遊ぶの?」


 マリアは公園の中を軽く見渡してからニッコリと笑って言ってきた。


「あのシーソーで遊ぼ!」


「え、分かったよ。あぁ、そうだファラクロスさんは?」


 結局さん付けしている。しかし、そんな事は気にせずファラクロスは、自分は構わないと軽く会釈をし、公園の隅にあったベンチの前へと行ってしまった。


「さっ、お兄さんはそっちね!」


「よいしょっと……シーソーなんていつぶりだろう」


「ふふふっ、楽しい?」


 マリアはこちらを輝いた目で見つめてくる。ただただ、ジッと見てくる。これにキョウは「楽しい」と、軽く呟いた。

 少女は満面の笑みをこぼしながらシーソーで遊び続けた。上へ下へ、2人は揺られ続ける。少女は楽しく笑っているのを見て、キョウも釣られて笑う。

 ファラクロスは隅にあるベンチに座りこちらを優しく見守っていた。2人の保護者の如く、時折笑をこぼして楽しく見てくれていた。


「なぁ、マリアちゃん。この村って何なの?」


 そう軽く呟く。少女は首を傾げ、質問に答える。


「私にも……よく分からない」


「……え? どういう事?」


「……でも、いい所ってのは分かる。みんな優しいし、お兄ちゃんも優しい。みんな、大好きだよ」


「マリアちゃん……」


 詳しい事は分からない。けど、声の調子、その言葉に込められた思いからは何となく察しがつく。

 空気が少し重い。何か他の話題を話さなければ。そう思って口を開こうとしたら、


「お兄さんは……私、マリアの事、好き?」


「……え? 好きだよ」


 突然の質問にとりあえずで返してしまった。だが、その気持ちも嘘ではなかったのだ。そんな答えにマリアは笑ってシーソーを漕ぎ続ける。

 マリアは何か思いつき、顔をあげて聞いてきた。


「そうだ。お兄さんはあった――」


「キョウ殿っ! 少しよろしいでしょうか」


 少女が何か言おうとしていたが、首を振って何も無かったことにした。キョウはとりあえず少女に滑り台で遊ぶよう勧め、ファラクロスの隣に座る。


「すいません、キョウ殿。お遊びの途中で呼び止めてしまって」


「いえいえ、何かあったんですか?」


「いえ、本部の方から外からの者には簡単な身分調査をするように言われましてね。この時間にと。よろしいでしょうか?」


「えぇ、構いませんよ」


 それは当然の事だと思い、質問には答える。何処の村から来たのか、持ち物の検査、どのような経緯で此処に来たのかなどそう言った事を聞かれた。だが、どれも言った通り軽いもので数分で終わった。


「えぇ、以上ですね。ありがとうございます。そうだ、そろそろ夕刻に近づいて参りましたので、マリア様を呼んできてくれませんかね。それにどうやら退屈してきたみたいですし」


「あー、そうですね。じゃあ、行ってきますっ!」


 軽く頭に手を構え小走りでマリアの元に向かう。

 滑り台の元へ行くと丁度マリアが滑る所だった。


「マリアちゃーん。そろそろ――」


「お兄さん、滑り台の下で待ってて!」


「おう? 分かったっ!」


 滑り台の滑り口へ歩み寄る。少し離れた所に立ち、少女を待つ。少女はそれを確認すると勢い良く滑ってきた。


「いぇーーいっ!」


「おぉっ?!」


 少女は余りにも勢い良く滑ったため、途中で段差になっている滑り台から飛び出してくる。そのまま少女は空を切り、キョウの元へ飛んでいく。刹那、気づくとキョウは床に寝ていた。ぶつかってその勢いで倒れていたようだ。

 何やら顔面に柔らかい、布の様なものが覆いかぶさる。何だと、思い布をどかし外へ顔を出す。そこにあったのは、


「きゃっー! へ、へ、へ、へ、変態っ!」


 気づいたら今度は顔面を小さい足で蹴られていた。先程覆いかぶさっていたのはパンツだったようだ。柔らかかったのは言うまでもない。


「そ、そんなぁ……痛い……」


「だ、だ、だ、だ、大丈夫ですかっ!? マリア様、キョウ殿っ!」


「あぁ……多分、大丈夫……」


「お兄さんの変態っ! って、大丈夫っ!?」


 少女は、地面に思い切り叩きつけられ、その後顔面に蹴りが入った青年を見て、身を案じる。


「キョウ殿、羨ましいです……」


「それ、本音か……ファラクロスさん……?」


 ファラクロスが何か危ない事を言ってる横で少女が犯人が自分だと知り、顔を赤くして謝っていた。


 ――そして、そこで意識が途切れた。

投稿ペース空いてしまった……

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