第五話 『家、何処』
突如としてキョウと少女、2人の前に現れたオークが森の中へ消えて行ってから幾分か経った頃、場所は既に森の中へと移っていた。
「なぁ、お嬢ちゃん…」
キョウは歩きながら少女――マリアに声を掛ける。マリアは前を向きながら少し強い口調で答える。
「……ねぇ、お兄ちゃん。あの…お嬢ちゃんじゃなくて、マリアって呼んで…くれる?」
「えっ?……あぁ、いいよ?…マリア?」
キョウは、見ず知らずの人に名前で呼ばれる事を嫌がるだろうと思い「お嬢ちゃん」と、読んでいたのでマリアの方から名前で呼ぶよう申し込んで来るとは思ってもいなかったのだ。これはマリアからの何かしらの好感度を得たのではないだろうか。
「……え、と、そうだ。マリア道はこっちでいいんだよ…な?」
「そうだよ。そのまま地図の通りに進んでいけばある……かな?」
「え……か、かな?今、かなって言った!?」
マリアが不安気に言い、思わずツッコミを入れるキョウ。暫くの間沈黙が続き、キョウは耐えられずマリアに話しかけた。
「な、なぁ。マリアのお兄ちゃんってどんな感じ?ぶっちゃけ、俺よりも格好良いの?」
実にありきたりで普遍的な内容だ。否、自分を掛け合いに出してい時点で程が知れる。
「お兄ちゃんは……格好良いよ。おじ……お兄さんよりは」
「一瞬、おじさんと言いかけた事が引っかかるがまぁ、それは置いておこう」
つい口が滑ったことについては少女は舌を出して肩目を瞑って謝った。「そういや」と、言ってキョウは話を続ける。
「お兄ちゃんって、何て名前なの?あと、どんな見た目?」
「え……名前は、ニンって言うの。 見た目は……」
一息付きマリアは言う。
「イケメンで、頭がキラキラしてていつもマフラー着けてる。格好良いよ!」
マリアはキラキラした目でキョウの方を見つめる。兄思いとも言える。が、内容は別だ。
「おいおい、イケメンは置いておいて。頭キラキラはヤバイ奴にしか聞こえねぇぞ。あと、マフラーって格好つけてんのか……」
苦笑しながら話した。その後は特に話す事も無く歩いていった。
幾分が経った頃、視界が広げる所に出た。辺りの木々がそこだけすっぽりと無くなっている。ここが地図で言うところの穴の空いている部分だ。
「……ふむ、ここで間違いないな。 さて、マリア。家は何処なの?」
地図の空いている所に来たが辺りを見渡しても家は一つも見当たらない。それどころかそこだけ綺麗に何も存在しないかのように綺麗に地面が剥き出しだ。
「……待っててね。今、呼ぶから」
そう言い、マリアは剥き出しの地面の先端に立つ。すると両手を前へ出し、何やら唱え始めた。
「…………」
キョウは魔法か何かかと思い、言葉の内容を聞き出そうとしたがそれは聞いたことも無いような言語だった。
その後もマリアは、ブツブツとブツブツと謎の言語を唱え続ける。
そうして三分程だった頃、一呼吸ついたら大きく叫んだ。今までの倍以上の声量で。
「――エーラ!!」
「お、何か始まったか!?」
辺りが急に静まり返った。しばらくの沈黙のうちに事は起きた。
剥き出しだった地面の色が急に濃くなりやがて暗闇となる。地面の上の空間――空気が揺らめきだす。やがて揺らめきは高くなり木々を軽く越した。刹那、揺らめきの進行が止まったかと思いきやその先端から何かが現れた――否、建物の屋根だ。
「おぉ!どんどん建物が見えてきたぞ!……ん?地図上に家の屋根見たいなのが出てきたぞ!」
ついさっき見た時は空いていた穴――隙間に建物の姿が浮かびがっていく。
揺らめきが低くなるのに連れて建物がゆっくりと姿を表す。やがて揺らめきが消え、辺りへ空気がまた走りだす。先程までは無かった家が現れたのだ。
「いかにも森の中にありそうな家だな。」
「……悪い?」
「……え?いやいや、雰囲気出てて素晴らしいと思うよ?ホントだよ!?」
少女は、頬を膨らませコチラを睨んでいたがそのまま家の方へ歩んでいく。
建物は、キョウの言う通り森の中に合っている。屋根は瓦状になっていて、天窓がついている。屋根や外装はそれなりに傷があり、剥き出しだった地面には草が生い茂り花や植物が見られる。その内の幾つかが壁に蔦となっていてそれがまた良い雰囲気を醸し出していた。壁には幾つか窓が有るが、どれも高い位置にあり中が見えない。
キョウが建物に評価を付けていると少女は扉を開けて待っていた。
「お兄ちゃん…入らないの?」
「お、すまんすまん。つい、家に魅入ってたわ」
キョウは小走りで少女の元に寄っていく。少女が先に家に入っていきキョウがそれに並んで入っていく。
「おっじゃましまーす」
――キョウが扉を閉めると同時に辺りがまた揺らめき、建物が消えた。
タイトルは「いえ、いずこ」って読みます。