第四話 『崖登り』
「さぁて、どう登りたいお嬢ちゃんや」
崖の方を向いていたキョウがターンを決めながら少女に質問した。少女は少し俯いて考えていたがすぐに上を向いて答えた。
「……おんぶ…して登れる……?」
「おんぶ?あぁ、いいよ?……どっか登れるような道でもあるの?」
そう聞くと少女は少し躊躇いながら言った。
「え、と……その、崖を登るしかない……」
「崖ね、おーけーおーけー……えっ!?」
予想外の答えに思わずギョッとした。崖を登ると言い出したのだ。しかも、おんぶしながら。
「この崖結構デカイよなぁ……俺1人ならまだしもなぁ……そうか、どっか回り道出来るところないかな?」
キョウは鞄の中から四角い箱を取り出した。少女はキョウの取り出した箱に興味を持ったようで、質問をしてきた。
「お…お兄ちゃん、その箱なぁに…?」
「これか?地図だよ。ここの青い術式に触れると出てくるんだよ……ほらね。」
そういって少女に地図を見せる。少女は驚いたように手を大きく広げて喜んだ。
「さてと、何処かに無いかな……?」
地図を動かして崖の先端までくまなく探す。直ぐに目的のものを見つけた。だが
「あった!……って、遠っ!徒歩だと数時間かかるじゃねぇか。悪立地やな、ここ!!」
あまりの立地の悪さに誰とでも無く突っ込みを入れてしまった。それはさておき、本当に崖をおんぶしながら登らなければ行けなくなってしまった。
「どうしたの……もしかして、お家…帰れないの?……ぇぐ、嫌だよ…?ぅぐ……」
今度は帰れないかも知れないと少女はまた泣き出してしまった。これにはキョウも敵わなかった。
「だ、大丈夫だよ!お兄ちゃん、力持ちだから2人で登れるよ!ほら、背中に乗って」
そのまましゃがんで背中に少女を乗せる。まだその未発達な体が服を通して伝わってくる。
「暖かい……」
少女はキョウの背中でそう呟いたがキョウには届かなった。キョウは乗ったのを確認し、少し調整しながら立ち上がる。
「よぉし、しっかり捕まってろよ。登ってる最中は動かないでよ。落ちちゃうからね?」
「……うん、分かった」
その言葉を聞き、少し崖から少し離れる。
「よぉし、出発しんこー!」
キョウは、助走をつけて崖に向かって飛び上がる。崖の出っ張りの部分に足を乗せてどんどん登っていく。まるで現実とは掛け離れたかのような動きを見せていた。
「くそ、思ったより足場は不安定で長いな……おっとっと……ほっ…」
キョウは淡々と登っていくがこの崖、下から見るよりもはるかに高かったのだ。そんな崖を少女は擦り傷一つで落ちたのだから奇跡そのものだろう。
次の足場へ移ろうとした途端、キョウに向かって強烈な横っ風が吹いてきた。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!」
「うぉ、あぶ……」
バランスを崩し大きく左に反れる。あまりに傾いたため、足場が崩れてしまった。
「しまった、足場が……!」
このままでは2人とも崖下に落ちてしまう。キョウは既に崖の中枢辺りまで登っていたので高さは結構ある。
「くっそ……やむを得ない!」
キョウは、右手だけで少女を支え、空いた左手を伸ばす。
「──フォーティア!!」
刹那、左手から赤い光──炎が放たれた。凄い勢いで炎を出し続ける。
キョウはその反動で崖に乗り直しそのまま登っていく。その後、その勢いを使い難なく登っていき、なんとか崖の上に登ることが出来た。
「はぁ……はぁ……つ、疲れた……ほら、もう降りて大丈夫だよ……魔法はホント辛いわぁ……」
崖を登るだけでなく魔法を使った事によりより一層体力を使ってしまったようだ
「あ……ありがとう…だ、大丈夫?」
「あ、あぁもう平気だ。さぁ、あとは帰るだけだよ。家はどっちかな?」
崖を登ったなら後は家に送っていってあげるだけだ。少女は辺りを見渡して方向を確認する。
「え……と、あっちの森の奥……」
「あっちね。ちょっと待ってね、地図で確認するから……」
そう言って、鞄から取り出した地図で確認をする。地図を指で上下左右へ動かす。崖の上の森を隅々まで探す。
するとどういう事だろうか、地図には村は愚か家一つも乗っていなかったのだ。どこを見渡しても木々しか無い。
「な、なぁ家なんて無い──」
キョウが少女に確認を取ろうとした時だった。木々が倒れていく。
「──ゥゴァァァァアアアアア!!!」
なんと森の中から一匹。否、一頭が正しい程の大きな緑の体の生物。
──『オーク』が現れたのだった。
オークは巨大スライムを軽々と超える大きさで、全体的に豊満な体型で顔は白目を向いており、口から牙がはみ出し涎が垂れている。色も少し紫色をしていておどろおどろしい様を見せている。
何処からどう見ても危険な魔物だ。
「おいおい、嘘だろ……実物は初めて見たがこんな気持ち悪いのかよ、オークってのは。なぁ、お嬢ちゃん…この先に家は本当にあるんだよな?」
先ほど言いそびれた事を聞き直す。すると少女からは出た言葉は聞いたこととは違う事だった。
「ほら、オークちゃん。駄目よ、この人は恩人なんだから丁寧に扱いなさい」
「──ゥゴガァァアア……」
それを聞きオークは大人しくなった。なんと少女の言う事を聞いたのだ。これには呆気を取られキョウは呆然としながら少女を見つめた。
「え…ちょ、どういう事だよ……!?オークは、敵じゃないの?」
キョウからのその言葉に少女は首を傾げ不思議そうな顔をしていた。どういう事か、少女はオークを見て驚く所か手なずけている。
「オークはいい子だよ?言う事聞いてくれるし」
いい子、という言葉が出てくるとは意外だった。オークは、何かしら餌があれば大人しくなってくれるが言葉一つでここまで言う事を聞いてくれるのならこのオークは彼女と何か特別な存在なのかもしれない。
「なぁ、お嬢ちゃんこのオークとはまた一体どういった関係何だい?友達とかペットとかかい?」
また聞きたい事が丸見えな質問をしたが少女は気には止めず──否、それには気づかずに答えてくれた。
「このオークはこの前あって……食べ物あげたら言う事聞いてくれるようになった……」
「そうか、食べ物ねぇ……」
少女の言葉を聞き、考える。食べ物を一回与えただけであそこまで懐くのだろうか。オークは例外無く知能が低い。低く、食べ物で操れる分あげた者の顔を覚えない。故に次あった時には忘れているはずだ。
やはりこのオークにここまでさせる何かがあったのだろう。それ以上質問するのは無粋だと思い、質問を変える。
「なぁ、お嬢ちゃん。さっき地図で見たんだが村…家は映って無かったぞ?こりゃまた一体全体どういうことだ?」
「……さっきの地図見せて貰える?」
キョウは言われるがまま少女に地図を渡す。少女はキョウの見よう見まねで地図を動かす。すると少女は木を指して言った。
「これがそう……私達の家は木で覆われてる……」
その発想はなかった。木を隠すなら森の中とはよく言ったものだ。魔物や盗賊から隠れるなら森に扮すのが一番という訳だ。
「でも、どうしてコレがそうだとわかったんだ?」
少女が指した木は至って周りの木と何ら変わらない。なら、何か見つける方法がある筈だ。すると、少女は木を指して。
「ここ、木の隙間開いてるでしょ。この隙間の形がそう」
少女の言う通り隙間を見る。すると、その隙間は他の木の隙間のように見えたが何処と無く形が特徴的だった。きっとコレがそうなのだろう。
「──じゃあ、早速家に行こうか。そうだ、オークはどうするの?」
流石にオークは家に連れて行かないだろう。そう思い少女に聞く。
「……いつも途中まで付いてくるけど森の途中で別れる。」
「なるほどね。じゃあ、そのままいつも通りにしておこうか」
そうして、森の中へ入る──そうしようとした時だった。さっきまで少女の言う事を聞き、座っていたオークが突如立ち上がり両手を掲げる。
「──グゴァガァゲァギァァアア……!!!」
オークが突然悲鳴を上げ始めた。自らの頭を殴り、木に叩きつけ、暴れている。辺りの木々は倒れ、オークも叩きつけた頭が血に染まっていた。苦しそうに暴れ回り続けた。
「お、おい!しっかりしろ!おい、お嬢ちゃん……コレは一体どうしたんだよ……!」
「……分からない」
少女にも分からない。そんな様子を見てキョウもよく分からなくなった。
「くそ!お嬢ちゃんは危ないから、下がってろ!俺が──」
キョウが腰部に付けている短剣を手にかけようとした時、オークは森の中へ走り出した。
そして、そのままオークは森の中へ消えてった。
「に、逃げた……?うーん、とりあえず家に行こっか」
2人もまた森の中へと歩み出した。
──その時少女が一切動揺していないのにキョウは気づかなかった
まだまだ続くぞい!
次の投稿は少し遅れるかな