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パワフル  作者: コウサカ火兵
第一章 始まりの1歩
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第三話 『森の中の泣き声』

 キョウがスライムを倒し林を歩くこと20分程経った。辺りの景色が木々しかなく退屈をし始めたころ。木々が晴れる所に出た。


「おぉ、池だ。丁度いいや、水筒が空になったから入れよう」


 そう言って、池に近づいていき鞄の中から銅製の水筒を取り出す。正確には銅とスズの合金で出来ている。銅は貴重なためこのような手法はよく用いられる。


「さて、池の水は飲めるものかな…?水の色はよし、ある程度透き通ってるな。うん、中を見た感じ魚とかの生物は無し…と。」


 池の様子について逐一確認をする。何故だか彼はこういうのには得意だ。それもそのはず、彼は昔探検が好きで、よく村から出ていったこともある。その中でも一番長くて3日は帰らなかったらしい。その時にこういった事に慣れたみたいだ。


「さて、味はどうかな…」


 少量の水を手で汲み口元へ持っていき飲んでみる。


「──うんうん、味も問題なしか。むしろ少しミネラルでも入ってるのかな?うん、美味しい。飲めるな」


 味も問題無いと分かり水筒にどんどん入れていく。満タンになるとキョウはすかさず飲み干す。そして、また水を入れていき満タンになったらもう一度飲み干す。この作業をかれこれ3回は繰り返した。


「流石に飲みすぎたわ。腹いっぱいだな。よし、これでおしまい…と。さて、どうするか」


 水を汲み次は何をしようかと辺りを見渡す。池の周りは木々が少し少なく、空がぽっかり空いている状態になっている。

 キョウは、辺りを見渡しながら足元に落ちていた平たい石を拾う。そのまま、池の周りを周回し元の位置に戻ってきたら──突然、石を池に投げたのだ。


 投げた石はそのまま池の上を跳ねて行く。徐々に勢いが無くなって来たところでそのまま地面に着地。なんと、水切りで池を横断したのである。その距離は15メートル程もあると言うのに。


「ふむ、結構飛んだな。水切りの腕は落ちてないと。さて、これでやる事は思いついたし行こうかな。」


 何の意味もなく、水切りの腕を確かめていたのでは無かったようだ。そうして、キョウはまた森の中へと進み始めた。


「よし、出発するか」


その時だった、森の奥の方から音が響いてくる。


「うわぁーーん!……うぇーーん!」


 人の泣き声が聞こえてきた。声は途切れ途切れだったがそれは女性の声だった。

それを聞きキョウは辺りを見渡す。


「えーと、たしか声は……」


「うわぁーーん!…」


「あっちか!待ってろ!」


 泣き声の場所を特定し、その元へすごい勢いで走り出していった。



「──くそっ、木が邪魔で思うように進めない…っ!」


 それでもキョウは持ち前の運動神経を発揮し、枝木を掻き分けていく。泣き声は依然にも森の奥から聞こえてくる。

 キョウは走りながらも声に耳を澄ます。刹那、足元が斜面になってる事に気づかずそのまま滑り落ちてしまった。その坂は少し長く転がって行った。スピードは、どんどん上がる一方だ。


「おっ……くっそ、止まら…なっ!」


 眼前、キョウの前に来たのは1本の木だった。当然避ける事は出来ず衝突。鈍い音が森に響き、やがて吸い込まれていった。


「い…ってえ…くそっ、こんな事してる場合じゃないのに!」


 キョウは痛いのをこらえ、また声のする方に向かって走り出す。


「はぁ…は、はぁ…お、おーい何処だぁー!」


 キョウは走りながら声の主に呼びかける。近くにいれば返事が来るかもしれないから。息が苦しい。肺が悲鳴を上げている。喉が酷く乾いている。それでも尚、声の主に向かって叫ぶ。無事であって欲しいから。


「はぁ…声がだいぶ大きくなってきた。そろそろ近くに──」


 眼下、探していた人物が居た。どうやら、声の主は少女だった。少し汚れている白いワンピースを来ていて、茶色い髪のおさげの子だ。少女は木に寄りかかって泣いている。見つけた事により少し気が楽になった。


「お嬢ちゃん、もう大丈夫だよ。ほら、泣かないで。」


 少女は、キョウを見て少し泣き止んだ。そしてその震える声で問いてきた。


「ぅぐ…お、お兄さんは…ぅぐ…誰…?」


「俺は、キョウって言うんだ。もう大丈夫、お嬢ちゃんを助けに来たんだよ。お嬢ちゃんの名前はなんて言うんだい?」


 笑みを浮かべて優しくそう問う。少女はまだ警戒をしていたが答えてくれた。


「ぅぐ…マリア……」


「そうか、マリアって言うんだね。ねぇ、どうしてココに居るか教えてくれるかな?」


 キョウは、少女──マリアが何故ココに居るかを問う。すると少女は何か迷っていた。すすり泣きをしながら考えている。恐らく何か答えたくない理由なんだろう。それを察しキョウは質問を変えた。


「じゃあさ、お家は何処かな?きっと、お母さんも心配してるよ?」


 とりあえず、親の元へ返そうという心意気だ。しかし、少女は首を振ってこう答えた。


「お母さん…今、家にいない。心配なんかしてない…」


 想定外の答えに唖然とする。だが、いくら何でもこのような幼い子を1人、家に残すはずが無い。そう、きっと誰か他に居るはずだ。


「え…と、じゃあ他に誰か居ないの?お父さんとか、兄妹とかさ」


 優しく問いかける。もし少女の気を害してしまえば口を聞いてもらえなくなってしまうかもしれないから。幼い子と言うのはそれ程扱うのが大変なのだ。

 それはキョウはよく分かっている。キョウには、妹がいるから。それが村から旅立つのを引き止めようとした存在でもあったが。


「……お兄ちゃんが……る」


「え?……も、もう一回お願いできるかな?ちょっと聞こえなかったんだ。ごめんね」


 急に話しかけられて聞き逃してしまった。それを悔やむがもう一度聞き出すのが先だ。軽い謝罪をして、もう一度聞く。


「…お兄ちゃんがいる……」


 やはりキョウの考察通り家には他に誰がいた。妹を預ける程だからそれなりにしっかりしたものだろう。

 少女の年齢、見た目から恐らくキョウよりは年下と言うのが妥当だろう。そうと分かればそこに返すまでだ。早速、帰るよう促す。


「じゃあ、きっと君のお兄ちゃん心配してるよ?さ、帰ろ。お兄ちゃんも一緒に付いてってあげるから。ね」


 少女に確認をとる。一緒に帰るのは魔物が出るかもしれないから、途中で襲われては意味が無い。ここに来るまで襲われてないのも奇跡だろう。何せ、この森にもスライムのような魔物はいる。スライムは弱いが少女にとってはそれでも危ない存在だ。しかし、少女は黙ったまま俯いている。

 どうしたのだろうか。何か問題でもあるのだろうか。キョウは、少女に問いかける。


「お嬢ちゃん、どうかしたの?何か帰りたくない理由でもあるのかい?良かったらお兄ちゃんが聞くよ?」


「……ん」


 少女はそう言い、指を指す。言われるまま指した方向を見ると壁──否、崖があったのだ。


「気が付かなった、こんな所に崖があるとは……ん、あれは」


 その指の先には一輪の花があったのだ。恐らくアレを取ろうとしたのだろう。


「あの花が欲しいの?だったらお兄ちゃんが取って来ようか?」


 しかし、少女は首を振る。どうやら違うようだ。なら何故だ。思考にふける。考えている内にある事に気づいた。少女のワンピースの裾が赤く染まっているのだ。


「え、ちょっとそれどうしたの?足、怪我してるんじゃないの?」


 どうやら図星だったようで少女は固まる。何とか隠そうと裾を押さえていたが、少し強引に服をめくる。すると、やはり足を擦ったらしく血がにじみ出ていた。


「ほら、やっぱ怪我してるじゃない。ほれ、お兄ちゃんが手当てするから手を退けな。」


 そう言って鞄の中から包帯と消毒液を出し、そのまま手当をする。


「……っ!い、痛い……」


「ご、ごめんな。消毒液染みるだろ。ごめんな、治癒魔法使えなくて。アレなら痛くは無いんだがな…」


 手馴れた手つきで包帯を巻いていく。無事、手当ては終わった。


「……あ、ありがとう」


 少女は照れくさそうにお礼を言った。キョウも釣られて照れくさそうにしながら笑った。


「いいんや、いいよ。怪我してるなら早くいいな。後になるほど痛くなるんだから。あ、ワンピどうしよう。真っ赤じゃん」


 今度は服の心配をする。そんな考えを他所に少女が話しかけてきた。


「あ、あの……お家……帰りたい」


 またも突然の発言にきょとんとしたが、今度はちゃんと聞いていた。


「あぁ、良いよ。じゃあ、家は何処にあるのかな?」


 今度はしっかりと答えてくれた。少女は少し俯いたまま言った。


「が、崖の上……落ちちゃって帰れなくなっちゃった……」


 まさかの崖の上という事に驚いた。こんな高い所から落ちたというのだから。キョウは、微笑(ほほえ)んで少女に言う。


「分かった。お兄ちゃんが上まで連れてってあげるよ。」


「あ、ありがとう……!」


 キョウが連れてってくれると聞き少女はとても嬉しそうに笑った。


「さぁて、どうやって登ろうかなぁー……」


 目の前の崖を見上げながらそう言った。

現実の銅は貴重なのかな?

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