第二話 『スライム』
「さーてと、冒険というか旅立つというか。そうは、言ったけどどうしろと…」
アレだけ威勢を張って出てきた割には、無計画ぶりもいい所だ。今から村に戻って何か情報を得るのもいい。だが
「流石に村から結構離れてるしなぁ…」
深くため息をついて、考える。「そうだ!」と、指を鳴らして鞄に手を突っ込んだ。
「えーと……あった!」
そうして、取り出したのは『地図』だ。ただの地図じゃない。少し特殊なのだ。
紙で出来ているのではない。形としては四角い小さい箱だ。黒いその箱の上面に術式が刻まれている。これを押すことによって地図を見ることができる。珍しい代物だが、今回村長が特別に授けてくれた物だ。
「たしか昔読んだ本が正しければ、こっから東の方に住処があるんだっけな……よし、こっちだ」
キョウは東を向き、また歩き出して行った。
それから、数十分経っただろうか。キョウは大分疲れてきてとぼとぼ歩いていた。
「いや、いくら何でも景色が変わらなさ過ぎだろ……疲れた。くそ、馬か地龍の一匹さえ居れば助かるのになぁ……」
キョウは疲れて、別の移動手段を考え始めた。
その中で馬や地龍は、この国では主な移動手段だ。運が良ければ野生のに会える。乗りこなせればの話だが。
また、移動手段はこれだけではない。魔力を元に動く車や機関車もあると言うが、それは都市部にしかなく、こんな所にあるはずが無かった。
「お、あそこちょっとした森になってるな。よし、そこで休憩しようか」
そう言うとキョウは、小走りで木陰の元に行き木の元に座る。暑かった日差しからやっと逃れられた。
「ふぅ、腹減ったな……飯にするか。えーと、どこにあったかな」
ランチタイムと言うことで気分を高まらせながら鞄の中を探す。キョウはその中から巾着と何かが入ってる小瓶を出した。
その中には、小麦と砂糖、水を練り合わせ乾燥させた『乾パン』が入っていた。
「うーん、いつ食べてもいいね。乾パンは。その上に、ブルンジの実をすり潰したジャムを乗っけて……完成!」
実に簡単な物だが、実はブルンジの実は栄養満点な上甘く口触りも良い為、多くの者がやっている。それは下民に留まらず貴族の者もそれをする程だ。
キョウはとっても嬉しそうな顔で、
「いっただっきま──」
食べようとしたその時だった、木の茂みが動いたのだ。
「ピギャ…プギャ…」
すると、森の奥から紫色をした液状の生命体が飛び出してきた。その物体は水たまりのように広がっていた。そしてそこ液体が徐々に形を作っていく。
──『スライム』だ。
スライムは、基本的に温厚な性格であるが食べ物などがあるとたちまちそれ目掛けて襲ってくる。基本的に相手にしないのが相場だ。
「ほほぅ、この森にはスライムが居るのか。……変わった色をしてるな」
スライムは基本的には緑色をしているが多種多様の色がある。赤、黄、青などなど。さらには金属や虹色をしたのもいるそうな。
「まぁ、いい。 だが、残念だったな。この乾パンはやらんぞ。他を当た──」
話をしていると、スライムがいきなりキョウめがけて飛んできた。しかし、キョウは余裕な顔を見せてヒラリと、かわす。
スライムはやはりスライムなだけあって、村の子供でも勝てる。キョウなら尚更だ。
「ふっふふーん。当たらんよ。……うむうむ、乾パン美味しい〜」
乾パンを食べて思わず顔が緩む。とても美味しそうに食べる。その後も何回もスライムが突進してくるが物ともせずに避けていき、その度に一つ乾パンを頬張る。すると──
「あーらら、無くなっちゃった〜。残念でしたー」
そう言って、キョウは空になった巾着をスライムに見せびらかす。流石にその行為にスライムを頭に来たようで、急に飛び跳ねた。
「──ピッッギャャァァアア!!」
謎の奇声を発し始めた。流石のキョウもこの行為に驚き、警戒をする。
「何なんだ、今のは……辺りが静かになったぞ……確実に何かが来る」
刹那、キョウの背後にスライムが飛びかかってきた。あまりの奇襲に避けきれず背中にかすり傷を受けた。
「ぬわぁ…!こいつら…!」
それをきっかけに次々とスライムが森の中から飛び出してくる。その数はざっと20匹、キョウもこの数に臨戦態勢に移る。腰の剣に手を掛けスライムを睨む。
「こいよ……スライム如きでこの俺に傷をつけた事は褒めてやる」
まるでどっちが敵なのか分からない程の鋭い眼差しで睨んだ。
その時、最初の奇声を上げたスライムがまたも跳ねた。
「こ、今度は何する気だ。うん?」
それに続いて他のスライムが跳ねたスライムにぶつかりに行く。次から次へとぶつかっていき、気づくとそこにはキョウの一回り、いや二回りは大きいスライムになっていた。
「おいおい、合体するなんて聞いてねぇよ……」
スライムは基本一匹か二匹で行動する為こんなに集まる事はまず無い。有るとすれば大量のスライムがいる所。つまりここは──スライムの群生地だ。
キョウもこの姿を見て腰の聖剣を抜こうとする──が、抜こうとした手を離す。そして、背中部。マントで隠れている部分に掛けてある幅たり僅か20センチ程の短剣を手に取る。
「スライム如きにこの聖剣を使う事はねぇ。お前らは、この短剣の餌食になりな!」
そう言うと同時に巨大スライムがキョウの正面。目の前まで突進して来た。キョウは、それを見てニヤリと笑う。
──すると、瞬く間にスライムはキョウを軸に真っ二つに分かれる。一刀両断したのだ。
「うーん、大した事無いなぁ。やっぱ、スライムはでかくてもスライムだわ。うん」
そう言って、スライムから立ち去ろうと背を向けた途端、スライムの一部がキョウに当たる。
「ぬわっ!コイツ、何しやが──切った筈のスライムが再生してやがるだと!?」
スライムは元々液体の生命体なので、切断はあまり効かない。だが、それでもスライムなので基本的に体力的に倒れる。しかし、この巨大スライムは違う。沢山のスライムが合わさって出来たものなので切っても切っても他のスライムによって再生してしまう。
「コイツは困ったなぁ……俺、魔法全然使えないんだよなぁ」
キョウは基本剣を中心に修行したため魔法はあまり使えない。だが、初級魔法くらいなら練習はしている。しかし、それが相手に使えるかは別だ。
「魔法…初級効くかなぁ……物は試しだ」
キョウは巨大スライムの方を向き、左手を目の前にかざす。すると、手元がほんのり赤く光りだした。光を握るようにして、ゆっくりと手を親指と人差し指だけを立てる様な形にする。そして、力を込めて叫ぶ
「ガンズ・フォーティア!!」
呪文、及び魔法名を口にした途端、キョウの指先から約10センチ程の赤い光の玉、火の玉が巨大スライムめがけて飛んでいく。火の玉がスライムに当たると、当たった所の周辺が大きく燃え上がる。
「おぉ!火は成功か、液体が蒸発して小さくなっていく!」
キョウは、魔法が成功した事とスライムに効果があった事に盛大に喜ぶ。なにせ、キョウは魔法を練習はして来たが実際に使ったのは今回が初めてだったからだ。思った以上の感触に心の底から震え上がっている。が、そんな事をしている間にスライムの様子がおかしい。
「ん、何やってんだ……なっ、火を消しただと」
スライムは、燃えている部分を他の部分で覆って火を消していたのだ。徐々に徐々に火は小さくなり消えてしまった。
「あいつ……ただのスライムじゃねぇ。自我を持ってやがる」
スライムは基本知能を持たないため例え大きくなっても火を消す事は出来ないはずだからだ。
先程よりかは少し小さくなったが、スライムはまだキョウよりかは大きい。
これにはキョウも苦しい表情だ。どうするべきか考える。しかし、スライムはこれを許さない。次々と突進をしてくる。キョウは軽々と避けるがいつまで続くかは時間の問題だ。
「スライムにやられる事は無い。しかし、倒す方法も無い。さっきはスライムを完全に燃やせなかったのが問題か……だが、初級ではあの程度しかでないしな。どうにかして消せればいいんだが。」
キョウは、攻撃を避けながら考える。すると、背中に何かぶつかる。
「おわ、いつの間にか追い詰められていたようだ。こりゃ、マズったな…何か何か……」
スライムが追い詰めきったのを分かり動きを止める。そして、体の一部を拳のような形にし、そこにスライムを集中させ始めた。その大きさは、みるみる大きくなる。
「小さい…消せない……火……そうか!」
何か分かったようにし、短剣を両手で掴んでスライムを正面にし、向ける。
「さぁ、かかって来い。これでお前は終わりだ。」
スライムは、キョウを見て勢い良く殴りにかかる。当たればスライムと言え木が折れる程の力だ。スライムがキョウに当たる──刹那、短剣が赤く光る。
そのまま光る剣が弧を描く様に縦に降りる。
「フォーティア・スラッシュ!」
ただの斬撃では無い。炎を纏った剣での斬撃だ。キョウが剣を振りかざす時の衝撃波、風圧によってより強くなった炎を纏った物だ。その炎はスライムを軽々と超えるほどの大きいものとなった。
スライムは、必死に消そうとするも別の所から炎がやってくる。やがて力を失い消すのを止め、完全に炎に包まれながら跡形も無く消えた。
──大勝利だ。
「いよっしゃあ!初級しか使えないなら、消せない程大きな炎を生み出せるよう風で大きくする。うむ、我ながらいい案だと思うぜ」
自画自賛だ。だが、事実でもある。
キョウは、地面に座りそのまま横たわる。
「にしても、最初のスライムにしちゃあ強かったな……ゲームならスライムはチュートリアルな筈なんだけどなぁ」
笑いながら、空を見上げてつぶやく。スライムとの戦いが終わったのだ。
「あぁ、いい天気だ」
らしくも無い台詞を言い、しばらく目をつむってただただ寝転がる。今日は、雲が何一つとしてない。太陽の日が照り付ている。
「やっぱ眩しいわ。……よし、倒した事だし出発するか。この森さえ抜ければたしか集落がある筈だしそこまでだな」
そうして、キョウは寝転んだ状態から一気に立ち上がりそのまま歩きだした。
──森の中から誰かに見られているのに気づかずに
今回は前回に比べたら少し長くなった気がする。
修正が多いのは申し訳ない。