第一話 『出発の日』
「今日は、空は雲ひとつない見渡す限りの青空!温度、湿度ともに適温!これ程ない絶好の冒険日和はあったことか?なぁ、みんなよ!」
そういい、周りの者に同意を求める。彼の周りには村人が何人か集まっていた。
「いや、そんな事言われても知らんよ」
「そうよ、冒険に行くのは貴方なんだし」
「ハハハ、釣れないなぁ〜。これだから、頭が硬いんだよ〜物理的にもね。ハハハ!」
「え…と、うん、そうだ…ね」
どうやら、見事に滑ったようだ。だが、彼はそんな事は気に止めず話を続ける。
「あらら、難しかったかな。今のは鉛筆と君たちの頭をかけたんだよ〜」
「ハイハイ、そんな寒いの言ってないでさっさ
と出発しなさい、キョウよ。自分で解説するなんて見苦しいぞ? それに、今は鉛筆では無いだろう」
村人の間から現れ、話を切ったのは村長だった。よく分からないギャグに唯一ツッコミを入れる者だ。
この先程寒いギャグを発言をした青年の名は 『キョウ・カブリエル』皆はキョウと呼んでいる。ここ、カランダシ村に生まれたごく普通の青年だ。ある事を除いてだが。この村は十年前に起きた“厄災”によって村の者全員にある呪いがかけられているのだ。
それは──『鉛筆』の姿になるものだ。否、正確には鉛筆の「様な」形になる物だ。何処か馬鹿げていて頭を疑われるようなものだが、これは事実なのだ。
その姿は鉛筆のように長く、丸い物となっている。また、足元先端は尖っている物だ。だが、その胴体のような部分にはしっかりと目が付いており口もあり、手もある。これは大変醜く、不便な物だろう。
しかし、五年前頃からだろうか『死神』が手加減をしたのか、あまりに適当な呪いだったのか、呪いの力が薄れてきたのだ。そのおかげで日が出ている間のみ、人間の姿に戻れるのだ。そうすれば、普通のどこにでもいるような姿になる。
そんな人の姿のキョウは、お世辞にもイケメンとまではいかないが、顔は整っている。黒く輝く黒髪に、時に鋭く時に優しくなる三白眼。顔は童顔が少し残っているように見えるが凛々しい。この村の中であれば一、二を争う顔だろう。
「なぁ、キョウ。旅立つと言うのにそんな軽装でいいのか?もっとマシな──」
「村長、大丈夫だ。これでいい。それに、この剣もあるし。」
村長が何かを言おうとするのを遮りそう言い切る。彼が言うように彼の格好は相応しくない物とも言える。
服は長袖の白地シャツ。その上に真紅色のチョッキを着ている。そして、その上に脚半ば辺りまでの長さの茶色よりは少し薄い色のマントを羽織る形となっている。ズボンもただの長ズボンのみで、靴もただの革靴だ。あとは、腰にお金と数日分の食料を入れた鞄。そして
「ほんと、その格好だと腰の剣が浮くな。それじゃあ、先代も報われないなぁ」
少し笑いを含めた言い方をした。
「酷い言われようだな……ほっとけ。」
キョウが相応しくない格好と言われるのはこの腰に付けた剣が原因だ。
この剣というのは、この村の先代村長のみが使えた聖剣だ。その名を『聖剣・アムカトルム』と、言う。
火の神が創りし剣と言われ、その剣を振ればたちまち辺りは火の海にできると言われてた。金色の柄に真紅色をした宝石が埋め込められている。剣の部分は鏡のように光り、切れ味も申し分ない。その力は先代村長しか使いこなす事ができなかった。
しかし、先代村長がその剣の奥底から来る力に耐えきれなくなり封印をしたのだ。だが、村長は封印に力を使い果たしてしまいその命を無くしてしまった。
村長は亡くなる前に一つだけ言葉を残した。
「この村に厄災あれば、それを救えるのは剣の封印を解し者のみなり。」
そう言い村長の息は絶えた。
そして、今から10年前その『厄災』が起きたのだ。村の者は言い伝え通りに剣を抜こうとした。しかし、誰一人として抜ける者は居なかったのだ。よってあの時事が起きてしまった。
──だが
「──まさか、キョウが封印を解くとは意外だったな。もっと早く解いとくれよなー」
この村では『厄災』が起きてから恒例として18歳になった時に解けるかどうかを確かめるようになった。その時解いたのが
──彼、キョウだった。
村の約束として、解いた者は『厄災』の元を絶たねばならない。最初はキョウは拒んでいたが、直に決心が着き旅立つ事を決意した。
「はぁ…まぁ、いいや。ほれ、さっさと行きな。村のみんなの気が変わらん内に」
諦めがついたのか、今度は「早く行け」と言わんばかりに手を振り始めた。
「そう言われると、行くのを拒みたくなるな……それでは、みんなまたな!」
みんなの方を向き、勢い良く敬礼をしながら、嬉しそうな顔をし、村を走って出ていった。
「───はぁ、別れの挨拶も言わせねぇで行きやがって……達者でな」
村の者は涙ぐみながら、精一杯手を振った。泣いてるのを隠すように精一杯手を振る。しかし、皆は何処か物悲しそうな雰囲気を漂わせている。
それを見て、村長は皆の前に堂々とした面構えで仁王立ちする。
「よーし!みんな、キョウが帰ってくるまでのんびりしてる暇は無いぞ!さぁ、仕事仕事!!」
今日一番の大声で皆を元気付けようとする。満面の笑みでただただニッコリと。
「もう…村長ったら。おっさんの笑顔なんて目に毒ですよ…フフッ」
「そうかそうか、おっさん……ちょ、俺まだ20代ちょっとだぞ!?」
「村長ったら、ジョークですよ。さ、仕事に戻りましょ」
そうして、村の者はたった一人の青年を送り出し村へと帰っていった。
皆、笑顔で。
この話は昔は無かった事ばかりなので苦労しました。難しい。