4話
暑いなー...。
私は今、約束していた通り汐達と海に来ている。いくら暑いのが苦手な私でも約束を反故にするような人間ではないのだ。
先頭を歩いていた遥がこちらに振り返り私に声をかけてきた。
「ほら、今にも死にそうな顔してないで着替えて海に入るよー!」
「はーい...」
だらしない返事をしていると汐の友達である西條結衣さんが話かけてきた。
「暑いの苦手なんだって?無理して来てもらっちゃってごめんね〜」
「ううん、大丈夫だよ。家にいてもやること無いしね」
西條さんとは駅で待ち合わせして一緒に海までやってきた。汐の友達らしく元気があって話をしているとこちらまで元気にさせてくれるような子だ。もう1人、汐の友達である北見夏希さんという人と待ち合わせしていたのだが、都合により後から来ることになった。
更衣室で水着に着替えて外に出ると遥の姿が見えた。
「遅いよー!早く海に入ろ!」
そう言ってきたが、驚いていた私にはその言葉は届かなかった。
私の水着の色違いを買ったんだ...
嬉しさと恥ずかしさが入り混じった感情を覚えつつも、汐に質問してみた。
「水着、私のやつの色違いにしたんだね」
「そうだよ!遥が試着して気に入った水着なら私もそれでいいかなーって。私は水色で遥はピンク!似合ってるでしょ?」
確かに似合っている。それにビキニということもあって引き締まったウエストと大きな胸が女らしさを強調しているな、とも感じた。
前の試着の時も思ったけど私は意外と変態なのかな...
そんな風にも思ったが私には無い大きな胸というものは少しばかり羨ましさもあった。
「似合ってる似合ってる。可愛いよー」
「遥のお墨付き頂きましたー!これで堂々と海に繰り出せるね!」
そう言うと汐は海に向かって走っていった。
「元気なのはいいけど熱中症には気をつけてよ〜」
「ちゃんと水分補給するし大丈夫大丈夫!」
汐が走っているのを見ていると着替え終わった西條さんがこっちに来た。
「遥ちゃんいつも汐の相手大変そうだね〜」
「全く困ったもんだよ。まあ小さい頃から一緒にいるから慣れてるけどね」
「確か幼稚園の頃から一緒だったんだよね?汐から聞いたよ」
「そうだよー。家も近いし中学までは同じだと思ったけどまさか高校も一緒とはね」
「あはは。汐、あまり勉強得意じゃないもんね」
「汐は受験期になってから私と同じ高校に言い出したの。でも成績的に難しいから違う高校の方がいいんじゃないかって言っても私と同じ高校に行きたいって聞かないもんだから...。私は割と余裕があったから付きっきりで勉強教えたの」
「遥ちゃん偉いね〜。それに2人は仲良しなんだね」
「まあ私があまり友達もいなくて汐とずっと一緒にいただけなんだけどね」
「でも汐にとって遥ちゃんは1番大切な親友だと思うよ?」
そう言って西條さんは海の方に向かって歩き出した。
「ほら、汐が待ってるから行こ?」
「う、うん。」
そう返事をして私も歩き出した。
親友かー...。
あまり深く考えたことはなかったがずっと一緒にいたら周りから見てそうだと思われるだろう。それに、私も長年一緒にいるだけに汐のことは親友だと思っている。
ただ、汐が私のことをどう思っているのか聞いてみたいと思わなくもない。汐本人から私は唯一無二の親友なのか、それともただの友達の1人なのかということを...。
汐のところに行くと楽しそうに泳いでいた。本当に元気が有り余っているなぁと思う。
「遥も泳ごうよ〜」
「私が泳げないの知ってるでしょ?」
「まあね。でも練習すれば泳げるようになるかもよ?」
「練習するなら小学校の頃に練習しておけば良かったかも...」
「あの頃の遥は泳げなくても生きていけるって言って頑なに泳ぐ練習しようとしなかったじゃん」
「あの頃は若かったのよ」
「今でも充分若いくせに」
そう言って汐は笑った。そして私に手を差し出してきた。
「ほら、手を持ってあげるからバタ足から練習しよ?それなら溺れないからさ」
汐はずるいと思う。普段勉強では頼ってくるクセにこういう時は頼もしく思えるから。
「じゃあ少しだけ練習する」
「よし!早速始めよう!」
こうして私の水泳練習は始まった。
1時間ほど練習したが、あまり上手くなることはなかった。それに、泳ぐ練習をするならプールの方が良いはずだ。しかし、泳げなくてもいいと思った。こうやって汐と触れ合ってるだけで満足したからだ。
私達が練習している間、西條さんはというと遠くの方まで泳いでいたようで今は浜辺にいる。運動が得意なようだ。
そろそろ昼ご飯でも食べようかなと思っていると遠くから声が聞こえた。
「汐ー!結衣ー!」
声をかけていたのは北見さんだった。
「遅れてごめんねー。遥ちゃんも今日は来てくれてありがと!」
汐の友達は元気な人ばかりだなぁ、などと呑気に考えていると
「じゃあ夏希も到着したことだし、お昼ご飯にしよっか!」
そう言って汐は浜辺にある海の家に向かっていった。
お昼ご飯は私と北見さんがカレー、汐と西條さんは焼きそばを注文した。
「やっぱ海の家といったら焼きそばっしょ〜」
そう言いながら汐は焼きそばを頬張っている。
「いやいや、カレーも美味しいよ〜」
対立意見を出したのは北見さんだ。
話によると、汐と北見さんは何かと張り合うことが多いらしい。それでも仲良くしているのだからきっと心の中では認め合っている良き友達同士であるのなだろう。
お昼ご飯を食べ終え、午後もたっぷり遊んだ後、私達は電車で帰路に着いていた。私以外の3人は遊びすぎて疲れたようで眠っている。
海、結構楽しかったなー。
私はそう思っていた。最初はどうなることかと思っていたが、西條さんも北見さんもとても良い人でまた遊びたいなと思った。
今度は私が遊びに誘ってみよう。
そう決意したところで眠気が襲ってきた。うとうとしていると眠りから覚めた汐が話しかけてきた。
「私は結構寝たから遥寝てていいよ。降りる駅に近づいたら起こすからさ」
そう言われた私は眠さで思考回路が回ってないのか、いつもなら恥ずかしさがあるのに今日は思わず汐の肩に頭をもたれて眠った。
駅に近づくと汐が起こしてきた。
「そろそろ着くよー」
「うーん、わかったぁ」
そう言って私は目を擦りながら外を眺めると見慣れた風景が見えた。
「じゃあまたみんなで遊ぼうね!」
「そうしよそうしよ!」
「遥ちゃんも今日来てくれてありがとねー。楽しかったよ!」
「こちらこそ楽しかったしまた遊びたいな」
「また予定立ててどこか行こうか」
駅で解散という話になっていたので、また今後のことはメールなどで決めることになった。
「じゃあまたねー」
「ばいばーい」
北見さんと西條さんは私達と反対方向らしく私達とは逆方向の出口から帰っていった。
「私達も帰ろうか」
「そうしよう。今日は疲れたしいっぱい寝れそう」
「遥はいつもいっぱい寝てるじゃん」
そう言って汐は笑っていた。
「あ、そうそう。私にもたれかかってる時によだれ垂らしてたよー」
「えっ嘘!ごめん...」
「可愛い寝顔を存分に拝ませてもらったから許してあげよう」
この言葉であの時は感じなかった恥ずかしさがこみ上げてきた。まぁ、汐に少し迷惑をかけたため怒る気にはならなかったが。