3話
夏休みに入り、私は毎日クーラーの効いた涼しい部屋で宿題をしていた。やるべきことは早く終わらせてしまいたい性分のため、宿題は夏休みに入って5日ほどで終わらせてしまった。残りの夏休みはどう過ごそうかと考えていると、スマホが鳴った。
「おーい、遥ー!元気ー?」
夏バテというものを知らなさそうな汐からの電話である。
電話を終えて、話をまとめてみると8月5日に海に行くことに決まったらしい。それと汐の友達が2人来るということも。
「なんか面倒になってきたなー」
私以外誰もいない部屋で一人呟いた。
元々複数人で遊ぶということを好まない私にとって今回の遊ぶ予定は正直避けられるものなら避けたい。ただ、誘ってきた相手が汐ということもあり、汐がいるならまあ行ってもいいかな程度のものである。
汐の友達なら良い人なんだろうけど仲良くできるかなー...
ぼっちである所以はこの内向的な性格と人見知りということから来ている。また、1人でいることが苦でないため、直す気もほとんどないのだ。
早々と宿題を終わらせたため、既にやることが無くなってしまった私は、起きてはテレビを観てご飯を食べて、少し勉強の復習をして寝るという外に出ることが皆無の生活を送っていた。まあ夏休みが始まる前から予想できていたことだか...。
だらだらと生活をしていたが海に行く3日前の昼に、スマホの着信音で起こされた。
「もしもし遥ー?」
「なぁにー?まだ眠いんだけど...」
「もう11時だよ!また相変わらずだらだらとした生活を送ってるようだねー」
「うるさいなー。用が無いなら切るよぉ」
「待って待って、用ならあるからさ!
もうすぐ海行くじゃん?だから必要なものを揃えるために一緒に買い物に行こうかと思って」
「後でお金渡すから買ってきといて」
「だーめだよそんなダラけてちゃ!たまには外に出ないと体に悪いしいざ海に行って具合悪くなっても周りに迷惑かけるだけだよ?」
流石にこの言葉には反論できず嫌々ながら外に出かける準備をし始めた。
久しぶりに家の外に出ると汐が待っていた。
「久しぶりーっなのかな?相変わらず家に篭ってるっぽいけど」
「涼しい部屋でだらだらしてるのが私の日課なの」
「まあ夏になるといつもそうなるよねー」
汐が呆れた顔をして笑っていた。これも毎年のことである。
「買い物に行くといっても日焼け止め買うくらいでしょ?さっさと終わらせよう」
「そう焦らないでよ遥。せっかく外に出たんだし少し遊んでから帰ろうよ」
「えー、暑いじゃん」
「大丈夫大丈夫、ちゃんとクーラーの効いた涼しい場所にするからさ」
2人は以前水着を買いに訪れたショッピングモールに来ていた。
「ここに来るなら水着を買いに来た時に一緒に買っておけばよかったね」
「まあまあそう言わないで、どうせ暇でしょ?」
「確かにそうだけどね〜」
2人してどの日焼け止めにしようか悩んでいたが、SPFがいくつだの書かれていてもよくわからなかったので結局安いやつを買って使うことにした。
汐が会計を済ませている時に遥はふと思い出した。
結局汐はどんな水着を買ったのだろうか...
本人に聞けばいいだけの話だが、どうせすぐに海に行くわけだし当日見ればいいかと思い聞くのをやめた。
「お待たせ〜。じゃあ遊びに行こっか」
「いいけどどこ行くの?」
「ふっふっふ〜、知りたい?」
「いや、別に?」
「そこは聞いてくれないと話が進まないでしょ!」
「行く場所なかったら家に帰るだけだし」
「冷たいな〜、遥は。せっかく遥でも行ける涼しくて楽しい場所決めたのに〜」
「で、結局どこ?」
「それはカラオケである!」
「なんか普通だね」
「普通だよ⁉︎変なとこに行くような人だと思ってた⁉︎」
「汐ならやりかねないなーって思って」
「失礼だな〜。時間も勿体無いし行こう行こう!」
ショッピングモールのすぐ近くにカラオケボックスはあるのであまり炎天下の中歩かずに済むのは私にとって幸いだった。
「いやー、カラオケに来るの久しぶりだねー」
「普段あまり来ないもんね」
「遥は結構歌上手だと思うんだけど1人で来たりしてないの?」
「たまーに2時間くらい来ることあるけど1人で歌ってるとすぐ疲れちゃうんだよね」
「わかるわかる。2人か3人で来ると適度に休めていいんだよねー」
汐は話している間にデンモグを操作していたのか、有名なアイドルの曲を入れた。
「なぜかみーえたーあしたのときめきどうしようかーなー♪」
この曲は最近アニメの影響で有名になったグループの曲だなー...。
意外と思われるかもしれないが私はアニメを観ることも趣味である。クーラーの効いた部屋でただボーッと眺めているだけで時間が潰せるからだ。
最近何か面白いやつあったっけ...?などと考えていると汐が歌い終わったらしく
「次遥の番だよ!」
そう言って私に歌うように促してきた。
カラオケは3時間ほど続き、日は傾きかけていた。
「遥ー、この後どうしようか?」
「特にやることもないよね」
遥は腕を組んで地面を見つめて少しの間考えていたが、行き先が決まったらしく勢いよく顔を上げた。
「そうだ!遥の家に行こう!」
「えーっ、私の家?別に構わないけどやることないよ?」
「いいからいいから!それじゃ出発!」
汐は私の手を掴んで歩き出した。
「ちょっと!小さい子じゃないんだから手なんか繋がなくていいって!」
「なんでよー?小学生の頃はよく繋いでたじゃん?」
「だから、今は高校生でしょ!恥ずかしいの!」
「はいはい、わかりましたよ〜。遥ちゃんはわがままですね〜」
汐は恥ずかしがっている私をニヤニヤした顔で見ており、仕方ないといった風に手を離した。
私はホッとするのと同時に少し残念に思っている自分がいることに気がついた。
手を繋ぐことは確かに恥ずかしい。でも、繋ぐことは嫌ではなくむしろ...
ということを考えていると汐は少し先の方に歩いており、私の方に振り返り
「早く来ないと置いてっちゃうよ〜」
と声をかけてきた。
汐の姿が空の夕焼けと相まってすごく可愛く見えてドキッとしたが、やはり恥ずかしさが勝ってしまうのが私らしく、素直な感想は言えなかった。
「ちょっと歩くの早いよぉ。暑いんだからもう少しゆっくり歩いて〜」
我ながら情けない返事である。
この後、私は汐に小さい頃の事をいじられながら一緒に私の家に向かった。