2話
暑い。暑すぎる。
定期テストも終わり、いよいよ夏休みを目前にしている私の感想である。
テストの方は特に悩むこともなく無事終わった私にとって夏の暑さというものはテスト以上に悩ましいものである。
今日は終業式であり、午前中で帰れることにありがたみを感じながら通学路を歩いていると後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。まあ、私に声をかける人なんて想像に難くないが...
「おーい、遥ー!」
私の唯一の友達、汐である。
「朝から元気ないねー遥は」
「汐が元気過ぎるんだよぉ...。暑くないの?」
「この暑さが夏!って感じがしていいんじゃん!この良さが分からないの?」
暑さで頭がやられてるのかと思ったが汐の馬鹿さ加減は平常運転だと考え直しため息をついた。
「そんな風に考えられる汐が羨ましいよ」
「なんか馬鹿にされてるような気が...?まあいいや!とりあえず、今日終業式で午前中で終わるし、午後どこかに遊びに行こ!」
「外暑いからどこか店に行きたいなー」
「はいはい、わかりましたよー。じゃあ学校終わったらファミレス行って腹ごしらえしながら夏休みの予定でも考えよう!」
「りょうかーい。」
軽く返事をしたところで教室の前に辿り着いた。
「じゃあまた後でね〜。」
「どこ行くか考えといてよ遥!」
「はいはい...」
そう返事を返して教室へと入っていった。
「えー、では夏休みも怠惰な生活を送らないように自分を律して...」
先生の長い話を1ヶ月くらい聞かないでいいのかーなどと悠長に考えていたが、1ヶ月なんて冷房の効いた部屋に閉じこもっていたらあっという間だなーと思った。あまりの自堕落さについ苦笑してしまいそうな自分がいた。
何事もなく、無事夏休みを迎えることになった私は放課後約束していた汐とファミレスに来ていた。
「何食べようかなぁ〜。夏バテ気味だし冷たくてさっぱりしたものが食べたい...」
「そんなんだから夏バテになるんだよ!やっぱ夏こそ肉!肉!」
「汐は肉食系女子かー」
「それだと意味が違っちゃうからね⁉︎」
こんなやり取りをするのも夏恒例のことである。夏なんて早く終わって秋になってしまえばいいのに。
「そういえばさー、夏といえばやっぱり海じゃん?一緒に海行かない?」
冷製パスタを食べていると、唐突に汐が言ってきた。
「海?あの炎天下に晒されている砂浜に行くの?行くわけないじゃん。」
「まあまあそう言わずにさー、ウチのクラスにいる数人の人と行こうかって話になってるの。でもそのうちの1人がさー、遥と遊んでみたいらしくて誘ってって言われてるんだー」
「お断りします」
「遥がぼっちだってことは知ってるけど、みんな遥が嫌いだってわけじゃないんだよ?たまには一緒に遊んでみない?」
そう言われた私はまた暑いから嫌だとか理由をつけて行くことを断ろうと思ったが、結局いつも言いくるめられて遊びに付き合うことになることになるためしぶしぶ承諾した。
「仕方ないなー、じゃあ日程決まったら連絡してね」
「おっ!遥がデレた!」
「デレてない!海行かないよ?」
「ごめんなさい遥様ー」
こんなやり取りをして私達はファミレスを後にした。
ファミレスの後は特に用事はなかったが、汐がショッピングモールに行きたいと言い出したため一緒に行くことになった。
「汐何か買うものでもあるの?」
「あるよ〜。もちろん遥もね!」
「私?私は何もないよ?」
「あるに決まってるじゃん!夏といえば海、海といえば〜?」
あっそうか...海といえば...
「水着だよ!」
スクール水着以外の水着を買うのなんていつ振りだろうか。夏は基本的に室内で過ごすインドアな私にとってその答えを出すのは些か難しいものであったが多分小学生高学年の頃だろうと根拠のない答えを出した。
水着売り場に行くとそこには私達と同じ年頃の女子で賑わっていた。私達と同じで学校が終わって夏休みの計画でも立ててから買いに来たのだろう。
「遥はどんな水着がいいの?」
「うーん...なんかあまり思いつかないんだよね〜」
「希望はないのかー。じゃあこの水着でいいんじゃない?似合うと思うよ!」
「布の面積少ない上に色が少し派手な気が...?」
「これくらい普通だよー。遥は少し地味なんだから派手なもの着てるくらいでちょうどいいんだよ!」
「じゃあ汐はいつも目立つから地味なスクール水着でも着た方がちょうどいいんじゃない?」
「それ海だと逆に目立つよね⁉︎」
そんなやり取りをしつつも私は一応試着してみるかと思い試着室に向かった。
試着して鏡を見てみると案外イケるのではないかと思い始めた遥はこの水着にしようと決めて水着から制服に着替えてると...
「水着に着替えた〜?」
汐が声をかけて試着室のドアを開けた。
着替えてる途中であった遥は下着姿であった。
「⁉︎いきなり開けるなんて驚くでしょ!着替え終わるまで待ってて!」
「あれ?まだ水着に着替え終わってなかったの?遅くない?」
「もう水着着てこれでいいかなと思って制服に着替えようとしてたの!着替えるからドア閉めて!」
「お互いに見せ合ったりして相談しながら買おうと思ったのになー」
「いいから着替え終わるまで待ってて!」
そう私は言い、ドアを勢いよく閉めた。はぁっとため息をついてそそくさと着替え始めた。汐にも困ったものだと思いながらも汐の水着姿を見てみたいなと考えている自分がいた。そんなこと考えるなんて自分はエロオヤジか?などと思いそんなことはないと頭を左右にブンブン振った。だがその邪念が無くなることはなかった。
「汐ももう少し大人しさがあれば男にモテると思うんだけどなー」
「元気があることは良いことでしょ!」
「元気とは違う気がするんだけども...」
私達は水着を購入し帰路についていた。
「まあなにはともあれ無事水着も買ったしこれで海に行く準備は整ったね!」
「日焼け止めとか欲しいけど...日程が決まったら買いに行けばいいか」
「そうそう!やっぱり海といえば水着だよ!」
「そこまで推すほどなのかな...?」
既に外は日が沈みかけており時計は7時を指していた。
「じゃあ日にち決まったら教えてね。」
「はいはーい。じゃあそろそろ帰りますか〜」
「そうしよっか」
帰宅してリビングに行くと母がいた。
「おかえりー。買い物でもしてきたの?」
「ちょっとね。夏休みに海に行くことになったから」
「遥が?珍しいわね〜。好きな人とでも行くの?」
にやにやしながら聞いてきた母に若干イラっとしながらも遥は何事もなさそうに答えた。
「そんなわけないでしょ。私だってたまには外で遊んだりするよ。じゃあシャワー浴びてくるから」
そう言い残して私はリビングを後にした。
シャワーを浴びつつ今年の夏休みのことについて考えていた。
とりあえず海は行く...後は何か予定あったっけ?
そんなことを考えているとふと思いついた。
花火...花火が見たいな...。
私が住んでいる地域の川沿いで毎年盛大に打ち上げ花火が行われることを思い出した。
よし、汐を誘うか。
シャワーを浴びて思考回路も火照っているのか高揚した気分になっていた。
とりあえず明日から夏休みの課題を終わらせるか...。
そう決めて浴室を出た。