第二話 不仲な二人
「……ふぅ」
「これで!おしまいっ!!」
投擲杖を手にしたクリオスが息をつき、吠えるようなカルナロアの声とともに派手な破砕音が響き渡る。
それで、その場での戦闘はひとまず一段落だ…と、思ったのだが。
「……疾!」
「わひゃんっ!? ちょっとクロっ!何のつもりよっ! ……って、あー…」
短い呼気とともにクリオスが風の魔術で織り上げた礫を撃ち放ち、すんでのところで気づいたカルナロアが、礫を受けようと身を固めて…けれど礫は脇腹の横を飛び去り、背後で打撃音を響かせる。
振り向いて、そして、納得した。
そこに、戦う気満々の骸骨の群れがたむろしていること。
戦闘が、ちっとも終わりでなんかなかったことに。
「カナちゃん、君じゃないんですから。
何の意味もない同士討ちなんてしませんよ。君が同士であることに不満があるというなら、その点については全く賛同しますけれどね?」
「ほんっと口が減らないわねアンタっ! 無駄口叩いてないできちんと撃つモン撃ちなさいよっ!!」
カルナロアが文句を言いながらも得物を持ち上げ構える間にも、風の礫は次々と放たれ、近寄る者から順に、骸骨の関節を撃ち抜いてゆく。
「ごらんの通り、僕は仕事をこなしています。
ほら、君は君できちんと僕の壁におなりなさい。右手、近いですよ?」
「言われるまでもっ!」
だんっ!
カルナロアの足が地団駄を踏むように強く床に叩きつけられると、絡繰り仕込みの金属靴の踵、爪先、足底からスパイクが飛び出し、地を噛み締める。
「ないっ!」
短い怒声とともに、籠手に仕込まれた歯車と撥條とが巻きあがり、弾けて、その手に握られたカルナロアの身の丈を優に超える大きさの鶴嘴を、ぶぅんっ!と猛烈な勢いでもって横薙ぎに振り回した。
「……けどアンタの言い方が気に食わないってのよぅ!」
巨大なマトックの重量の暴力によって、あるいは機械仕掛けの暴力的な膂力によって、右手側から近寄り居並んでいた骸骨の群れがなすすべもなく十把一絡げに砕き散らされ、動かぬ屍へと還っていく。
クリオスに言い返すことを忘れないあたり子どもっぽさが拭えないものの、カルナロアとて未踏遺跡の調査依頼に応募できる程度には実力と実績を認められた冒険者なのだ。
生来の膂力、頑健さに加えて、カルナロア自らの手で魔力と技術と労力とを注ぎ込んで作り上げた絡繰り仕込みの籠手と金属靴の補助が上乗せされている恩恵もあり、彼女を突破できる魔物はそう多くない。
加えて、種族に由来する要因…彼女の右肩から垂らすように巻かれた、飾り編み布の加護による高い魔法抵抗力のおかげで、後衛を守る盾役としては屈指の実力者である。
対して、クリオスが駆使するのは何の仕掛けがあるわけでもなく、ただ先端が二股に分かれたばかりの白木の杖。 けれども、その杖は元々クリオスの生まれた地に生えていた大樹から採られたものであり、彼のこれまでの生の中で、その長い時間のほとんどを共にしたまさしく半身と言える武器である。
だからこそ他のいかなるものよりも手に馴染み、魔力を馴染ませることができた。
そこに通した魔力は風を織り上げ編み上げ一つの礫と成して敵を穿つ。一切の無駄を排したその射撃は、群がる骨どもの関節を的確に砕いてその行動を停止させる。
あらゆる無駄を排すればこそ極小に抑えられた魔力消費のおかげで、いかに敵が群がろうと、いかに連戦を重ねようと、弾切れはあり得ない。
そんな二人が骨を砕きに砕き、その残骸を山と積み上げて半刻ほども経った頃だろうか。
カルナロアの振るった鶴嘴に脊椎を半分にされ、手にした剣を振るいかかった腕がクリオスに撃ち抜かれて、最後に動いていた骸骨が、かろん、と崩れ落ちた。
「……今度こそ一段落でしょ?」
「ええ。ひとまずは、といったところですね。よくできましたカナちゃん。飴でも食べますか?」
「どーせ持ってきてもないくせに、ばかにすんなぁっ!」
長賢族特有の長い耳をひくひくと揺らして索敵を終えたクリオスの言葉にカルナロアが吠え返し、今度こそは戦闘が一段落を迎えたようだ。
「……それはさておき、ですね。 カナちゃん。君、帰り道に心当たりはありますか?」
「……あると思ってんの?」
「ですよねぇ」
不本意ながらも二人そろってため息をつき、来た道を眺めやる。
しかし、そこにはただ、石壁がそびえるばかりだ。
扉どころか仕掛けらしきものさえ何も見受けられない。
「あんのポンコツ斥候っ! 次会ったらぼっこぼこにして一番いいお酒おごらせるんだからっ!!」
「息巻くのは結構ですし、斥候は罠の発見と解除が生業とはいえ、未踏遺跡で罠に嵌るのは自己責任です。
それをそんな風に鼻息荒げるのは見苦しいですよ?」
「あんたも同じ罠に嵌っといて、言えたセリフ!?」
そう。
この、決して仲の良くない二人が、二人だけで戦闘に臨んでいたのには理由があった。
同行することになったパーティメンバーが二人の仲に呆れて途中で帰ったとか、あるいは逆に夫婦漫才かと勘違いして要らん気を回し、二人きりにしてくださったとか、そういう理由ではなしに。
パーティ全員で揃って踏んだ罠、テレポーターに瞬間移動させられ、到着した場所にいたのが不幸にもお互いであった、と、そんな理由だった。
「ええもちろん、言えたセリフですとも。
少なくとも僕は、『次会ったら』なんて仕様のない仮定の話ではなく、『どうしたら次があるか』を考えていますからね」
「……ふぅぅぅん? えっらそーに。クロの癖に、言ってくれるじゃない。
で、これからどうするって?」
涼しい顔で投擲杖の点検を終えたクリオスに、こちらは未だ点検整備の終わらない機巧籠手をガチャガチャ言わせながらカルナロアが問う。
「簡単な話です。 帰り道が分からないならば、進めばよろしい。
不死者の群れが向こうから湧いてきたのなら、そちらには〝何か”はあるはずです。その〝何か”が、或は出口であるがために、この場から僕らを逃がしたくない不死者たちが、その阻止のために動いた、というのも、決してあり得ない話ではありません」
「うっわぁ。あれだけ勿体つけて御託並べといて、結局は『前に進む』っていう、言うのそれだけ?
『簡単な話です』どやぁ…って、自分で言ってて恥ずかしくない?」
わざと憐れむような表情を作って問うカルナロアに、けれどクリオスは動じない。
「カナちゃんがどのような浅慮を働かせるか分かったものではありませんからね、いずれ情報の共有は必要でしょう?
『言うまでもない』『言わなくても分かる』という甘えはカナちゃんがお子様だからでしょうか、それともドワーフに特有の欠点ですかね?」
「だぁからアンタは……っ!」
言い返そうと身を乗り出すカルナロアの機先を制するように、肩をすくめて見せ。
「異論や批判は生産性のあるもののみ受け付けましょう。
それでほかに意見はありますか?」
「……っ 異論はないっていうか言うまでもないこと言ってどや顔すんなって言ってるの!」
カルナロアの噛みつくような言葉にも、涼しげな顔で応じるばかり。
「では、行きましょうか」
「だからアンタが仕切るなってのよぅ!」
互いに、あくまでペースを崩さぬまま。方針は、前進。
そういうことになった。




