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第一話 顔合わせ

「ふぅっふぅっふふ~ん♪」


 矮頑族ドワーフの女冒険者、カルナロア・ディガルディフ・オルガノは浮かれていた。

 実年齢はさておき、種族柄小さな体の外見年齢相応に子供らしくぴょんこぴょんこスキップを刻むたびに、花火の火花を吹き散らしたみたいな橙色のサイドテールが一緒に踊り、仕掛け付きの硬質な金属靴グリーブブーツが同じく硬質な冒険者ギルドの床と触れ合い、ガチャリコガチャリコ合いの手を打って上機嫌な鼻歌を盛り上げる。


「いやぁ、こぉんな好条件の依頼の抽選に当たるなんて、やっぱ日ごろの行いよね。

 神様はあたしを見てくれてるんだわ~♪」


 すれ違ったよその冒険者が怪訝な顔で見てくるのだって、しみったれた羨望みたいに見えて却って気分がいい。くるんと踊るみたいに身をひねって道を空けてあげながら、上機嫌の理由であるところの依頼書にうっとりと頬ずりをした。

 上等な羊皮紙でできたソレ。カルナロアの言葉通り、高倍率の受託申請の中から厳正なる抽選により勝ち取ったソレは、頬ずり程度では皺もカスレもできたりしない。偽造や破損を防止する状態維持魔法がかけられた高級品なのだ。

 これをギルドの依頼窓口に持っていって手続きを行ってしまえば、あとは同じく抽選によって依頼書を手に入れたほかのパーティメンバーと合流して依頼に出発するばかり。


 事前に気心の知れた者同士組んだパーティメンバーで一組として依頼の受託申請をする者たちもいるし、そうした手合いを対象とした依頼もあるけれど、今回は〝新発見の”…そう!新!発!見!の!全く枯れていない、誰の足跡も手垢もついていない、ふっかふかの新雪にも等しい、しかも実用性が高くて実入りがいいと評判の…伝承期(勇者と魔王の時代)の遺跡調査。依頼報酬だって高いし、発掘品だって品によっては正当な手続きののちに引き取ることができる。


 こういう場合は、カルナロアが応募したように、一定の実力と実績を持った単独活動中の冒険者を少数募集し、応募者の中から抽選によって即席のパーティを組ませる、といった方式が一般的だ。

 これは一匹狼の冒険者同士を組ませることで、互いを監視し合わせて発掘品の横領を防いだり、予期せぬ事態に陥った場合にパーティメンバーが欠けるような…有り体に言ってしまえば、死亡したり、身動きが取れなくなるような悪質なトラップに引っかかった場合にも、冷静に、着実に帰還し、情報を持ち帰る判断ができるように採られる手法だ。

 もちろん、集団行動がとれない問題児同士が組む可能性もないではないが、壊滅的な問題児はまず「実力と実績」が問われる書類審査で落ちているから大きな問題はそうそう起こらない。 


 カルナロアも、そう理解しているからこそ大した不安もなく、浮かれたスキップとともにギルドの窓口へ到着。依頼書の確認ともろもろの手続きを待つ間も、ゆっくりと神への感謝の祈りをささげることができていた。

 そう、もろもろの手続きが終わって、今回パーティを組むことになるメンバーと顔合わせをする、その瞬間までは。


「……かみはしんだ」

「ヒトの顔を見るなり、神様の死亡宣言とは。

 相も変わらず失礼極まりないお子様ですね、〝カナちゃん”は」


 がっくりとうなだれるカルナロアに淡々と言ってのけたのは、その目前に佇む長身痩躯の中性的な美貌の青年。

 カルナロアと即席のパーティを組むことになった、長賢族エルフの冒険者、風謡虚のクリオスだ。

 繁殖能力の低さゆえに家族名みょうじの概念を持たない彼ら種族にとって、生まれた地を示す二つ名…彼の場合は風謡虚と呼ばれる大樹の名…が、社会的には姓の代わりとなる。

 そして、その繁殖力の低さと並んで種族的な特性と言える寿命の長さゆえに、彼らが子育てに携わるのは永い永い生の中のごく短い期間だけであるし、大半の種族は彼の種族にとって子供のような年齢で寿命を迎える。

 だからこそ、他種族の成人をあえてわざわざ子ども扱いするのは、彼らなりの最上級の皮肉、あるいは侮蔑の表現だった。

 知らない者にとってみればなんとなく侮られていることが分かる、程度の話ではある。けれど、その意味を知る者にとっては、思いっきりバカにされていると同義である。


 そして、カルナロアは後者である。というか、目の前のクリオスから、同種の扱いを受けるのは今回が初めてではない。

 過去にも幾度かギルドの仕事をともにこなす機会があったし、そのたびに仕事に支障をきたさない範囲で大なり小なり衝突を繰り返す、いうなれば冷戦状態のようなものだ。互いに互いが不倶戴天とさえ言っていいような仲の悪さである。


 それでも、今回このようにパーティを組まされることになる辺り、ふたりともが仕事を私情で失敗させたことのない優秀さの表れである、と言い換えることもできたわけだが。


「…うぅるっさいわ〝クロ”っ!

 アンタみたいなひょろひょろ鍾乳石を今回の依頼に受からせるどころか、よりによってあたしと組ませるなんて!

 神様が急逝したか、いつの間にか悪魔にその座を奪われたかどっちかよ!」


 なお、エルフと並んで長命を誇るドワーフ族であるが、身内と協力しての資源の採掘、加工を生業とする彼らはエルフ族とは正反対に家族、家系としての繋がりを重視し、だからこそ長い家族名を誇りとする。

 その彼らにとって、「極端に短く縮めた=二音程度のニックネーム」は主としてペットなどにつける名前であり、広義のヒト種にそれを向ける場合、よほど親しい間柄でもない限りは〝家畜並み”を示す罵倒語である。

 ついでに〝鍾乳石”は、「細長く成長する大きさの割になまちろくて壊れやすくて使い道が少ない≒上背ばかりの役立たず」を指すドワーフ族特有の罵倒語で、主にエルフを罵倒する際の決まり文句である。

 要するに、カルナロアは思いっきりバカにし返した。


「君のごとき、身長から人としての器から精神年齢まで、何から何まで小っちゃい者の運命にいちいち拘泥するほど神様も暇ではないに決まっているでしょう。

 そんなことよりカナちゃん、うるさいのは君の怒鳴り声ですよ。

 仮にもここは公共の場。 もう少しお行儀よくなさい。

 ああ、あるいはカナちゃんに『お行儀』は少し難しすぎましたかね?

 なんとなれば教えて差し上げても構いませんけれど?」

「ぐぬぬぬぬぬ………」


 口の減らないヤツめ。

 と、悪態をつくのは簡単だけど、それだけでは全然言い返すには足りないし、それにどうしたって怒鳴りたくなるのに、冒険者ギルドの待合室という環境はクリオスの言う通り怒鳴るような言い合いをするには不向きだ。

 今の時点ですでに結構な量の、不名誉な種類の視線を集めてしまっている。

 だから。


「………ばーかっ!!」


 短い罵倒をたたきつけて、がっちゃがっちゃと金属的な足音も高らかに、立ち去ってあげた。

 どうせパーティを組まされることになったのは既定事項だ。

 今、決着をつける必要はない。

 だから、これはあくまでこの場で言い負かしてあげることを勘弁してあげた温情であり、断じて、決して、負け惜しみではない。

 そういう風に理屈を組み立てながら、極上の依頼のサイテーな顔合わせは、それでお開きとなった。



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