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幕間2:恋愛指導禁止項目?

 今回の相談は教師と生徒の恋愛。

 禁じられている恋の行方は解決した。

 真心は納得のいかない様子で部室の整理をしながら、


「でも、本当にこれでよかったのかしら?結果的に交際はできていないんでしょう」

「真心ちゃんは交際しなきゃ恋愛じゃないって思ってるのか?ダメだなぁ、恋っていうのは想いが通じ合う事なのさ。交際しているかどうかなんて認識の問題でしかない。心と心、お互いに想いあうことが一番大切なんだよ」


 京司はそういうが、真心としてはすべてがうまくいったとは思えずにいる。


「卒業までの2年間。学園側にバレなければうまくいくはずだよね」

「例え、バレても交際していないという事実は彼らを助けるだろう」


 本当は恋人と言ってもいいはずなのに、それを恋人と言わないだけの詭弁。

 お互いを好きで、でも、恋人じゃないと言い張るだけの関係。


「京司も随分とずるい解決方法を提案したわよね」

「でも、そんな秘策でうまくいくなんて。先輩、すごーい」


 逆に関心しているのは夜空だった。


「ちょっとしたアドバイスで、こうまでうまくいくなんて。京司先輩マジック?」

「人は常に後押しを望んでるんだ。自分の歩く道は自分で決めてる。だけど、正しいのかどうか不安になる。そんなときに他人の言葉は響くのさ」

「そうやって、これまで何人の女性をたぶらかせてきたのやら」

「俺は常に本気ですよ。たぶらかせてなんていない」

「はいはい。アンタの言葉は信じない。でも、何だかんだでこれが彼らにとっての一番の解決策なんでしょうね。幸せそうな榊原さんを見てそう思ったの」


 解決後、恋愛指導部を訪れた真夜の様子は晴れやかな笑顔だった。

 これからの未来へ期待している、そんな風に真心は見えた。


「先輩、尊敬しちゃう。キスしてあげてもいいよ?ちゅー」

「夜空ちゃん、どうせなら俺が大人のキスを教えてあげよう」

「こ、こら、いきなり後輩を押し倒すんじゃないっ!?夜空さんも素直に押し倒されない!?あのね、ここは恋愛指導部!アンタたちの愛の楽園じゃないのっ」


 相変わらず、キス魔と女好きの兄に困らせられる真心だった。





 まもなく始まる5月の大型連休、ゴールデンウイーク。

 その日の放課後は誰からの相談予定もなく暇だった。

 京司は何の予定もないことを確認すると、

 

「それじゃ俺は水泳部の練習光景を見に行くから」

「堂々とやらしい宣言するな」

「水泳部は素晴らしいです。競泳水着ってね、お尻のあたりの食い込みが半端ないのよ。それに皆、運動してるからお尻から太もものあたりも引き締まってるしねぇ」

「そんなの聞きたくないから、さっさと出ていけ!」


 セクハラ発言の京司を追い出して真心は大きなため息をついた。

 学園は室内温水プールがあり、年中水泳部が練習している。


「水着美女目当てとは、京司らしいわ」


 双子の兄が変態なのはもはや仕方ない事なので諦めている。

 見た目がいい事もあり、他人から変な目で見られる事もない。


「ホント、一度くらい痛い目を見ればいいのよ」


 無類の女好き、小中高、合わせた交際人数は二桁だと聞いている。

 遊び人ながらも、本人の性格が女性に甘く優しいため人気は落ちる事もない。

 今は特定の彼女はいないが、不特定多数の恋人未満はいるようだ。

 さらに京司ハーレムと揶揄される女子グループの取り巻きすらいる。


「彼女達は全員、女友達、物は言い様ってよく言うわ」


 今日は夜空も部屋には来ておらず、真心は一人で次の相談相手の資料をまとめていた。


「あら、今度の子は今年初めての新入生からの相談か。1年生にも私たち、恋愛指導部の名が知れ渡るといいわね。そういう意味でも失敗させたくない」


 実際にこの恋愛指導部は100%の確率でうまくいくわけではない。

 どんなに頑張ってダメな場合も少なくない。

 こうして恋愛相談をしている人間側だが、彼女自身は恋と言うものを知らない。

 気になる相手がいるのだが、その人が好きかどうかは分からない。

 だから、彼女はこの恋愛指導部を通して恋愛と言うものの本質を見極めたいのだ。


「……えっと、1年のファイルはもうできているのかしら?」


 棚に置かれているファイルを調べ始める。

 京司ならば「学生ネットワーク」と呼ばれる全学年の生徒の個人情報が掲載されている謎のネットワークにパソコンからアクセスできる。

 極秘のデータを調べることができる彼と違い、真心にはまだそのアクセス権限がなく、紙媒体で保管しているこの恋愛指導部内のファイルしか閲覧できない。

 個人情報にはそれぞれの交際経歴等も載っているらしいので、かなり危険なデータだ。


「関係ない事に関わりたくないし、深くは追求していないけど、京司のデータぐらいは一度くらい見ておきたいわ」


 一体、本当はどれくらいの人数と交際しているか、気になることもある。

 すでに1年生のファイルはクラス別に並べられていた。

 今回の子の番号を調べて、そのファイルを取り出す。

 掲載されている写真を眺めながら私はその子の情報についてまとめる。

 相談相手の特徴等を事前に知るのも恋愛指導の仕事のひとつだ。

 そうして仕事をしていると、部屋をノックされて、誰かが入ってくる。


「真心。お仕事、頑張ってる?」

「あっ、瀬能先輩。お疲れ様です」


 入ってきたのは恋愛指導部の隣に部屋を持つ生徒会の生徒会長、瀬能澪。

 穏やかで気品あふれる美人な容姿、人を惹きつける魅力。

 中学時代からの知り合いで、真心の憧れの女性でもある。


「京司クンは?今日は彼に用があって来たの」

「うちのバカ京司なら野暮用ではずしてます。すぐに呼びますね」


 携帯電話で京司を呼び出すと『先輩が来てる?分かった、すぐに行く』と口では言いつつ、かなり惜しそうな声をしていた。


――あの変態はそんなに女子の水着姿がみたいのか。


 内心、大いに呆れながらも、もうすぐ来ることを澪に伝える。


「それで、京司には何か用ですか?」

「まぁね。それは直接話すわ。それより、真心はこの仕事には慣れた?」

「えぇ、それなりには。皆、いろんな悩みを持っているんですね」


 恋愛指導部をして初めて気づくことも多々ある。

 恋をするという事は幸せになるために乗り越える事があると言うことだ。

 それぞれの悩み、想いを聞くと自分にはその経験がないため、新鮮でもある。


「真心は恋をしたことがないから不慣れなこともあるでしょうけど、京司クンを支えてあげて。恋愛指導部を信じてくれる子もたくさんいるのよ」

「京司は一番信じちゃダメない相手だと思うんですが」

「ふふっ、京司クンは京司クンで恋愛のベテランだからアドバイスという意味では最高の先生なんだけど。性格がアレだからねぇ」


 大の女好きで、実妹の沙雪に向ける視線すら怪しすぎる。

 真心は実の兄とはいえ、全く信頼していない。


「あと、従妹の夜空もお世話になってるわね。あの子、どう?」

「隙さえあれば、京司にキスばかりしてます。あの子、いろんな意味で危ういです」

「本当に悪癖で困ってるのよ。高校ではそういう事のないように矯正したくてここに放り込んだんだけど。京司クンを相手にしてるうちはまだマシかしら」

「京司に興味を抱いてる時点で終わってると思います」


 はっきりと言い切る彼女に澪は苦笑いしかできなかった。

 

「根は悪い子ではないから。適当に雑用係として使ってあげて」

「……分かりました」


 真心としても夜空の明るさは悪いとは思っていない。

 ふたりっきりだとどうしても、場を和ませられずにいるからだ。

 しばらくすると、京司が部室に戻ってきた。


「お待たせしました、澪先輩。俺に会いに来てくれたとは実に光栄ですよ」

「……京司クンに会いたくなって。衝動的に来ちゃった」

「これって運命ですかね?この際、俺と結婚しましょう」

「ははっ、それは無理。だって京司クンと結婚すると絶対に泣かされるもの」


 笑顔で言い切る先輩と「その通りですね」と自分でも笑う京司。

 おいおい、と思わず突っ込みたくなるけど、真心ですら疲れる京司に唯一合わせる事ができるのがこの澪のすごさでもある。


「さて、本題に入るわよ、京司クン。キミ、この間、恋愛指導禁止項目4に触れる行動をとったでしょ?報告はあがってないけど、一部噂で聞いたのよ」

「恋愛指導禁止項目4、教師との恋愛を指導するな。でしたっけ?」

「そう。京司クン、素直に言ったら大きな問題にはしないように計らうわ」


 先ほどまでと違い、重苦しい雰囲気。

 澪の真剣な眼差しは生徒会長としての責務だ。

 恋愛指導部には恋愛指導禁止項目という5項目の禁止項目がある。


「二股を推奨するな」

「対象に深入りするな」

「責任を持てない行動をさせるな」

「教師と恋愛は原則禁止」

「指導対象に手を出すな」


 以上の5項目、明らかに最後は京司を警戒して付け加えられたものだ。

 この5項目は最低限のルールとして守るようにしている。

 だが、それを前回の相談時に、京司は破ってしまっているのだ。

 真心も知ってはいたが、こうもあっさりと澪に知られるとは予想外だ。

 唖然とする私とは対照的に京司は「覚えがありませんよ?」としらばっくれる。


「本当に?ないというのなら、過去の恋愛指導報告書を提出してくれない?」


 ようするにまとめている報告書を見せろという。

 全ての相談の報告書は京司が必ず記載している、こればかりは虚偽を書かない。

 だが、京司の方針で、実の所、学園側にでさえ公開していない代物である。


「それは恋愛指導部に対する生徒会の介入と判断してもよろしいでしょうか?」

「え?い、いえ、それは……」

「先輩もよくご存じでしょう。恋愛指導部は学園の独立した組織です。例え、生徒会と言えど閲覧を強制させることはできない。人事に関しては貴方を信頼して任せていますが、内部情報を開示すれば独立組織の意味がありません」


 真心は目を見開いて唖然としていた。

 京司がこんな風に澪に対して反抗の姿勢を見せることは過去になかった。

 確かに独立した組織である恋愛指導部には生徒会の介入を拒否する権限がある。


「な、何よ。今さら、そんな権限なんて……」

「俺はこの恋愛指導部の運営を学園長に一任されています。その信頼を裏切る行為はするつもりはありませんよ。澪先輩は俺を信頼できませんか?」


 いつもの軽薄っぽさを微塵も見せず、真面目な顔をする京司に澪も反論できずにいる。


「瀬能“生徒会長”。俺は教師と生徒を“恋人”として結びつけてはいません」


 はっきりと断言する京司に彼女は悔しそうに、


「分かったわ、恋愛指導部で指導していないのなら、この噂はただの噂ね?こちらで噂を消すようにするわ。余計な心配だったみたい。ごめんなさい」


 実際は真心としては冷や汗ものだ。


――だから、教師との恋愛に絡む事は相談するなって言ったのに。


 京司は京司で焦る様子すらなく、平然と「噂を消しておいてください」と笑う。


――アンタは一体、どういう神経をしているんだと問いただしたい。


 この場を乗り切るためとはいえ、澪に対して堂々とわたりあった覚悟は認める。


「どうしても教師との恋愛、真実かどうか知りたいのなら、学生ネットワークで調べてみてください。あれは俺の管轄外だ。常に公正の立場で情報を記載しているはずです」


 澪は何とも言えない表情を浮かべながら、


「ねぇ、京司クン。恋愛指導部の権限を振りかざすなんて、貴方らしくないじゃない。私、正直、今は悔しい気持ちでいっぱいよ。この借りはいずれ返すつもりだから」

「できればキスで返してください。俺の唇はいつでも貴方のキスを待っています」

「……激辛のハバネロとキスしてればいいわ。ふふっ」

「それは刺激的なキスになりそうだ。もちろん、先輩の唇越しなら歓迎しますよ」


 澪の嫌味を京司は余裕で軽く受け流すのだった。

 彼女が立ち去った後、真心は不思議そうに。


「ねぇ、京司?どうして先輩は深く追求しなかったの?」

「先輩は警告しにきたんだよ。あの人は、俺達に“次はないよ”っていう警告をしにきただけだ。どこかで噂を聞きつけたんだろうね」

「大丈夫なの?」

「多分ね。例え、本人に問いただしても、今回の件なら処分もできない。ただ、好意を抱くだけで罪にならない。だから、今回は警告だけしにきたわけさ」

「……京司も結構やるじゃん」


 ただ単に、ずる賢く詭弁を使った行動だと思っていた。

 けども、それは全てを守るための行動でもあったのだ。


「アンタ、ちょっとだけ見直したわ。……話を変えてこれ、次の子の資料よ」


 そんな京司を認めたくないので無理やり話を変える。

 普段は何を考えているのか分からないお調子ものの兄だけど、実は恋愛指導部に 関しての行動だけは尊敬すらしている部分もある。


――双子の兄ながら、ホントに不思議な男よね……。


 真心はそう考えながら、明日の相談相手の子の資料を京司に手渡した。

 恋愛指導禁止項目、これを守らなければいけないという事を改めて感じながら。

 

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