6.俺様生徒会長×図書委員長
藤 撫子。部活はクラスの委員会と兼任である図書委員会。
図書室の主と言われるほどの本好き。
勝気な性格だが、そのカリスマ性により友人も多く、図書委員会では委員長を勤める。
「姫百合林檎、お前の生徒会入りは決定事項だ。拒否権はない」
「そ、そんな…冗談じゃありません!」
生徒会長である若紫純が強制的に生徒会に入れようとしているのは、先日転校してきた姫百合林檎。
「感心しないわね」
腕組みをして近づいていくのは、図書室に向かう途中だった撫子だった。
「撫子か」
「気安く呼ばないで頂戴、生徒会長さん。彼女、聞いたところによると生徒会入りを拒否しているようだけど?」
「だが、俺が決めたことだ」
「まったく。貴方は入学当初からそうね。強引なのよ。いっそ傲慢とでも言うのかしら」
「ふっ、俺にそんなことを言うのはお前くらいのものだろう」
「それに、転校してきたばかりの彼女に生徒会活動は重荷じゃないかしら」
「なら、お前が生徒会に入るか?」
「ご冗談を。私は図書委員長よ。入るわけないじゃない」
「変な正義感で俺の邪魔をするな」
「正義感じゃなく、常識で言っているのよ。それに貴方…生徒会規則を忘れたわけじゃないでしょうね」
「規則だと?」
「生徒会役員は生徒による選挙で決まるものよ。うちは特別に空白の役員を途中で加入させるルールがあるけれど…それだって、委員長会で三分の二の賛成を得られなければならないわ」
委員長会とは、撫子の図書委員会の他、風紀委員会、体育委員会、美化委員会、保健委員会などの特殊な委員会の委員長と、学級委員長、そして生徒会役員という、生徒のトップたちの集まりである。
「もちろん分かっている」
「だったらどうして拒んでいる彼女にこだわるの。意思の無い者を、委員長会が賛成するはずがないでしょう。それとも、貴方は反対されることで彼女が惨めになるのを見たいの?」
「……」
問い詰める撫子に、純が目を逸らす。
「質問されている時に目を逸らしてんじゃないわよ。さぁ、私の目を見て、明確な返答をくれない?私も委員長会の一人なのよ」
撫子には一つ、姫百合林檎が生徒会入りすることに対する懸念があった。
彼女は転校してきて早々、目の前にいる純を例とした顔のいい男子と一緒にいるところをよく目撃されている。
それも、時によって違った男子だ。
顔のいい男子が相手なのだから、彼らに恋する女子が彼女をよく思うはずもなく、現にかなりの不満を集めている。
イジメや嫌がらせが厳しい処罰対象になるために、不満を爆発させることはないが、これ以上のことがあれば、危ういと撫子は考えている。
更に、彼女をとっかえひっかえしているという噂のある見目の良い男子生徒に「最低だ」と言って平手打ちをしたり、委員長会の後輩にあたる生徒会副会長に対して、初対面にも関わらず、作り笑顔をするなということを言い放ったりと少し常識外の行動をしたという情報を聞いている。
彼女が生徒会に入れば、学内での面倒ごとが増えてしまうだろう。
そのため、撫子は彼女が生徒会役員となるのは反対だった。
本人も嫌がっているのだから、こだわる理由が分からない。
「姫百合は、俺の出会ったことのないタイプだ。だから、必要だと思った」
「そんなもの…個人的な理由じゃない」
「あっ、あの…っ私…っ」
今まで黙っていた林檎が口を開く。
「何かしら」
「私を、生徒会に必要だと言ってくれるなら……」
「必要だと言っているのは、今は生徒会長だけよ。それでも貴女、生徒会に入る覚悟があると言うの?」
「は、はい!」
「…そう。なら私はもう止めはしないけど、委員長会がなければ正式な参加は認められないわ」
「ならば、明日委員長会を開く。顔合わせだ」
「付き合ってられない…勝手に盛り上がっていなさい。それと、姫百合さん」
「はい…?」
「審査期間の一週間のうちに、貴女の素行と常識に対する認識を直すことをおすすめするわ」
それじゃあ、と撫子は図書室に消えていく。
委員長会のことをぶつぶつと考えている純の横で、林檎は蛇女のような形相で図書室のドアを睨みつけていた。