3.チャラ男子×男前女子
年齢制限はほぼこの話のせいです。
竜胆瑠璃。演劇部所属。
身長は女子の平均くらいだが、その言動、態度から男女ともに友人から慕われる、いわゆる男前女子である。
「透君のバカ!!」
大きな平手打ちの音が屋上に響く。
「おっと」
演劇の練習をしようと、瑠璃が台本を持って屋上を訪れたと同時に、平手の主であろう女子が屋上を去っていく。
ぶつかりそうになって、ひらりと身をかわし、入れ替わるように屋上に立つ。
「…コイビトをとっかえひっかえするのはいいけれど、本気になるつもりがないなら、やめることをおすすめする。いつか身を滅ぼすよ」
「なになに?竜胆さん、それもしかして、嫉妬?」
平手打ちを受けた男子、青桐透がへらへらと笑みを浮かべて瑠璃に近づく。
「はぁ…緩いのは下半身だけにしなさい」
「ははっ、怖いねぇ」
瑠璃に冷えた目で見られて、透はオーバーに肩をすくめた。
「怖くて結構。ただ、私が言いたいのは…貴方と付き合う女の子たちの方は本気なんだから、いい加減逃げるのをやめて真摯に向き合ったらどうかってこと。今度は貴方自身が刺されても知らないよ」
「…っ瑠璃」
瑠璃の言葉で、へらへらした笑みを消し、苦しそうな表情になると、やめてくれ、と言わんばかりに瑠璃の名を呼ぶ。
「怒らせてしまったのなら、ごめんなさい。だけどコレは一応、貴方を心配しての進言だと思ってほしい」
「心配?竜胆さんには関係ないのに?」
「本当に関係ないと思うなら私も何も言わないよ」
「……」
「演技と嘘の違いって、分かる?」
「…分かるわけないじゃん」
「嘘は心と言葉が真逆の状態で、演技は心がまだ言葉に一致してないけど、いつかは一致してくる状態のこと」
「で、それが俺と何の関係があるわけ?」
「…彼女とっかえひっかえしてて本当に楽しい?」
「……楽しいよ。彼女がいて楽しくない男なんていないだろ」
「そういうことは目を合わせて言うことだね。それにね、貴方とつき合った女の子の一人が言ってたよ。本当に楽しそうな顔、見たことないってさ」
「そんな、こと…」
「あまり女子をナメるな。好きな相手の表情くらいは分かるんだよ。それ故に、本気じゃないことが分かった怒りのまま、ネイルアートをした手で殴って…血を流させることもある」
瑠璃はそう言うと、透の頬に絆創膏を貼った。
先ほどの平手打ちの後から、頬が切れていたのだ。
「ならさ…瑠璃ちゃんが俺と付き合ってよ…」
「なら、とか言う内は答えは変わらないよ」
すがりつくような目で透は瑠璃に言うが、言外にNoの返事。
「つきあいが長い相手なだけに、流れで関係を変えるのは嫌なんだ。透も、本当はそういう性格のくせに、そうしないと私が本当に離れていくとでも思ってるんじゃないか?」
「…ほんと、かなわない。俺のせいで一生残るかもしれない怪我した時も許して…変わらず接してきてさ…」
抱きしめる、というよりも抱きつくようにして透が瑠璃に覆い被さる。
瑠璃と透は、実は小さい頃から近所に住む、いわゆる幼馴染だった。
幼い頃から瑠璃の性格はあまり変わっていないが、透は物静かで穏やかではあるものの、明るい少年だった。
その透にトラウマを植え付け、性格が変わってしまうような問題が起きたのは、まだ中学生だった時のこと。
透は一つ上の先輩から告白されて、断ることなく付き合っていた。
その頃は男女という性別があるために少し疎遠になっていたが、会えば話していたので、瑠璃と透の関係はほとんど変わっていなかった。
そんなある日。
透が彼女である先輩と別れたという噂が流れた。
それは事実だった。
少なくとも、透の中では終わったことだった。
しかし相手にとっては違った。
「貴女が"るり"?」
「…確かに私の名前は瑠璃ですけど…」
次の瞬間、面識のない人物に声をかけられて目を瞬かせていた瑠璃の腹に、包丁が突き立てられていた。
原因は、幼馴染であるために離れない二人の関係についての嫉妬。
なんでも、透はたまたまデート中に見かけた瑠璃の名前を呟いたらしい。
誰なのかを聞いてきた彼女に透は瑠璃について説明した。
しかし、その時の名前呼びと自分には見せない表情だったということで、一方的な喧嘩に発展した。
そして、彼女の方から別れると言い出し、それに応じた透の中でも別れたことになっていたのだが、彼女の方に未練があり、私怨で瑠璃を刺したのだ。
それからというもの、自分のせいだと責める透を瑠璃は気にするなと許したのだが、彼自身が中学卒業まで彼女を避け、高校に入るなり女遊びをするようになったのだ。
今でも、瑠璃の腹部には薄くではあるものの赤い傷が残っている。
「瑠璃ちゃん…今すぐには無理だけど…いつか、いつかちゃんと真面目に告白するから…待ってて」
「仕方ないなぁ」
瑠璃は笑いながら、自分を見下ろす透の髪に手を伸ばして撫でた。
女遊びをしているが、透が付き合って別れる時の原因は、性行為。
小さな声ではあるが、行為中に「瑠璃ちゃん」と口走ってしまう。
幸い彼女たちは何人も付き合っていると思いこんでいるので、気にすることはあっても中学の時のように探そうとはしない。
実際は付き合うのは一人だし、行為だけは、付き合ってなくても一度で良いと求められれば応じる。
応じるが、瑠璃を思い浮かべなければ、いわゆる男の部分というものが反応しないのだ。
だから感情が高ぶって、瑠璃の名前を口走り、別れることになる。
実際の青桐透は、かなり一途な人物である。