2.不良少年×優等生
東間桜。部活には所属しておらず、帰宅部。
クラス一の才女で、品行方正であるため、教師受けも良い。
「あ…」
帰路についていた桜は、普段近道として使う路地に見覚えのある影を見つけて、声を上げた。
「あぁ?!何見てんだよこのアマ!」
「まぁ待てよ。こいつ、赤里と同じ学校だぜぇ?」
この二人を初めとした男たちは、桜にとっては見覚えは無いが、囲まれていた少年の方は見覚えがある。
「何してんだ東間、さっさと失せろ!」
同じクラスで男女で出席番号順に並ぶと隣になる赤里忍だった。
素行が悪く、遅刻や早退、サボりは基本、教師に見つからないように喧嘩をするのが上手い、不良少年。
「あのっ!一人にこんなに大勢って…卑怯だと思います!」
俗に言う良い子である桜は、その正義感も強い。
「卑怯だと思いますっ!可愛いねぇ~」
桜の発言をふざけて真似る男。
汚い笑い声が路地に響く。
「でも可愛いからって調子乗ってると、酷い目にあうぜぇ~?」
「っオイコラテメェら!そいつは関係ねぇだろ!!」
忍が怒鳴る。
「お前と同じ学校ってだけでムカつくんだよ!!」
桜に向かって男が殴りかかってくる。
「…っ」
桜は拳を避けるようにしゃがみこむと、そのままバック転で距離をとった。
追撃を仕掛けてきた男の顎に向かって勢いよく足を蹴り上げ、寸止めする。
学校では大人しく、優等生である桜だが、小学生の頃から高校に入るまで、ダイエットではじめた母親に付き合ってカポエイラを習っていた。
男に向かって使ったのは、マカーコというバック転の技と、そこから繋げたケイシャーダという蹴り上げの技。
相手に当てない方が上手とされるカポエイラの技を駆使して、男たちを威圧していく。
「…まだ、やります?」
目の前で足や拳が止められる寸止めのプレッシャーと、それを桜のような少女が使っているということで男たちはすっかり萎縮していた。
「く、くそ…」
「今日のところはここまでにしといてやる!」
「行くぞお前ら!」
男たちが逃げ去っていく。
「おい東間!」
「?何、赤里君?」
「何じゃねぇ…俺の喧嘩を邪魔してんじゃねぇ!」
「邪魔はしてないよ。あの人たちが勝手に逃げていっただけ」
「は…」
「私、一度も当ててないもの。もっとも、当てちゃダメなんだけどね」
「はぁ?」
「カポエイラって競技、知らない?ブラジルが発祥の、ダンスと格闘技の間みたいな競技なんだけど」
「…知るかよ、んなもん」
「そっか。赤里君、喧嘩するのはあんまり良くないと思うな。喧嘩はちゃんと信念がある時だけにしないと、それじゃただのチンピラだよ」
「んだと…?」
いきりたつ忍。
「私のカポエイラ、正面から向き合ってみる?」
教室での穏やかな雰囲気などそこにはなく、忍は桜が、必要とあれば自分を攻撃しようとしていると気づき、ばつが悪そうに顔をそらした。
「冗談だよ。じゃあね、また明日」
いつものふんわりとした雰囲気に戻り、桜は帰っていった。
「…恐ェ女」
忍はそう一言呟くと、路地を出て行った。