挟み遅れた8月11日
この作品は『氷の欠片』に収録が間に合わなかったエピソードです。
上記の作品のネタバレを含みます。
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飾られた色とりどりの提灯。立ち並ぶ賑やかな屋台。いつ聞いても陽気な炭坑節。やぐらの上から四散する、重く低い太鼓の音。そして、至る所で色めき立つ若い男女。
八月十一日、土曜日。午後六時半。雛森林公園では毎年恒例の夏祭りの真っ最中。
平生、この雛森林公園を訪れる者といえば、地元の子どもか高齢者がほとんどだ。近辺に住む年頃の男女は、大抵わざわざ都内へと足を運び、興にいそしむ。雛区にはアミューズメント施設が少ない訳ではないのだが、目と鼻の先にある都内へと憧憬を抱く者は多かった。
その事実は人嫌いからしてみれば大変喜ばしいことだ。地元から外に出て行く人間が多ければ、当然地元の人気は少なくなる。だからこそ、人嫌いの透はこの町に居心地の良さを感じていた。しかし……。
どうしてこういう時に限って外に出て行かないんだ、こいつらは。
雛森林公園には浴衣姿の若いカップルが目立つ。その上、園内では絶えず、各所に設置されたスピーカーから炭坑節が流されている。
腹に響く耳障りな太鼓の音だけでも、透は十分不快な気持にさせられる。が、笑顔で乳繰り合う男女を見ていると、太鼓の音以上に気分を害し、公園に辿り着いたばかりにもかかわらず、身近の石製の硬いベンチに腰を下ろす。
やはり来るべきではなかったか。
カラフルな提灯の下、透の中には早々に後悔の念が渦巻き始めた。
雛森林公園で、今年も恒例の夏祭りが開催されることは前々から知っていた。しかし、妹の花圃がこの祭りに出向くことは今日の朝になるまで透は知らなかった。
ただでさえ今年の夏は殺人計画のことで行詰まっているのだ。妹が祭りに出向かない限り、透が公園に赴くことはまずなかった。
ったく、花圃の奴。試合に負けたならもっと自室で落ち込んでろよ。
透は心の中で悪態を吐くと、園内への出入口へと虚ろな双眸を向ける。
八月十日。埼玉県で開かれた、中学女子バスケットボール部の全国大会の予選で、花圃の所属する鏡遠中学のチームは、初戦で敗退した。予選第一試合の直後、顧問の教師に試合の敗因は団結力のなさと指摘された花圃たちは、部員同士で話し合い、今日の夏祭りへの全員参加を決めたのだという。
人間関係を円滑に進めるのは勉強よりも大事なことだ。透は人嫌いではあるものの、常々そう考えて生きてきた。その為、花圃が同じ部活のメンバーと話し合って決めたことに口を出す気はなかった。また、花圃は花圃で透を気遣ってなのか、友達の傍を離れないから安心していていいよと話していたので、日が沈み、数人の少女と家を出て行った彼女を、その時は透も追いかけようとは思わなかった。
しかし、いつもなら午後九時頃に帰ってくる父親が、午後六時に自宅の玄関を開けた瞬間、透は居ても立っても居られなくなり、電話で花圃の安否を確認してから、父親が帰宅して十分後に家を出た。
それから約四十分。公園に着いてからは二十分。父親の姿が現れないか、透は公園の出入口へと目を光らせている。
これは物語の世界じゃない。異物を排除した後も、人生は無慈悲に続いていく。命が助かればハッピーエンドなどというのは、浅はかな絵空事の世界に過ぎない。
計画実行を前に、透は父親に花圃が傷付けられることを何としても避けたかった。
花圃の話によれば、最近は透が傍に付いている為、父親に跡をつけられることはなくなったと言うが、念には念を。万全に越したことはない。
これも、平穏な日常を取り戻す為だ。そう思うと、透の双眸は自然と鋭くなる。
しかし、どれだけ透が家庭の平穏を望もうと、今現在の彼は客観的に見れば、祭りにおもむく者たちを監視する歪な青年でしかない。
目立つ行動は避けるべきではないか。
目の前を通りかかった若い男女に冷めた目で見られ、冷静になって、透はしばし黙考した後、何となく左方、約十五メートル先に窺えるやぐらへと目を向ける。
全長五メートルほどしかない小さなやぐらの上には、背中に『祭』の字がプリントされているハッピを着た中年男が、リズム良く太鼓を叩いている。太鼓のリズムは一定で、聞く者によっては心地良いのかもしれないが、太鼓の音は少なくとも透にとっては不快だった。耳障りだった。
祭りってのはどうしてこんなに騒がしいんだ。ただでさえ品のない奴が多くて騒がしいのに、どうして更にうるさくするんだ。
透はやぐらの下部から、その上の中年男へと感情のない視線を移す。移すと、透の意思に関係なく、幼い頃の記憶が蘇った。
『ねぇねぇお父さん。僕もあの上に乗って太鼓を叩いてみたいよ』
記憶の中で、三歳の妹と手を繋ぐ幼い透は、現在よりも低い視線からやぐらを見上げる。
『ははは。太鼓を叩いてみたいか。男の子らしいな。でも、透にはまだ無理だな』
幼い透の横では、まだ若く健康な身体つきの彼の父親が静かに笑っている。
唐突に思い出し始めた光景は、透と花圃が両親と四人で幸せに暮らしていた時の記憶のようだった。
『えぇ?何で太鼓を叩くのは無理なの?身長が低いから?』
真横で笑う父親を、幼い透はむっとして見つめる。父親は透と目が合うと、一瞬おやと笑みを絶やす。が、すぐに笑顔を作り直し、彼の頭を軽く撫でた。
『身長は関係ないよ。ただ、今よりもずっと勉強して、父さんよりも頭が良くなれば、きっとやぐらの上に乗ることができるよ』
『本当!』
『あぁ、きっとな』
そう言って父親は花圃の隣でつまらなさそうに話を聞いている透の母親に笑顔を向ける。が、透は両親のやり取りには気付かず、父親の答えを聞いた途端、両手に力を込めて、目を輝かせる。
『じゃあ、たくさん勉強しないとなぁ。でも、勉強って面倒臭いよなぁ。特に国語』
『こらこら、国語は全ての教科で使うものなんだぞ。面倒臭がらずにちゃんとしないと』
『おにいちゃんオベンキョしないとだめだよ。オベンキョしないとえらくなれないよ』
『ほら、花圃も言ってるじゃないか』
父親と目を合わせ、『えへへ』と笑う花圃。笑顔の妹の右手には、わたあめの付いた割り箸が握られていて、彼女の表情には翳りは微塵もない。しかし、仲間外れにされた心地がした透は、味方を求めて視線を向けた母親の表情から、確かに陰を見つけた。
どうして母さんは寂しそうにしているのだろう。
花圃の隣で、片手で彼女の右手を支える母親は、透と目が合うなり、慌てて笑みを浮かべて彼をたしなめた。
母親の仕草は子どもの目から見ても何かを隠しているように見えた。
その隠し事が何だったのか。今考えれば容易に想像がつくのだが、当時の透は勉強のことで母親にも咎められ、不貞腐れてそっぽを向き、特に彼女に言及はしなかった。
その時、母親になぜ暗い顔をしていたのか訊ねていれば、何かが変わっていたかもしれない。訊ねても、未来はさして変わらなかったかもしれない。
どちらにしろ、透は母親に話しかけることはなかった。突然透と父親に別れを告げ、花圃の手を引いて離れて行く母親を、早くどこかに行ってしまえとすら思った。
その後、父親と二人きりになった透は、近所のコンビニでカップラーメンを買いに行き、雛森林公園の出入口付近のベンチで、二人仲良くラーメンを啜った。
その日は、今日のように過ごしやすい気温ではなかった。どちらかといえば暑いくらいの気温で、透はじっとしているだけでも汗ばんだ。しかし、透と父親は男の約束と称し、かねてより祭りの日に外でカップラーメンを食べる約束をしていた。
願望が叶った少年には、夏の暑さなど屁でもなかった。今とは違い、炭坑節や太鼓の音も、彼の気持を少しばかり高ぶらせてもいた。
『透、カップラーメンはおいしいか?』
箸にかけた麺を冷ましながら、父親が訊ねる。
『うん。最高だよ』
透はそれに親指を立てて応えた。
あの頃は家に母親がいた。舌足らずな妹はよく笑う子どもだった。父親は暴力を振るうことはなく優しい人間だった。
幸せだった。
透はこの時点ではまだ、親に恐怖心を抱いてはいなかった。少なくとも表向き、山岸家は仲良し家族だった。
しかし、透が小学二年生の時に既に山岸家は崩壊へと進んでいた。家族四人での夏祭りは、山岸家最後の思い出作りだった。
その最後のイベントから、母親が家に帰らなくなるようになるまでは、そう時間はかからなかった。
俺はいつも気付くのが遅い。大事なことに限っていつも。
急に切なくなり、透は幻から目を背け、やぐらから前方にずらりと並ぶ屋台へと視線を移す。
屋台は例年通り、親子連れで賑わっている。中でも威勢の良いしゃがれた声で客引きを行う、射的屋の主人には透の目も引きつけられた。
「さぁいらっしゃいいらっしゃい!楽しい楽しい射的だよ!」
射的か。昔何度かやったことあったっけ。確か玉が当たっても景品は全然倒れないんだよな。でも……。
父親が撃つと景品は倒れる。そのことを思い出して透は再び俯いた。
ここ数日間だけでも、昔のあいつのことを思い出すのはやめよう。迷いは計画を失敗へと導く。人には誰にだって心を鬼にしなければならない時がある筈だ。酒だってもう手に入れた訳だし、計画に必要な物は全て揃った。花圃の精神だって、いつまで持つかわからない。とにかく俺の為にも花圃の為にも、計画は進めなければ。計画は……。
「透、こんなところで何してるの?」
人知れず、自己嫌悪に陥っていると、近くで聞き慣れた声がした。
誰だろう。
見上げてみれば、目の前にはいつのまにか、両手にかき氷入りの紙コップを持った千代が立っていた。
「お前も祭りに来たのか?女は祭りが好きだな」
苦笑して俯く透。それを見て千代はむっとしながら彼の横に―微妙に距離を置いて―腰を下ろす。
「失礼だな。私は塾の帰りだよ。でも、ちょうど良かった。これ、買い過ぎたから一つ食べてよ」
差し出された千代の両手には、それぞれイチゴとブルーハワイのシロップがかかったかき氷が握られている。
かき氷を食べる前に満腹になった訳ではあるまいし、買い過ぎたというのは透に遠慮なく受け取ってもらう為の千代なりの配慮なのだろう。
気遣いは余計なお世話だといつも言っているのに。透はそう思ったが、千代の幼気な気持を汲んで、イチゴのかき氷に手を伸ばした。
「あぁ、イチコは私が食べようと思っていたのに」
透がイチゴのかき氷が入った紙コップを掴むと、千代は嬉しそうに怒る。透はそんな千代を見て、露骨に不快な気持を顔に表し、半ばひったくるようにして彼女からイチゴのかき氷を受け取る。
「悪いが、俺は食欲減退色の食べ物は食べない」
一応断ってから透は膝の上に紙コップを乗せた。
「あぁ、そう。まぁいいけど、代金は払ってよ」
「お前なぁ……」
「ふふ。冗談だよ。さ、溶けない内にさっさと食べちゃお」
千代はにこりとしてブルーハワイのかき氷が少量乗ったスプーンを口元に運ぶ。
「ところで、今日は一人で来たの?」
「俺が誰かと来ると思うか?」
「はは。だよね。透友達いないもんね」
かき氷を食べながら挑発的な笑みを浮かべる千代に、透はいらっとする。いらっとするものの、怒る気力もなくただ項垂れる。
「うるせぇ。それで、何か用かよ」
「ん?ちょっとね?」
千代はかき氷を片手に、しばしもぐもぐした後、透をじっと見つめる。
「今日って、もしかして花圃ちゃんに頼まれて来たの?」
千代からの予想外の問に、透はどきりとする。
「何でそんなこと訊くんだよ」
「ん?なんか最近よく二人で歩いてるって、お母さんが言ってたからさ」
花圃と共に家に帰る時は、極力周囲に目を配っているつもりだった。が、自分の知らないところで自分たちを知る者に姿を確認されていたらしい。
これは計画に支障が出るだろうか。
透は返事に窮した。
舞岡千代が透の花圃に対する行動から、山岸家の家庭環境を正確に推察できた場合、彼女が黙って事の成り行きを眺めることはないだろう。もしそのような事態になれば、千代は模索して平和的な解決方法を見つけようと町中を駆けまわるに違いない。
透からしてみれば、千代が助けになってくれるのは、嬉しくない訳ではない。しかし、家庭内の問題は必ずしも倫理的行動で解決できるとは限らない。そのことを透は身をもって理解していた。
だからこそ、ここで千代に下手に騒がれる訳にはいかない。山岸家の家庭環境は計画を実行した後も、その家の者だけが知っていればいいのだ。
とはいえ、言い逃れしようにもこちらが苦しい状況。相手には一つの証拠を握られていて、言い逃れるのにも限度がある。
こんなことで殺人計画は破綻してしまうのか……。
「それが、何だって言うんだ」
透は苦し紛れに言葉を返した。それでも、深く自分と花圃のことを訊くようであれば、透は前にしたように、走って逃げるつもりだった。が、千代は大して透に追及はせず、結局彼の不安要素は杞憂に終わった。
「別に。ただ、透が教室でみんなを見ているように、みんなも意外と透を見ているんだよって、言いたかっただけ」
何だよ、千代の奴。ひやひやさせやがって。
透は小さくため息を吐き、スプーンでイチゴのかき氷を口に運ぶ。
「一応言っておくが、今日は花圃が祭りに出かけた後、暇だから俺もここに来ただけだ。普段だって、花圃と一緒にいるのに、深い意味はない」
「ふぅん。でも、透がそう思っていても、花圃ちゃんは違うこと考えてるかもよ」
「俺と花圃は家族なんだ。片一方でも相手に性的欲求を抱くことなんかない」
透がふっと笑って千代の意見を否定すると、彼女は悪戯っぽく笑うのを止め、恥ずかしそうに俯いた。
千代が喋らなくなると、二人の周囲は沈黙が支配し始める。と、同時に、透の耳には唐突に炭坑節と太鼓の音が聞こえてきて、居心地の悪さを感じる。
何か話さなければ。
透は半ば溶けているかき氷を見つめる。
「なぁ、知ってるか?氷像は一度壊れたら雪像と違って作り直すことができないんだ。それがほんの少しの欠片だったとしても、一度壊れてしまったものは元には戻せない。まるで……」
そこで言葉を止め、透はじっと―感情のない目で―千代の双眸を見つめる。そして千代もまた、好奇心の覗く目で、透の双眸を見つめる。
「まるで、人間の心みたいじゃないか、氷って奴はさ」
千代から目を逸らし、地面へと視線を落とす透。彼の双眸を追ってきょとんとする千代。
「それって、どういう意味?氷も心も、語呂は似てるけど、全く別のものだと思うよ」
「氷も心も、温か過ぎれば脆くなり、最後には溶けて失くなってしまう。かといって、冷た過ぎれば頑なになり、柔軟さが失われる。そして、どちらも壊れると、二度と元の形には治せない。ほら、似てるだろ。氷と心は」
「確かに似てるけど……」
千代は神妙な顔付で俯く。
「透、私に何か隠してるよね。うまく説明できないけど、最近の透は無理してる感じがする」
ちょうど千代が話し終えた頃、炭坑節は夜空に霧散し、太鼓の音は人波に呑まれた。刹那の間、二人の周囲は静寂に包まれる。
全てを告白するなら今しかないぞ。
透には祭りの神様が自分を後押ししているような気がした。
本当は殺しなんかしたくないだろ?彼女に全て打ち明けてしまえよ。そうすれば、きっと楽になれるぜ。
透は大きく息を吐くと、頭の中で言葉を転がし、乱れた感情を落ち着かせる。
黙れ。黙れ。あいつをこの世界から追い出すことに意味があるんだ。希望なんか語ったところで、現実は乗り越えられない。それに、俺は楽になりたい訳じゃない。
自問自答を繰り返している内に、やぐらには二十代そこそこの、白い鉢巻を巻いた若い男が上がり、ハッピを着た中年男は役目を終えて地へと降りた。
再び祭りは勢いを取り戻そうとしていた。
そんな時、透の口が僅かに開いた。
千代の瞳は彼の口元を見て輝きを増す。
一体何を語ってくれるのか。そんな面持ちで親友の言葉を待つ千代。
しかし、彼女の期待に反して、透は口の中に溶けたかき氷を流し込むだけで、口から言葉が流れ出ることはなかった。
千代はがくっと項垂れて、前方へと双眸を向ける。
視線の先には花圃がいた。立ち並ぶ屋台の前に集まる十数人の少女の群れの中で、唯一こちらを向いて花圃は笑みを浮かべている。
千代は花圃と目が合うなり、笑みを返し、透を呼んだ。
「ほら、透。花圃ちゃんが見てるよ」
千代が花圃の名前を口にすると、透ははっとして顔を上げる。
花圃はなぜかにやにやしてこちらを見ていた。
相変わらず、外で見る妹の笑顔は、家で見る時とは比べ物にならないほど明るく輝いている。この笑顔を見れば、花圃が大きな闇を抱えているのではないかと疑う者はまずいないだろう。しかし、透は知っていた。
彼女の持つ深い傷。これから先も待ちうける多くの困難。それら立ち向かっていかなければならない障壁は、花圃の目にも映っている筈だった。
それでも一歩外に出れば笑みを浮かべる妹が、透には酷く痛々しく思えた。
花圃、やめてくれないか。そんな笑顔を浮かべるのは。そんな明るい笑顔を見ていると、俺はお前が家にさえいなければ、何不自由なく生きていけるような気が起きてしまう。計画を投げ出してもいい気がしてしまう。だから。だから……。
透は耐えられなくなって、花圃から目を離すと、すっと立ち上がり、千代に向かって礼をした。
「かき氷、うまかったよ。ありがとうな」
やぐらの上からは、いつの間にか再び太鼓の音が響いている。各所に設置されたスピーカーからは、炭坑節の呑気な歌が流れている。公園内は、前よりも人気が増し、ざわめきが勢いを増していた。
千代……。
透はこの騒がしさの中、自分の言葉が彼女に届かなかったのかと思い、もう一度彼女にお礼を述べようとした。が、ちょうどその直前に、千代の口が開かれた。
「礼なんかいらないよ。私と透は古い付き合いなんだから」
満面の笑みを浮かべて、手を横に振る千代を見て、透は苦笑しながら別れを告げ、雛森林公園の出入り口へと歩を進めた。
その五、六メートルばかりの道中。来客用のゴミ捨て場の前を通ったが、透は手にした紙コップを手放すことはなかった。