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シグ  作者: 仁崎 真昼
8/29

08 横断歩道は、右手を挙げて右見て左見て片足上げて上見て舌を出してはいポーズ。

 珍しいことに、シーはいつもより早い時間に家を出た。

 理由は、特に無い。

 この町は毎朝、雲が空から降りてきたかのような濃霧が、地上を覆い尽くす。その白濁は視界を遮り、三歩も歩けば元いた場所が分からなくなるほど。日が昇ると共にそれも薄れて行くのだが、今日のように朝早くに町を歩けば、まるで別の世界に迷い込んだような気分になれる。

 煉瓦で舗装された赤茶色の道を、漆黒のケープを羽織った少年が、規則的な足音を立てて歩く。その音は道路を挟む煉瓦の家々で反響し、まるで山びこのような、独特な音を響かせる。

 ――ト、ト、ト。

 深い霧の中には、死を司る魔物が棲むという。

 歩いているのは自分なのに、まるで亡霊が彷徨っているように思えて、思わずシーは苦笑してしまった。

 シーの家は、学園とはそう離れていない。いや、どちらかといえば近い方に分類される。

 直線距離にして一ケエムと少し、徒歩でのんびりと歩いて十五フンほどの距離だ。近道を駆使して全力で走れば、半分以下の時間で登校できる。わざわざ使役生物操舵免許を取得している生徒や、公共の獣車などで通っている生徒からすれば、それは羨ましい限りだそうだ。

 実際、そうした生徒の話を小耳に挟むと、そのたびに自分は運がよかったと、シーは実感するのだった。

 朝の空気はひんやりとしていて、それが汚れているのだとしても、澄んでいるように感じられる。吸い込むだけで喉を刺激し、清々しい気分になる。早朝は特にそれが顕著で、深夜とはまた違った感触だ。

 ――気持ちいい。

 声には出さずに、そう口を動かすシー。何故だか、まるで聖地に踏み入れたような気分になって、言葉を発してはいけないような気がしたのだ。

 学園への近道の一つである細い路地に入る。

 そこは路地と言うよりは、壁と壁の間と言うべきで、同年代の男子の中でも小さめに分類されるシーでさえ、体を横にしないと肩が擦れてしまう。しかし、そこを抜ければ学園は目の前なので、急いでいる場合は必ずと言って良いほど利用する。今日は別に焦る時間帯ではないが、何となく通る気になったのだ。

 一歩一歩、物音を立てないように静かに歩く。シーを挟んでいる壁にも窓はあり、その中では住人が寝ているのだから。

 因みに、以前急いでいるときにここを走り抜けていたら、急に窓が開いて頭を強打してしまったことがあった。明かりを採ることなど不可能に近いのだから開くことはないだろうと、シーは油断しきっていたのだが、普通に換気のために開けるらしい。そのときに、窓を開けたおっさんに悲鳴を上げられたのも、今では良い思い出だ(シーのことを泥棒か何かと勘違いしたのだ)。

 シーがくすくすと思い出し笑いをしていると、不意に、その狭い路地が途切れた。

 路地を抜けると、急に景色が広がる。赤茶けた煉瓦が乳白色の霧に変わっただけだが、それでも、肌でその解放感を感じた。

 目の前には、一本の道が敷かれている。

 それは広い広い道だ。その道は街道とも町道とも呼ばれていて、幅は獣車が三台は余裕をもってすれ違えるほど。獣車も人も、それなりの数が行き来するので、わざわざ歩行者用の歩道が設けられている。

 そして、その広い道路を横切れば、すぐそこが学園の正門だ。

 シーはのんびりと、鼻唄を歌いながら車道を渡る。控えめなその音は綺麗な旋律を奏で、霧の中に混ざり、溶けて行った。

 革でできた靴で煉瓦を叩き、静かに静かにリズムをとる。

 合間に小さく指を弾き、ちょっとした緩急を与える。

 街道は普段ならば獣車が頻繁に行き交っているので、注意が必要だ。だが、今は早朝なので車も人も、影は無い。そもそも、街道を通るときは速度を押さえなければならないので、子供でも獣車を避けることはできるのだ。

 だから、何も危険は無い。

 そう思っていた。

「――え?」

 灰色の壁。

 唐突に、驚くほど何の予告も無しに、シーの右側の霧から、灰色の巨大なそれが現れた。

 一瞬で、シーはそれが獣だと判断する。見たことの無いそれは恐らく召喚獣で、後ろには車を牽いているであろうことも。

 感覚も感情も麻痺しているかのように、何も考えることができない。しかし、目の前の情報ばかりが、頭の中に流れ込んでくる。

 それは体高だけで二エム以上はありそうで、質量で言えばシーの十倍は軽くありそうだ。色は全体的に灰色。イボの数は十三。目は無い。足は無数。そんな、化物染みた生物が、尋常ではない威圧感を伴って、高速で突っ込んできている。それは、危険。危険だ。

 シーが我に帰ったときには、それは既に、三エムもない距離に近づいていた。

 様々な疑問が、シーの頭を高速で掠めて行く。

 何故、こんな速度を出しているのか? 何故、今まで音がしなかったのか? 何故、こんなに車道の真ん中を走っているのか? 何故、何故、何故。

 人をはねれば殺してもおかしくないほどの、通常の倍以上の速度で走っているのは、急ぎの仕事だったからだ。音がしなかったのは、無数の柔らかい足を持つ、怪物型の召喚獣に牽かせていたからだ。マナー通りの左側ではなく、車道の真ん中を走っているのは、霧の中を走らせることに恐怖を覚えていたからだ。

 しかし、そんなことは、シーは何も知らない。知る余裕も無い。

 シーの脳裏に、一つの、絶対的な予感が浮かんだ。

(これ、死ん――)

「シー!!」

 シーは自分の体の一部を誰かに掴まれ、後ろに引っ張られるのを感じた。

 それと共に感じる、強烈な衝撃。

 衝撃によって、シーの息は詰まる。ぐわんぐわんと耳鳴りがし、視界に火花が飛んだ。まるで脳味噌を掻き回されているようなその振動は、シーの意識を容赦なく刈り取る。

 甲高い悲鳴が上がる。

 どさり、という音を立てて、シーの体は冷たい煉瓦の上に崩れ落ちた。




 シーが目を覚ますと、そこは見慣れた教室だった。

 右目をうっすらと開けているだけで、頭の芯にまで鈍痛が響く。それに微かに顔をしかめながら、状況を把握しようとした。

 シーは最後列の椅子を並べて作られたであろう長椅子に、左半身を下にして、膝を軽く曲げた状態で横になっている。右側頭部にはひんやりとした感触があり、湿ったものが乗っている感触がある。頭痛が酷いこと以外は問題は無く、どうやら大きな怪我はないようだった。

 不意に、動かないシーの視界に誰かが入ってきた。

「あ、目が覚めた?」

「……ポトフ?」

 声をかけてきたのは黒い髪の少年。ポトフという名前の、シーのクラスメイトだった。

 ポトフの身長は平均的、つまり、シーより少し高く、体格はやや細めだ。顔立ちは中性的で、女性に見えないこともない。シーがはっきりと名前を覚えていたのは、一年生の時も同じクラスだったからだ。

「あー……うん。起きた」

 シーが間抜けな返事をすると、その少年、ポトフはふふ、と笑った。

「今、どんな状況か分かってる? シーが気絶してからのこと、説明した方がいい?」

 シーが覚えているのは、車道を渡っていたら獣車に轢かれそうになったことだけ。誰かが叫ぶ声を聞いたような気もするが、そのあとすぐに衝撃が走り、それ以降は記憶が途切れている。つまり、どうして自分は死んでいないのか、学校で寝ていたのか、さっぱり分からない。

 その親切な提案に、全くと言って良いほど何も分からなかったシーは、素直に頷く。

「お願いするよ」

「お願いされた」

 そう言うとポトフはシーの近くの椅子に座り、ことの経緯を話し始めた。

「ボクが今日登校してきたら、車道をふらふらと渡る人影が見えたんだ。で、よく見たらそれがシーだって分かったから、話しかけようと思って近づいた。そしたら、音もなく獣車が現れて、シーを轢き殺しそうになったから、慌ててシーをボクの方に引っ張った。ここまでは覚えてる?」

 つまり、直前に聞こえた叫び声はポトフのもので、シーはポトフに助けられたのだ。あの濃密な死の予感を、ポトフが跳ね返したのだ。目の前にいる少年は、正真正銘、シー命の恩人ということになる。

 シーは真面目な顔をして、ポトフに向かって頷く。

「うっすらと。本当に助かったよ」

「どういたしまして。じゃあ、続けるよ」

 ポトフは説明を続ける。

「あのとき、召喚獣や車に跳ねられることは無かったんだけど、荷台に荷物を括り付ける綱が、シーの頭をひっぱたいたんだ。たぶん、そこでシーは気絶した。間違ってない?」

「なるほど。あってる。たぶん」

「まあ、シーも不注意なところがあったと思うけど、あっちは明らかに速度オーバー、交通ルール違反。そのうえ、シーが怪我したことに気づいたはずなのに、そのままとんずらここうとしました。故に、キャッチアンドスレット」

「ほうほ……ん?」

「まず、免許証を見せてもらって氏名住所所属会社を抑えます。この部分は多少強引でも大丈夫です。次に、それなりの態度を見せてくれと、脅は、じゃなくてお願いをします。最初は、免停は困る、クビになる、とごねていましたが、懇切丁寧に説明をしたら、大抵の人には理解していただけます。今回も大丈夫でした。あちらにも悪いことをした、という気持ちがあったのでしょう」

「へえ、そう、なんだ」

「重要なのは、落としどころです。やりすぎはいけません。今回も、最終的には、まあ、それなりの態度を示してもらいました。それが済めば、解放です。ここまでが、一区切り。その後、ぐったりしてるシーを学校に運んで、今のこの状況ってわけ。分かった?」

「……大体は」

 シーは素直に頷いた。余計なことは一切訊かない。

 何故か、途中だけ口調が丁寧だったり、料理番組のような話し方になってたりしたが、そこはあえて何も言わない。何の手順を説明しているのかなんて、何を調理しているのかなんて、知りたくなかったからだ。

 話がきちんと伝わったことを確認すると、ポトフはおもむろに封筒を取り出す。

「これが、運送屋の人の謝罪の心」

 そして、ニヤリと笑うとシーの手に押し付けた。

「はい」

「いや、はいって言われても」

「いいから受け取っといて」

 ひきつった顔をしたシーに強引に受け取らせると、ポトフはうん、と頷いた。

 シーは自分の不注意でこんなことをさせられた運送屋の人に、済まない気持ちで一杯になる。だが、今更返しに行っても相手が混乱するだけだろうから、と黙って受けとることにする。ポトフはあんな言い方をしたが、それでもきっと、これは自分のためにやってくれたのだから、と。

 シーがゆっくりと体を起こすと、またずきずきと頭が痛む。それを無視して起き上がると、ぱさり、と頭にあてられていた布が落ちた。

 水で濡らした雑巾だった。

「雑巾……?」

 咄嗟に自分の頭を擦り、その臭いを嗅ぐシー。すんすんと音をたてながら、何度も何度も確認する。

(――セーフだ。腐った鬼牛乳の臭いはしない。大丈夫、黒板のチョークの臭いもしない。だから、大丈夫。余裕のセーフ)

 自分に言い聞かせるようにがくがくと頭を揺らすシーに、慌てた様子でポトフが言った。

「ああ、ごめん! まずは頭を冷やすべきだと思ったんだ、物理的に。けど、こんなときに限って保健室が開いてなくて、そういったものが用意できなくて……。今日は体育も無いからタオルは無いし、ハンカチも持ち歩いてないし……」

 段々と小さくなって行く声。ポトフは本当に済まなそうな顔をしている。

 シーは一方的に助けてもらったてまえ、文句を付けることはできない。いや、実際にこれは効果的なので、どちらかというならば誉めるべきだが、実際問題、ものすごく臭い。

 なんとも中途半端な親切だった。

 しかし、命を救ってもらったのは変わらないのであって。

「うん、まあ、助けていただいて、どうもありがとう」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」

 そうやって丸く収まるのであった。

 その後、ポトフがシーを寝かせるために集めた椅子をもとの位置に戻し、それぞれ自分の席に座って授業開始を待った。

 とは言っても、授業開始まではまだまだ時間がある。先程の事故のせいで大分時間は潰せたが、それでもいまだに一人も生徒を見ていないのだ。部活の朝練をする生徒さえ見ないというのは、今がどれだけ早い時間帯かを簡潔に示しているだろう。

 そんな中、何をするわけでもなく、ただ座っているだけの二人。そうなったら、やることは一つ。

 シーとポトフは、自然と会話を始めた。

 シーがしみじみとした口調で言う。

「今日のは危なかったなぁ。本当に死ぬかと思ったからなあ」

「まったくだよ。何だか『黒い糸』の片鱗を見た気がする。いつもああなの?」

 苦笑いをしながら肯定するポトフ。茶化すようにシーの異名を持ち出して、問いかけた。

 その質問に、指を折りながらシーは記憶を辿る。

「獣車に轢かれそうになったのは……これで八回目かな」

「そんなに?」

「今日のを轢かれたとカウントすると、未遂が五回、実際に轢かれたのが三回、うちクリーンヒットが一回で、回避率六十二・五パーセント。ちょっと落ちたね」

「クリーンヒットって何!? ってか回避率って!」

「六年ぐらい前に鬼牛みたいな召喚獣にやられた。確か全治三ヶ月くらいの軽傷を負ったと思うよ。凄く痛かった」

「それは軽傷とは言わないと思うなうんどこの闘牛士ですかあなたは」

 暗い顔で恐ろしいことを言ってのけるシーに、思わずつっこみを入れてしまうポトフ。四分の一年を費やすような怪我を軽傷と呼ぶのは、どう考えてもおかしい。そのときのことを思い出したのか、シーは右の太股をさすっていた。

 もしもそれがシーにとって軽傷だというのならば、それはシーの感覚が麻痺しているのだろう。

「それにしても、人に助けてもらうのは初めてだよ。今までみーんなぽかんとした顔をして見てるだけだったから。……ポトフはよく間に合ったね」

 感嘆を籠めてシーがそう言うと、ポトフは照れたように頭を掻く。

「いや、たまたまシーに近づいてたから」

「それでも僕は全然気づかなかった。音がしなかったし」

 そう、木の車輪が煉瓦を叩く音は、全くシーには聞こえなかった。召喚獣が音を立てないタイプだったとしても、大抵はそれで気づけるはずなのに。

 そんなシーのアピールにも、冷静に返答するポトフ。

「音はしてたよ。ただ、召喚獣は音を立てなかったし、新しく発明されたっていう車輪を使ってたらしいから、音が普通とは違った。それで勘違いしたんじゃない? 獣車の音がしない、って」

 どうやら、シーが鈍かっただけらしい。

 しかし、ポトフは思った。もしシーが噂通り、年中こんな目に遭っているのならば、それは危険すぎると。

 例え、(普通の人から見れば十分に多いが)命の危険を感じるのが年に一度だとしても、繰り返していればいつか、あたりを引く。シーの言う回避率が九十パーセントでも、十回に一回は死ぬのだ。このままでは遠くないうちに大怪我をするだろうし、実際にこれまでもそれを経験しているのだろう。

 しかし、だからといって何かできるわけでもない。

(たまたまシーが車道を渡っているときに獣車が突っ込んでくるなんて、できすぎてるよ。本当に呪いか何か、かけられてるんじゃないかなぁ……)

 死神がシーに肩車されているところを想像して、ポトフは思わず笑ってしまった。

 そういえば、とシーが声をあげる。

「僕に話しかけようとしてた、って言ったけど、何か用事でもあったの?」

 シーとポトフは二年間同じクラスだからといって、見かけたら駆け寄るような仲ではない。せいぜい挨拶をするくらいだし、それすらしないことも多い。だというのに、今朝はポトフが話しかけようとしたと言う。その用件が何なのか気になったのだ。

 不思議そうに首を傾げるシーに対して、そういえばそうだったとばかりにポトフは頷く。

「ああ、あれねー」

 ポトフは何かを確認するかのようにさらに二、三度頷くと、逆に訊き返した。

「シーとグレイディールのチームのさ、メンバーって今どんな感じ?」

「大会の? それなら今、四人」

「四人! そんなに集まったんだ」

 シーは特に疑問を持つでもなく答える。一方、ポトフはそれを聞いて驚いた顔をしている。

「僕とグレイディールとセリナとハッサン。何だかよく分かんないけど、いつの間にかこんなメンバーに」

「……そう」

 ポトフは何故か渋い顔をして黙り込んでしまった。

 シーもこれが奇妙な人選だとは(と言っても選んだわけではないが)自覚している。なので、ポトフが不思議に思うのも無理はないと思っている。だが、そこまで何かに悩む理由は、さっぱり分からない。

 シーは、ポトフが何かを言い出すまで待つことにした。

 少しの間、ポトフはそれを言い出す勇気が出なかった。しかし、シーがぼんやりとした目で、ただ待ってくれているのを見て決心をする。

「ボクを君たちのチームにいれてほしいんだ」

 ポトフのなんとも意外な言葉に、シーは瞬きを繰り返した。

「え?」

 聞き間違いかと思ってポトフを凝視するが、返ってくるのは至って真剣な眼差し。それが何よりも雄弁に、本気だ、と告げている。

「え?」

「……そうだよね。やっぱり、駄目だよね」

「いやいやそうじゃなくて。僕が言うのもなんだけど意外だなーって思っちゃって。安心して、たぶん大丈夫だと思うから」

 しょんぼりとしながら諦めようとするポトフに、シーは慌てて早口で引き留める。大丈夫だと言いながらも断定しないのは、グレイディールが、シーが想像もできない理由で断る可能性もあり得るからだ。

 シーの言葉を聞いても半信半疑のポトフに、シーは疑問をぶつける。

「理由は……ま、いっか。人それぞれだろうしね。それよりさ、何で断られる前提で訊いてきたの? 簡単には入れない、みたいな雰囲気出てた?」

 シーにはそんな意識は全く無かったし、チームの実状もそうだった。正直な話、入るための条件なんてあって無いようなものだ。恐らく、人数が定員に達していない状態で希望者がいれば、その人に余程の問題がなければほぼ無条件で入れる。ポトフでも問題が無いであろうことは、容易に想像ができた。

 だからこそ、疑問だ。もし、実際に参加しづらい雰囲気を出していたならば、それは多いに問題がある。

 やはり、言いづらそうにだが、ポトフははっきりと答えた。

「リュウホウが、問答無用で断られてたから」

「……あー、うん、なるほど。よく分かった」

 原因は、あっさりと判明した。

 確かに、グレイディールの大演説のとき、リュウホウは真っ先に参加すると言い、グレイディールはそれをはね除けた。その様子はまさに取りつく島も無く、冷酷で無慈悲な加入の拒否だった。それの理由を知らない生徒ならば、敷居が高く感じるのも仕方ないだろう。

 ともあれ、誤解ならば解けば良い。シーはほっとした様子で言う。

「ま、昼休憩にグレイディールに訊いてみて。たぶん歓迎してくれるから」

 ポトフは不安そうに頷いた。

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