01 これより物語が始まります。安全のため、黄色い線の内側までお下がりください。
フィクションです。
「シー、起きろよー」
遠い彼方から呼び掛ける声が、まだ覚醒しきっていないシーの頭蓋に響く。
(眠い。……て言うか、今日は休日だから学校は無いはず。早起きするのは結構なことだけど、なんで僕まで起こそうとしてるのかな)
その愚痴のような言葉、と言うよりただの文句を声には出すことはない。何故ならば、声に出してしまえばはっきりと目が覚めてしまうからだ。昨晩夜更かしをしたわけではないとは言っても、貴重な休日はゆっくりと寝ていたいのだ。
「どうしよう、起きないよー」
男の子の声。
「んー、ほっとけば? 兄貴の分もソーセージが食べれるじゃん」
女の子の声。
「そういうわけにもいかないだろー。……仕方ない。踊るかー」
「やめなさい」
二人が何かを言い合う声が聞こえる。しかし、扉越しの呼びかけであり、他の家族に気を使っていることもあってか、はっきりとは聞こえない。まあ、聞こえたとしても朦朧とした頭では内容を理解することは出来ないだろうが。
「まだ起こしてないの?」
「だって」
「兄貴は無理やり起こすと不機嫌になるじゃん」
更に声の主が一人増えた。女性の声だ。
そうしたことを認識していくうちに、シーの脳味噌はだんだんと活動を始めてしまったようだ。意識がはっきりしていくのを鈍感に感じ取った。
ここまで来てしまえばもう寝ていることは出来ない。いや、二度寝という手段も無いことは無いが、そんなことをする気にはならなかった。日光によって霧が溶けるように加速度的に意識が覚醒して行く。穏やかで緩やかな、至福の時間にも終わりは来た。
「先に食べちゃいましょう。シー、先に下りてるからさっさと起きなさいよ。朝ごはん、無くなるわよ」
そろそろ、起きなければいけない。
部屋の扉が閉まる音がする。三人とも下の階へ下りたようだ。
(……起きるか)
シーはもそもそと体を起こした。
目がさめたとは言っても、まだ体は重い。頭も芯に鉛が入っているかのようだ。
ふと、右手の人差し指が目に入る。いや、正確には、人差し指に二重に巻かれている紐が、だ。
シーはその紐をそっと手で撫ぜると、よし、と気合を入れた。
「今日も頑張ろう」