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十七年凍っていた王子を蘇らせたら、「今度は俺が君を温める」と言われました(17koy)

掲載日:2026/09/21

依頼書には一行だけ、数字があった。

《深度Ⅴ・十七年》

メアは二度読んだ。

「成功例、ないですよね」

王都から来た使者は頷いた。

「それでも王妃陛下は、あなたに頼みたいと」

師匠ヤロウが亡くなって三か月。

十八歳のメアは、辺境の小さな工房を一人で守っていた。

深度Ⅴ。

十七年。

封印されたのは第一王子クレイス。

六歳のとき、王宮の謀反に巻き込まれた。

「解かせば死ぬかもしれない」

使者は言った。

「解かさなければ?」

「このままです」

メアは依頼書を畳んだ。

「行きます」

*

翌日の朝、エルダ王妃が封印室に来た。

五十代の女性だった。静かな顔をしていた。感情を表に出さない雰囲気ではなく、感情が深すぎて外に出てこない感じ。こういう顔を、メアは知っていた。師匠ヤロウが病で弱っていく間、毎日看ていた自分の顔に似ていると思った。

王妃はまず息子の封印に手を当てた。長い間、当てていた。それからメアを振り返った。

「ヤロウ師に会ったことがあります。十年前に」

「そうですか」

「あの方は「この封印を解かせるのは、私の弟子になる」と言っていた。あなたがその方ですか」

「……そう言われています。でも、確信はありません」

「正直な方ですね」

「嘘をついても、意味がないので」

王妃が顔が変わった。笑いではなかったが、何かが緩んだ。

「一つ、聞いていいですか」とメアは言った。「……解かすことを、なぜ今まで続けてきたんですか。十七年間」

「続けることと、諦めることの、どちらが怖いかを考えてきました。諦める方が怖かった」

メアはその言葉を、聞いた。

「……今も怖いですか」

「今は、違う種類の怖さがあります。解かしたら死ぬかもしれない。でも解かさなければ、絶対に消える。どちらも怖い。でも、解かす方を選びます」

メアは封印の結晶を見た。

「……やります。全力でやります」

「ありがとう」と王妃は言った。「メア。あなたが来てくれて、よかった」

*

施術の前に、リアとの打ち合わせがあった。

テーブルを挟んで向かいに座り、リアが封印の詳細を説明した。深度Ⅴがどのような状態か、十七年でどのように変化したか、自壊までの残り時間。メアは全部メモした。

説明が終わって、リアが言った。

「施術の手順を教えてください。確認したい」

「最初の三日間は準備加温です。封印の外側から温度を上げながら、中の生命波を探ります。生命波が確認できたら、その周波数に合わせて波を送り込む。生命波を確認した後、核心部に向けて波を送る」

「生命波の確認は、できるんですか。十七年、誰も感知できていない」

「昨日、手を当てたとき、生命波を感じました」

リアが止まった。

「……感知した、とおっしゃいましたか」

「ほんの少しです。でも、あります。生命波がゼロではない」

リアはメアを見た。

「……確かめさせてください。あなたが感知した生命波の周波数を、計測器で確認します」

封印室に戻って、メアが結晶に両手を当てた。感覚を探った。昨日感じたもの。子供の振動みたいな波。

ある。まだある。

リアが持ってきた計測器を結晶に当てた。数字が出た。リアの顔が変わった。

「……数値が出た。数値が出た。生命波の反応がある」

「わかっていただけましたか」

「……はい」とリアは言った。「私は十年間、感知できなかった。あなたは初日に感知した」

またしばらく沈黙。

「……信じます」とリアが言った。「施術を始めてください」

*

夜、一人で封印室にいるとき、メアは結晶の前に椅子を置いて座った。

ヤロウが言っていたことを思い出した。「クリオ術師は、封印された者と対話しながら解かす。術だけではなく、存在として関わることが大切だ」

対話。でも相手は封印されている。言葉は届かないかもしれない。でも、生命波は届くかもしれない。

メアは結晶に手を当てた。

「クレイス。私はメア・フロストといいます。あなたを解かしに来ました」

返事は来なかった。当然だ。でも、言った。

「怖いかもしれないけど、時間をかけてやります。急がない。でも確実に」

氷は冷たかった。でも、その中に生命波がある。生命波はゼロではなかった。

それだけで、十分だと思った。

*

施術が始まって、一週間が経った。

毎日、朝と夕方の二回、封印室でメアは施術を行った。準備加温の段階は、封印に直接触れずに、周囲の温度を少しずつ上げながら生命波を探る作業だ。地味で、成果がすぐには見えない。でも、毎日少しずつ変化していた。

生命波の反応が、少しずつ強くなっていた。

五日目の夕方、施術中に初めて「映像」が来た。

目を閉じて生命波を送り込んでいたとき、突然、視野の端に何かが見えた気がした。色。光。

それから、小さな手。子供の手が、何かをつかもうとしている。

メアは施術を続けながら、その感覚に意識を向けた。押しつけるのではなく、ただ、受け取るように。

映像が来た。断片的な。

青い空。走っている。風が強い。誰かの声。笑い声。子供の笑い声が複数。それから暗くなって、終わった。

施術が終わって、メアは座り込んだ。疲れが来た。今日は、クレイスの記憶の断片が来た。

リアが来た。

「顔色が悪い」

「施術後に座り込むくらい消耗しました。大丈夫です」

「……施術中、何かありましたか」

メアは考えた。

「クレイスの記憶の断片みたいなものが、来ました。映像として。子供の頃の。空と、誰かの声と、笑い声」

「それは……」

「生命波が強くなっている証拠だと思います。クリオ術師が深い封印に触れると、対象の記憶に共鳴することがある、とヤロウ師に教わっていました。今日、初めて経験しました」

リアがメアを見た。最初の日より、少し違う目で。

「……続けてください」

「はい」

*

施術の二週間目、王妃が夜に来た。

メアが施術を終えて、封印室で記録をつけているとき、扉が開いた。王妃は一人だった。護衛もなく、静かに入ってきた。

「邪魔をするつもりではありません。ただ……時々、夜にここに来るので」

「構いません。一緒にいてください」

王妃が結晶の傍に座った。メアも座った。二人で封印を見ていた。

「クレイスはどんな子でしたか」とメアが聞いた。「……活発な子でした。走るのが好きで、騎士に憧れていた。六歳なのに、剣の練習をしたいと言って」

「封印の日の前、何か変わったことはありましたか」

「あの日は、何もありませんでした。普通の夜だった。夕食を食べて、私が寝かしつけて。それから謀反が起きた。夜中に。クレイスの部屋に暗殺者が来た」

メアは黙って聞いた。

「騎士のカルスが守ってくれた。体を張って。でも状況が悪くなって、クリオ術師を呼んで……封印にするしかなかった。あの子は、怖かったと思う。でも、泣かなかった。カルスが「眠れ」と言って、あの子が頷いて」

「カルスという騎士は、今も」

「……五年後に戦いで亡くなりました。あの子が封印されて、五年後に」

長い沈黙があった。

「……クレイスは、カルスが来ると思っているかもしれません」とメアは言った。「「眠れ、必ず迎えに来る」と言ったなら」

「そうだと思います。あの子が封印の中で意識があるなら、待っているかもしれない」

「……カルスはもういない、ということを、起こした後に伝えなければなりません」

「それが、辛い。でも、伝えなければならない」

メアは王妃を見た。十七年間、息子の封印の前で、そのことを抱えてきた人の顔だった。

「……私が一緒にいます。伝えるとき」

王妃がメアを見た。それから静かに「ありがとう」と言った。

*

三週間目に入ると、施術中の映像が毎回来るようになった。

毎日違う断片だった。青空の日。廊下を走る日。食堂での食事の場面。そして何度も繰り返すのは、ある一人の人物との場面だった。大きな男の人。騎士の服を着ている。その人が六歳のクレイスに何かを教えている。剣の持ち方。馬の乗り方。笑い声が多い場面だった。

カルスだ、とメアは思った。

最も多く来た映像は、夜のものだった。暗い部屋。物音。恐怖。走ってくる足音。カルスが扉を開けて、クレイスを抱え上げる。廊下を走る。どこかへ向かいながら、カルスが言う。

「大丈夫だ。俺がいる」

その場面を、メアは何度も経験した。施術中に、クレイスの目で見た。カルスの顔が、下から見上げた角度で見えた。大きくて、温かくて、怖くない顔。

施術が終わった後、メアは泣いていた。

気づいたらそうなっていた。意識して泣いたわけではなかった。でも、涙が出ていた。

リアが来て、メアの顔を見た。何も言わなかった。ただ、お茶を持ってきて、横に置いた。

「……ありがとうございます」とメアは言った。「施術中に、何かを感じたんですか」

「……クレイスの記憶を、また見ました。カルスという騎士の場面を」

リアが止まった。

「カルスのことを、知っているんですか」

「王妃から少し。あとは、記憶の断片から。あの騎士は、クレイスにとって特別な人だったんですね」

「……私がここに来た頃、カルスのことを聞きました。クレイス様を守った後、五年間は封印の前で毎日誓いを立てていたそうです。「必ず迎えに来る、と言った。その言葉を果たすまで生きる」と」

「……それでも、亡くなった」

「戦場で。自分の意志ではどうにもできない場所で」

メアはお茶を飲んだ。温かかった。

「……クレイスを起こしたら、伝えなければならない。カルスはもう来られない、と」

「はい」

「それを伝えた後、クレイスがどうなるか、怖いです」

「……私も怖い」とリアが言った。「でも、それを言ったのはあなたが初めてです。今まで話し合いでも、誰も怖いと言わなかった」

「怖いと言った方がいいんですか」

「……あなたが怖いと言ったことで、私も怖いと言えた気がします」

メアはリアを見た。初日に「期待していません」と言ったリアが、今は「私も怖い」と言った。

*

一ヶ月が経った頃、施術の段階が変わった。

準備加温が終わり、「深層加温」が始まった。封印の中心部に向けて、生命波を直接送り込む段階だ。最初の深層施術は三時間かかり、メアは終わった後、椅子から立てなかった。リアが気づき、部屋まで送ってくれた。

翌朝、王妃が来た。

「顔色が悪い。無理をしていませんか」

「施術の段階が変わったので、しばらく慣れるまでこうです」

「……休んでもいいんですよ。三ヶ月まで、まだ時間があります」

「休むより、続けた方がいい。毎日少しずつの方が、急ぐより安全です」

王妃は間を置いた。

「……クレイスが起きたら、何を最初に食べさせようか、ずっと考えているんです」

メアは笑った。

「どんなものが好きだったんですか」

「甘いものが好きで。特に、林檎を蜂蜜で煮たものが大好きだった。今の季節は林檎が出ています」

「じゃあ、今から作り始めてもいいですね」

王妃がまた、感情が緩んだような顔をした。

「……そうですね。準備しておきましょう」

メアはその言葉が、王妃にとってどれだけの意味を持つか、少しだけわかった気がした。

*

二ヶ月目の後半、施術中の感触が変わった。

深層に送り込んだ生命波が、「何かに当たる」感覚があった。壁ではなく、もっと柔らかいもの。圧縮されて、凝縮されて、でも消えていない何かに。

「核心部に近づいている」とメアは思った。その夜の施術後、メアはリアに言った。「来週、最終施術を行います」

「……最終施術、とは」

「核心部への直接介入。封印の中心にある、クレイスの意識の残核に触れます。それが成功すれば、封印が崩壊を始める」

「崩壊、ということは」

「氷が溶ける。クレイスの体が戻ってくる。でも、その過程で生命活動が再開されなければ、消える」

リアが黙った。

「……術師への負担は」

「大きいです。核心部への介入は、今まで以上の消耗があります。私の生命波がある程度削れることは、覚悟しています」

「……どのくらい」

「わかりません。でも、準備は十分しました。あとは、やるだけです」

リアはメアを見た。

「……私に、できることはありますか」

「施術中、傍にいてください。私が倒れそうになったら、支えてください。それだけで十分です」

「……わかりました。必ずいます」

*

最終施術の前の夜、メアは師匠の手紙を読んだ。

ヤロウが亡くなる一週間前に書いた手紙だった。「深度Ⅴの依頼が来たとき、必ず読むように」と言われていた。封筒を開けた。

「メア。お前には伝えるべきことがある。クリオ術師が核心部に触れると、対象の意識と一時的に交信できることがある。めったに起きないが、深い封印ほど起きやすい。もし交信が起きたら、怖がるな。そのまま、言葉を交わせ。それが蘇生の最後の鍵になる。術師が交信を恐れて離れると、核心が閉じる。閉じたら、もう開かない。だから、交信が来たら、応えろ。お前なら、できる」

メアは手紙を折り畳んだ。枕元に置いた。

眠れると思っていなかったが、眠れた。

*

最終施術は、翌朝から始まった。

封印室に、メアとリアと、途中から王妃も来た。三人で、封印の前に集まった。

メアは結晶に両手を当てた。今日は全力で行く。今まで少しずつ積み上げてきた全部を、今日使う。

生命波を送り込んだ。

深く。今まで届いたことのない深さに。層を越えて、越えて、越えて。封印の氷が、内側から少しずつ変化していくのを感じた。微かに、温度が変わっていく。

核心部に触れた。

「何かに触れた」という感覚とは違った。「誰かに触れた」という感覚だった。意識の断片。凝縮されて、縮まって、でも消えていない。六歳の意識が、十七年間、この場所にあった。交信が、来た。「誰かいるか」

声ではなかった。振動だった。でも、メアには言葉として届いた。

「います」とメアは答えた。声を出したかどうかわからなかったが、生命波に乗せて答えた。「来ました」

「……カルスか?」

メアの胸が、痛くなった。

「違います。私はメアといいます。カルスは……今は来られないけど、あなたを解かしに来ました」

間があった。

「……メア」

「そうです」

「……怖い」

「知っています。でも、私がいます。離れません」

また間があった。長い間。メアは離れなかった。核心部への接触を維持し続けた。消耗が来ていた。頭が重くなってきた。でも、離れなかった。

「……眠いのか」と意識が問いかけてきた。「眠くない。起きています」

「……俺も、起きていていいか」

「はい。起きていてください」

封印の結晶が、動いた。

最初は微かだった。でも、核心部から何かが広がっていくのがわかった。封印が崩壊を始めていた。氷の内側から、ひびが入り始めた。

その瞬間、メアの生命波が急激に低下した。

「メア!」とリアが叫んだ。メアが傾いた。リアが支えた。「離すな」とメアは言った。「まだ、離すな」

王妃が封印の前に進んだ。結晶に手を当てた。「クレイス!」と叫んだ。「クレイス、出ておいで!」

封印が、崩れた。

音がした。氷が割れる音。光が散った。冷たい霧が広がった。

リアがメアを支えたまま、前を見た。

霧の中に、人が立っていた。

二十三歳の体をした、青年だった。目を閉じていた。足がふらついていた。それでも、彼は自分の足で立っている。

「クレイス」と王妃が言った。声が割れていた。青年が目を開けた。視線が動いた。部屋の中を見た。王妃を見た。次に、視線をリアへ移した。それから、リアに支えられているメアを見た。最初に言った言葉は、「メア?」だった。メアは笑った。「そうです。来ました」

「……お母さん」

王妃が、初めて泣いた。

*

クレイスが目覚めて、最初の三日間は医術師がつきっきりだった。

体の状態を確認し、十七年眠っていた筋肉を少しずつ動かす練習をし、食事を少しずつ始めた。最初は水だけ。それから粥。メアはその間、別の部屋で休んでいた。生命波の消耗が大きく、歩くのも辛かった。リアが毎日状態を確認しに来た。

四日目の朝、クレイスが「メアに会いたい」と言ったとリアが伝えた。

「会いに行きます」とメアは言って、部屋を出た。クレイスの部屋は、封印室から遠い場所にあった。廊下を歩いて、扉をノックした。「どうぞ」という声がした。声は、封印の中で届いたものより少し低かった。二十三歳の身体から出る声だ。自分の出来事として覚えている時間は六歳で途切れている。それでも、言葉の理解や判断まで六歳に戻ったわけではない。扉を開けると、クレイスがベッドに座っていた。目が合った。青い目だった。封印の中で見た映像では、子供の顔だった。でも今は二十三歳の顔で、同じ青い目がこちらを見ていた。「……メアか」

「はい。メア・フロストです」

「俺を解かした」

「はい」

クレイスはメアを見た。それから自分の手を見た。

「……大きくなっている」と彼は言った。「手が」

「十七年分、体は成長していたようです。でも記憶は六歳のまま、と医術師が言っていました」

「……俺の記憶は、六歳で止まっているのか」

「自分の出来事として覚えているのは、そこまでです。でも、理解する力まで六歳に戻ったわけではありません。十七年分は、これから知っていけばいい」

クレイスが窓を見た。外に空が見えた。

「……カルスは」

メアは間を置いた。

「……来られませんでした。五年前に、戦場で。ごめんなさい」

クレイスは何も言わなかった。しばらく、窓の外を見ていた。

メアはその沈黙の中に、何も言えなかった。何かを言うべきかとも思ったが、この沈黙には入らない方がいい気がした。

長い間が過ぎた。

「……俺を待っていてくれたか」とクレイスが言った。「お母さんは」

「毎日、封印室に来ていました。十七年間」

また沈黙。

「……カルスは、来ると言った。でも来なかった」

「はい」

「俺は信じて待っていた」

「知っています」

「でも、来なかった」

「……代わりに、私が来ました。カルスの代わりにはなれない。でも、来ました」

クレイスがメアを見た。

「……お前が来た」

「はい」

また沈黙。でも、さっきより少し、軽い沈黙だった。

*

二週間が過ぎて、クレイスは廊下を歩き、食堂で食事をし、一人で着替えられるようになった。一つずつ、体の使い方を確かめながら。

メアもその頃には、歩けるようになっていた。生命波の回復は遅かったが、少しずつ戻ってきていた。

廊下を歩いていて、クレイスが段差でつまずきそうになった場面があった。メアが黙って腕を差し伸べた。クレイスが掴んだ。「十七年ぶりに歩くんです。つまずくのが普通です」とメアが答えた。その言い方が優しかったから、クレイスは少しの間、メアの腕を離さなかった。

ある夕方、廊下でクレイスとばったり会った。

「どこへ行くんだ」とクレイスが聞いた。「封印室です。クリオ結晶の後処理があるので」

「……ついていっていいか」

メアは驚いた。

「怖くないですか」

「怖い。でも、見ておきたい」

ふたりで封印室に行った。

扉を開けると、封印室はひんやりしていたが、もう霜がなかった。結晶が崩れた後の残骸が、少し残っていたが、ほとんど処理済みだった。

クレイスが部屋の中央に立った。何もない場所。十七年間、自分がいた場所。

しばらく、そこに立っていた。メアは遠くに立って、何も言わなかった。

「……長かったか」とクレイスが言った。「俺は、ちっとも長く感じなかったが」

「十七年は、長いです」

「外では、十七年分のことがあったんだろう」

「はい。十七年分です」

「……一つずつ、知っていく」

「いい方法だと思います」

クレイスがメアを見た。

「お前は、どのくらい王宮にいる」

「後処理が終われば、辺境に戻ります。工房があるので」

「……いつ?」

「もう少し。生命波が戻れば」

クレイスは部屋の中央から動かなかった。

「……お前がいなくなると、寂しい」

メアは笑った。

「会いに来てください。辺境まで」

「王子が辺境に行けるのか」

「行けないことはないと思います」

クレイスが考えた。

「……行く」

その言葉が、メアには少し、温かく聞こえた。

*

春。

庭に花が咲いた。

クレイスは王宮の生活へ戻り、メアも生命波を回復させていた。

二人で花を見ていると、風が通った。

メアは無意識に両手を擦る。

クレイスが気づいた。

「冷たいのか」

「少しだけ」

彼は迷ってから、メアの手を両手で包んだ。

「殿下?」

「十七年分の氷を解かしたのは、お前だろう」

「施術したのは三か月ほどです」

「十分だ」

「それは計算が違います」

「細かいな」

クレイスの手は温かかった。

「今度は、俺が君を温める番でいいか」

メアは答えなかった。

包まれた手の力を抜く。

それで十分伝わったらしい。

クレイスは離さない。

春の風がまた吹いた。

もう氷はない。

メアの生命波が、温かく揺れた。

了



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